原作は横山作品の中でも映像化不可能と言われた異色作
個人と警察組織の葛藤をリアルに描写し、幅広い読者から支持を得ている横山秀夫の諸作品の中でも、珍しく犯罪者を主人公にした異色のミステリーが実写化。青春映画の傑作『月とキャベツ』(1996年)の篠原哲雄監督と山崎まさよしが再びタッグを組んだ、ノワールでありながら失った青春を取り戻す再生の物語『影踏み』だ。
深夜に住人が寝静まった家に忍び込む。それが“ノビ師”
もとは司法試験を見据えて法学部に進学するほどの優等生だった真壁修一(山崎まさよし)だが、ある出来事をきっかけに自分から社会のルールを外れ“ノビ師”として窃盗を繰り返し、警察にも一目置かれる存在となっていた。
ある日、偶然忍び込んだ寝室で就寝中の夫に火をつけようとする葉子(中村ゆり)と遭遇してしまう。自身のトラウマが蘇り思わず凶行を止めた真壁は、なぜかその場にいた幼なじみの刑事・吉川(竹原ピストル)に逮捕され、2年間の刑務所暮らしを送ることになる。
出所後、自分の逮捕に関する報道に葉子が一切登場しないことに疑問を持った真壁は、彼を兄と慕う啓二(北村匠海)とともに、逮捕された夜のことを調べ始める。幼馴染で恋仲の久子(尾野真千子)の声にも耳を貸さず、自らのプライドのために真実を追う真壁は、やがて久子の身に降りかかった新たな事件を通じて、忘れたくても忘れられない過去と対峙することになる。
オール群馬ロケを敢行! ダークな“まさやん”も悪くない
普段は日本を代表するミュージシャンとして、温和な表情で聴く人を楽しませてくれる“まさやん”こと山崎まさよしだが、今作では陰を背負った孤高の泥棒として存在感を放っている。そして脇を固める共演者たちも豪華な俳優陣が揃っており、中でも真壁の亡き母・直美を演じた大竹しのぶの演技は圧巻。物語を大きく進ませることになる滝藤賢一の役どころにも注目したい。ちなみに、『月とキャベツ』でヒロイン・ヒバナを演じた真田麻垂美もチラッと出演しているのでお見逃しなく。
群馬県北部の中之条町で毎年開催されている「伊参スタジオ映画祭」で横山秀夫、篠原監督、山崎まさよしの3人が出会ったことで企画がスタートしたという本作は、オール群馬ロケを敢行。真壁が出所後に持ってくる手土産が群馬銘菓<旅がらす>というのも、グンマーにはたまらない演出だ。原作の横山が「通奏低音」と評す通り、オール群馬ロケが作品に統一感を与えたことは間違いない。
もちろん音楽は山崎まさよしが担当し、主題歌も彼が担当している。エンドロールで流れる「影踏み」が、さらに映画への理解を深めてくれることだろう。
『影踏み』は2019年11月15日(金)より全国公開