取り壊しが決まった街で建物を壊して撮影! 迫力の戦争スペクタクル『レマゲン鉄橋』
第二次世界大戦におけるドイツ降伏の2か月前、「西欧最大の軍事的障害」ライン河をめぐるアメリカ軍とドイツ軍の攻防戦を描いた『レマゲン鉄橋』(1968年)は、戦争スペクタクルの知られざる名作です。
とにかく、大量の兵器・人間・建物がスクリーンに展開して戦闘シーンと人間ドラマを繰り広げます。もちろん“超大作”にはおよびませんが、それでもCGが普及している今日では考えられない贅沢さです。
撮影の大半は、取り壊しが決まっていたチェコスロバキアの町で実施。だからもう、壊すこと壊すこと。アメリカ軍の砲爆撃を浴びた(という設定の)本物の煉瓦作りの建物が、爆煙と共にガラガラと崩壊するさまは迫力満点です。B-25爆撃機による鉄橋爆撃では、本当に爆弾(もちろんダミーですが)が降ってきて、パニックになった避難民が鉄橋から爆発の水柱が上がる川に落下するなど、「これ、安全性は大丈夫なのか」と観ていて心配になるシーンも……。
史実とドラマの見事な調和
登場するアメリカ軍の戦車は、第二次世界大戦末期に実戦投入されたM24軽戦車です。75㎜軽量砲を搭載したこのM24は、戦後には日本の陸上自衛隊にも供与され、手頃なサイズと機械的信頼性の高さから陸自隊員にも好評だったそうです。
将兵の軍装再現はイマイチなところもありますが、冒頭の農家での戦闘シーンでは、ドイツ兵が使うパンツァーファウストから本当に弾頭が発射されています。字幕では「対戦車砲(セリフでは「Antitank shell」=対戦車弾)」となっているこのパンツァーファウストは、現在のRPG7の始祖と言える使い捨て式の対戦車擲弾発射無反動砲(いわゆるロケットランチャー)で、アメリカ映画で描かれるのはとても珍しい一品なので目に焼きつけましょう。
アンジェロ軍曹(ベン・ギャザラ)がドイツ兵の遺体から戦利品を漁る、ある意味でリアルな場面も、当時としては希有な描写です。ちなみに下の写真の向かって左側、アンジェロ軍曹はドイツのMP40サブマシンガンを使っていますが、これも戦利品なのでしょう。
戦闘場面の追加や人物像に脚色はありますが、物語はおおむね史実通りに展開します。ヒトラーの恐怖独裁で雁字搦めとなり、かつ物資・戦力不足(冒頭の負傷兵のほとんどが少年と壮年なのに注目)で“死に体”のドイツ軍にあって、将校としての義務を果たそうとする者、上層部の作戦判断と功名心に反発するアメリカ軍兵士など、見所たっぷりです。
最後に、レマゲンの町に架かるこの橋の名前は「ルーデンドルフ鉄道橋」です。なので原題も『THE BRIDGE AT REMAGEN』=「レマゲンの橋」となっています。
独ソ軍による狙撃兵対決を描く!『スターリングラード』
同作の舞台はタイトル通り、ドイツ軍とソ連軍が凄惨な市街戦を繰り広げた(1942年~1943年)ヴォルガ河河畔の都市、スターリングラード(現ヴォルゴグラード)。緒戦期の砲爆撃によって町は廃墟と化してしまったため、戦車や機械化歩兵による機動戦は不可能です。そこで廃墟のビルひとつ、ガレキの山ひとつをめぐり、小火器や火炎放射器、爆薬を手にした歩兵同士の血なまぐさい争奪戦が戦われたのです。
もうひとつの特徴が、狙撃兵の活躍でした。廃墟が連なる都市は、隠れ場所が無数にあるという点で、ジャングルや起伏のある荒野と同じです。そこで独ソ両軍とも狙撃兵を投入したのです。映画は、257名のドイツ兵を倒したとされる、実在のソ連軍狙撃兵ヴァシリ・ザイツェフ(ジュード・ロウ)を中心に進みます。ただしソ連軍が喧伝した257名の戦果、そしてドイツ軍狙撃兵ケーニッヒ少佐(エド・ハリス)との対決は、士気を鼓舞するための創作と考えられています(狙撃兵として活躍したのは事実)。
本作で圧巻なのは、イントロの、武器も満足に持たないソ連兵がドイツ軍防御陣地に突撃させられるシーンです。後退してきたソ連兵を督戦隊が機関銃で容赦なく射殺する(実話)シーンは、ソ連という国家の冷酷さを見事に表現しているのです。
21世紀にグリーンベレーが馬に乗る⁉『ホース・ソルジャー』
9・11同時多発テロの直後、アフガニスタン山岳地帯に馬で乗り込んでいくグリーンベレー隊員の活躍を描く『ホース・ソルジャー』(2017年)もまた、実話ベースの作品。
この21世紀にアメリカ軍が馬? と思われるでしょうが、アフガン山中には自動車のための道路網や燃料・部品供給といったインフラがないんですね。そこで武装勢力にならって馬に乗ることになったわけです。
一騎当千のワンマン・アーミー的なイメージのあるグリーンベレーですが、実は外国軍や武装勢力への軍事訓練が主任務です。ですから、ここで描かれるドスタム将軍らの北部同盟を火力支援するネルソン大尉(クリス・ヘムズワース)の任務こそが、グリーンベレーなのです。映画では、このネルソン大尉とドスタム将軍との間に育まれていく友情が物語の縦軸となっています。
横軸はもちろん、戦闘シーンです。史実でも、ネルソン大尉らは上空を飛ぶB-52H爆撃機に目標座標を伝えてGPS誘導爆弾やレーザー誘導爆弾でタリバン陣地を爆撃させるのですが、この描写が軍事考証的に甘いのが少し残念なところ。
一方の地上戦も、派手な爆発と近距離での銃撃戦、スピード感あふれる騎馬突撃といった映画的迫力重視となっています。『ホース・ソルジャー』は、ハリウッド的娯楽アクションの典型と言えるでしょう。
文:大久保義信