年代・ジャンルを問わない幅広い楽曲チョイスが光る!
普段バンドをやっている私ですが、DJとしてイベントに呼んでもらうこともあり、選曲にあたって何を考えるかというと、その日がどういう日なのか出来るだけ調べるというのが主です。例えば結婚式だとしたら本人はどういう音楽が好きなのかとか、どういう人が来そうかとか、会場の雰囲気や設備はどんな感じか……などなど、できるだけ具体的にイメージします。
気概はあるが空回り気味のジャーナリスト、フレッド(セス・ローゲン)と、米国務長官で次期大統領候補のシャーロット(シャーリーズ・セロン)が、お互いの立場を超えた関係に発展していく『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』は、音楽のトピックがとても豊富なロマンティック・コメディでした。
本作は、こういったシチュエーションにはこの音楽、というセレクトを丁寧にこなしながら、物語を進める上で音楽に大きな役割を担わせる意図を強く感じる作りになっていました。アメリカのものごとに興味があればあるほど、楽曲が持つ背景によって各シーンが楽しめる構造になっていると思います。
選曲を交えたユーモアも盛りだくさんで、日本では馴染みが薄いものの、アメリカ~カナダに住む人たちにとっては日常の“あるあるネタ”的なトピックも盛り込まれているのでしょう。私が気づけていない部分もきっと沢山あると思うので、詳しい人に全て解説してほしいくらいです。
劇中では、ザ・クリスタルズやアレサ・フランクリン、キャメオやザ・キュアー、ブルース・スプリングスティーン、フランク・オーシャンなど年代もムードも幅広い選曲が楽しめますが、ボーイズⅡメンやリル・ヨッティに至っては本人が劇中に登場。主人公2人の心がすれ違うシーンで流れるのが、『プリティ・ウーマン』(1990年)のクライマックスでも使用されたロクセットの「It Must Have Been Love」だったりと、音楽がニクい演出に何役も買っています。
音楽/カルチャーへの知識と愛が爆発した奥深いロマコメ
主人公の記者フラッドを演じるセス・ローゲンはコメディアンとしてデビューし、今では俳優だけでなく監督、脚本まで手掛ける才人。私もセスの作品が大好きですが、友人たちと話していてもフェイバリット作品によく挙がる『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年)の脚本に関わっていると知ったときは驚きつつ、なんだか納得しました。
本作では親友のランス役に、オシェア・ジャクソン・Jr(あのアイス・キューブの息子で、N.W.Aの伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』[2015年]ではキューブ役を演じた)を起用。セスは82年生まれの37歳、オシェアは91年生まれの28歳ですが、映画を見れば選曲だけでなく、配役にも必然性を感じられるのではないでしょうか。
こういった細部にわたるユーモアは、とにかく膨大な知識と愛情が為せる業だなと思っていて、よくあるロマンティック・コメディの体裁をとりつつ、細部まで見ている者を楽しませようという気持ちが行き渡っている面白い映画だと思いました。そして、シャーリーズ・セロンとセスの意外な相性の良さにも要注目です。
文:川辺素
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』は2020年1月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
アメリカの国務長官として活躍する才色兼備なシャーロット・フィールドは、大統領選への出馬を目前としていた。そんなある日、シャーロットが出会ったのは、ジャーナリストのフレッド・フラスキー。才能はあるものの、頑固な性格があだとなり、職を失ってしまう。一見、接点もなく正反対な2人だったが、シャーロットはフレッドにとって、初恋の人だったのだ。予想外の再会を果たした2人は、思い出話に花を咲かせる。その後、シャーロットは若き日の自分をよく知るフレッドに、大統領選挙のスピーチ原稿作りを依頼。原稿を書き進めるうちに、いつしか惹かれ合っていく2人。しかし、越えなければならない高いハードルがいくつも待ち受けることに……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年1月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー