秘密結社の儀式を映像化した作品の頂点
銀残しのテクニックで彩度を落とし独特なホラー、サスペンス感を出したデヴィッド・フィンチャーの『セブン』のアーティーな映像(どちらかというとフィンチャーというよりスピルバーグの『ミュンヘン』ですが)とケン・ラッセルの『肉体の悪魔』の美術監督デレク・ジャーマンの狂気を足したような映画でした。
秘密結社の儀式を映像化した作品は色々ありましたが、その頂点を極めたのではないでしょうか。
舞台をオリジナル『サスペリア』と同じドイツにしながらも、社会主義に取り囲まれ、ナチの負債を背負った陸の孤島ベルリン、しかもバーダー・マインホフことドイツ赤軍がテロをしまくり、そのメンバーが刑務所の中で政府によって殺されたのか自殺したのか分からないという、組織の恐怖と陰謀が渦巻く世界に状況に変え、男女混合のバレエ団を女性だけの舞踏団にすることで謎と恐怖とリアルさが500%増していました。
謎が謎を生んでいく無理ある設定も、六幕+エピローグのように細かく分け、ネット配信ドラマのようになんとなく納得させてしまう雰囲気に持っていっていたのも上手いと思いました。
今作を観て先に挙げた映画以上に一番似ているなと思ったのはNetflixの『The OA』です。『サスペリア』は舞踏によって魔女と繋がろうとしますが、『The OA』は舞踏によって奇跡を起こそうとするんです。両者とも同じようなコンテンポラリー・ダンスです。
もちろん謎はすごい残っていて、ありゃなんだと思うんですけど、そんな謎を観終わった後にみんなで色々と話せるのもオカルト映画の楽しみですよね。僕も最後にネタバレ&僕の妄想を書きましたので、興味がある方は読んでみてください。
儀式終わったら、そりゃ片付けるよな(笑)
キューブリックの『アイズ ワイド シャット』とかこういう映画って“あの儀式は本当の儀式をちゃんと再現している”とか色々言われるんですけど、本作は儀式が終わった後の様子もちゃんと描かれていて、「そりゃ片付けるよな」と笑ってしまいました。このことからルカ・グァダニーノ監督は秘密結社とか陰謀論とか信じていないんだろうなと安心しました。
だめだ、ホラー映画のレビューなんだから、“誰も目にしてはいけない魔女の儀式を初めて映像化したルカ・グァダニーノはきっとこの後不慮の死をとげるだろう”とか映画オカルトの怖さを煽るようなことを書かないといけないのに、普通のことを書いてしまいます。
でも、本当に最後の儀式は怖いです。
それだけで観る価値ありです。
オリジナルはトラウマ映画、ゴブリンの音楽で恐怖が渦巻く
しかし『君の名前で僕を呼んで』の監督がなんで『サスペリア』のような映画のリメイクを撮ったんですかね。
ホラー映画のカルト・クラシックを“なんであんな映画のリメイクを撮ったんだ”なんて書いてシネフィルから殺されてしまいそうです。
監督のトラウマ映画だったのですかね。
僕にはオリジナルの『サスペリア』は子供の時のトラウマ映画です。今もゴブリンの音楽を聴くだけで、恐怖が渦巻いてきます。僕はビビりだったので「決して、ひとりでは見ないでください」という宣伝コピーのとおり今まで観たことがなかったのですが、ついに観ました。赤や青の照明、秘密結社なシンボルにデコレーションされたカラフルなペドロ・アルモドバルのような美術セットに驚きました。かつてTVでちょっと観た時(観たいけど、怖いからすぐにチャンネルを変えてました)の印象と後からの情報を足していくとイタリアのチープな映画と思ってたんですけど、スピルバーグのあの照明はオリジナル『サスペリア』に影響されたのかと思ってしまいました。
ダリオ・アルジェントはオリジナル『サスペリア』を作るとき、撮影監督のルチアーノ・トヴォリにディズニー・アニメーションの感じを実写でやったらどうなるかやってみようと指示を出したそうです。これと女性の花園のバレエ団の世界とが組み合わさって、日本の少女漫画に多大な影響を与え、吉本ばななに「作家になろうと思ったのは『サスペリア』を観たから」とまで言わせてしまう傑作となったのでしょう。
しかし、まさか、オリジナル『サスペリア』が世界的にも影響を与えていたとはびっくりだったのですが、ルカ・グァダニーノは別にオリジナル『サスペリア』の世界観が好きとかそういうことではなく、誰も映像にしたがらないものを映像にしようというダリオ・アルジェントの冒険心に子供の頃から共感していたそうです。
リメイク版の音楽はトム・ヨーク(レディオヘッド)
今回音楽を担当したレディオヘッドのトム・ヨークもオリジナル『サスペリア』に全然興味はなく、監督に無理やりやってくれと頼まれたそうです。『ファイト・クラブ』のサントラを懇願された時は、傑作<OKコンピューター>を作った後で精魂疲れ果て断った男が、一番最初の映画音楽が『サスペリア』のリメイクでいいのかという気もしますが、でも、なんとなく、色々な人が集まってこんなすごい映画を撮ってしまうのは不思議というか、これこそ魔術だと思ってしまうのは僕だけでしょうか。そして、きっとこの映画を観た人はトラウマになって、またとんでもない映画を作っていくことでしょう。
僕の妄想&ネタバレ
最後にこれは僕の妄想&ネタバレだと思うので、読みたくない人は読まないでください。
魔女の生贄にさせられようとした主人公が何者になったかというと神様になったと思うのですが、どうでしょう。悪魔でもいいんですけど、エピローグで奥さんを助けることが出来なかった精神科医のお爺さんの罪悪感を消してあげたりするので、悪魔ではないと思います。魔女を復活させようとしたら、神様が降りてきて、神様はとっても残酷だったというオチなのかなと。どうでしょう。
文:久保憲司
『サスペリア』は2019年1月25日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
『サスペリア』
超名門舞踊団「マルコス・ダンス・カンパニー」に入団したスージーは、カンパニーに潜む、恐ろしく邪悪な「何か」の存在におびえる。やがて「それ」は仲間を1人、また1人と殺していく―。カルトホラーの傑作、想像を超えた最恐のリメイクが結実。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
脚本: | |
音楽: | |
出演: |