あのころ、僕らはみんなハイスタに夢中だった
Hi-STANDARD、通称・ハイスタ。ちょっと“激しめ”の音楽好きならば、誰しも一度はその名を聞いたことがあるだろう。激動の1990年代を文字通り駆け抜けた、伝説のメロディック・パンクバンドである。
ここ数年で非常に多くの音楽ドキュメンタリー映画が日本でも観られるようになった。それこそハイスタが影響を受けた往年のパンクバンドや、海外のインディーズシーンを題材にしたマニアックな作品もある。しかし、我々により身近な存在であるハイスタに迫った『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』こそ、いま観るべき音楽ドキュメンタリー映画としてオススメしたい。
ハイスタが誕生したのは、いわゆる小室ファミリーに代表される女性シンガーや青春系ロックバンドが多くの若者の支持を得ていた90年代初頭。もちろん当時は英語詞のパンクバンドなんて一般には見向きもされなかったが、わずか数年で状況は一変する。ハイスタが日本の音楽業界の常識を覆す新たなムーブメントの旗手となったのだ。
この『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』は、そんなハイスタの結成から世界規模のブレイク、そして活動休止から劇的な再集結までを追ったドキュメンタリー映画である。基本的には、メンバー3人がバンドの変遷を振り返るインタビューと、ライブの舞台袖やツアー同行時の貴重な映像から構成されているが、それは「偉大なバンドの栄光の軌跡を辿る……」なんていう生温い内容ではない。
あのとき、ハイスタに何が起こっていたのか?
当時、リリース作品がインディーズとしては異例の売上を記録し、国内で幅広い層のファンベースを確立していったハイスタ。多くのバンドが憧れる海外レコーディングやツアーを敢行するなど、まさにトントン拍子で夢を叶えていったように見えた。しかし、ファンの目に映るタフな姿とは裏腹に、パンクスとしての矜持や頑ななまでのDIY精神、そしてキッズの期待やシーンを背負うプレッシャーなどによって生じた微かな“ズレ”が次第に拡がってゆき、耐えがたい苦痛・恐怖となって3人を押し潰そうとしていたのだ。
30年近いキャリアを持つとはいえ、現役のバンドがここまで内情を吐露するドキュメンタリー作品は、日本ではそうそうお目にかかれないだろう。特にナーバスな問題には踏み込むのを躊躇ってしまいそうなものだが、そこはハイスタとは旧知であり、当時から音楽業界やスチールのカメラマンとしてバンドと親交を深めてきた梅田航監督。彼だからこそ、そして音楽に対し真摯な姿勢を貫くハイスタだからこそ形にすることができた、歴史に刻まれるべき音楽ドキュメンタリー映画である。
CDやMDが台頭し、まだカセットテープもメジャーな記録メディアとして流通していた時代。インターネットもほとんど普及していなかったし、当然ながら音楽がサブスクリプションで消費されるようになるなんて想像すらできなかった。そんな時代にハイスタと共に青春を過ごした世代が『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』を観れば、超初期のライブやレコーディング映像、そして随所で抜粋される歌詞にノスタルジーを刺激され、思わず拳を振ってシンガロングしたくなること請け合い。もちろんハイスタを活動休止中に知ったとか、まだ聴いたこともないというミレニアル~ジェネレーションZ世代にとっても、単なる音楽ドキュメンタリー以上の感慨を与えてくれるはずだ。