絶頂期のアーノルド・シュワルツェネッガーがキレッキレのマッスルで悪党どもをなぎ倒す、最強脳筋アクション『コマンドー』(1985年)。マッチョ至上主義の強引なストーリーと併せて、テレビ朝日吹替版(「この先100年間、自分の声を演じてほしい」とシュワちゃん直々に専属声優認定された玄田哲章が担当)のユーモラスかつセンスあふれる言い回しが話題となり、再放送のたびにネット上では“祭り”が開催されてきた。そんなマッチョ映画の金字塔が吹替版で劇場公開される!! ちなみに4Kニューマスター、5.1chサラウンドだ。
「何がはじまるんです?」「第三次世界大戦だ」
この夢の企画の中心人物は、絶叫上映や応援上映といった参加型上映を企画運営する<V8ジャパン絶叫上映企画チーム>のKさんと、諸般の事情で現在は入手することができなくなってしまった吹替音声を蘇らせる“吹替界の生き字引”こと、株式会社フィールドワークスのSiringoさん。
テレビでの放送を前提としている吹替版の劇場上映は権利上の問題でかなり難しいのだが、そのハードルを見事に越えて実現させたお二人に『コマンドー』の魅力から、吹替上映までの道のり、大好きな名セリフまで、思う存分語っていただいた。
『コマンドー』っていうジャンルなんです
―あらためて『コマンドー』を吹替版で上映することになったきっかけは?
K:いろんな要素があるんですが、一つは応援上映の活動のなかでリクエストが多かったので、去年Siringoさんにも協力いただいて、「1回限りなら」という条件で必要な許可を取ってもらって、単発で上映したんです。それがめちゃくちゃおもしろくて(笑)。もう一つは、もともと「午前十時の映画祭」とか過去の名作を上映するイベントはあったんですが、最近だともうちょっとレイトショー気味な作品、例えば『恐怖の報酬』(1977年)、『遊星からの物体X』(1982年)、『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)、『ゼイリブ』(1988年)ですとか、あとは有名タイトルじゃなかったけど話題になった『ザ・バニシング -消失-』(1988年)といった、コアなファンが観る作品が再上映されるようになったんです。ここ1、2年でそういう旧作のイイ感じのヒットが出ていたので、『コマンドー』という、ちょっと毛色の変わった作品もありなんじゃないかと思って。
―旧作上映のニーズは増えているんでしょうか?
K:全体的に需要が増えているとは思わないんですが、その作品をずっと変わらずに好きな人がいて、劇場で上映することでちょっとヒットする。そうすると新しい人も観に来てくれるという流れがあるな、とは感じています。「午前十時の映画祭」で上映される映画は基本的にはメジャーな名作なので、DVDやBlu-rayが発売されていることが多かったりするんです。ところが、先ほどのレアな作品たちの大半はインディーズの作品なので、再上映に合わせてDVDなども同時にリリースできたりする展開があるため、よりマルチに広がりがあるのかもしれないですね。
Siringo:2016年の秋あたりだと思うんですけど、旧作のソフトが急に売れなくなった時期がありましたね。ちょうどビデオ・オン・デマンド(VOD)の影響が出てきたころです。DVDを買う人は2000年代の頭ぐらいから欲しい作品を集めていて、(2015年~2016年で)多分、家の棚がいっぱいになっちゃったんですよ(笑)。だから厳選してソフトを買うようになっていったんでしょう。その時期と旧作も配信しているVODの出現が重なったんだと思うんです。2000年代は30代、40代の人たちがガンガンDVDを買いまくっていたんですが、20年近く経って、その人たちも定年近くなってきて、さすがにもう昔のように買うことも無くなってしまった。ほかにお金の使い道が決まってきたり、老後もあるし(笑)、みたいなね。自分を振り返ってみても、ここ数年は、年間数本しかソフトを買ってないですね。
―ちなみにSiringoさんは最盛期には毎月何本くらいDVDを買っていたんですか?
Siringo:月1、2本は買ってたから、年間で20本近く。今は10分の1ぐらいに減りました。ほかの人もそうなんだろうなって思います。もうね、自宅の棚が本当にDVDでビッチりですよ。これ以上買ったら奥さんに怒られる(笑)。他の映画ファンも同じような状況ではないでしょうか。それにBlu-rayデッキはDVDも再生できるので、過去にDVDで買った作品が新しくBlu-rayで発売されるとしても、よっぽど好きな作品以外は買い替え需要は低いようです。ただ、そんな状況でも吹替版はある程度売れるんですね。だから“最後の砦”じゃないですけど、各メーカーさんも吹替を重要視して「吹替の帝王」シリーズなどを発売しています。
―そういえば、先駆けとなった「吹替の帝王」の第一弾が『コマンドー』でしたね。
Siringo:確かに「吹替の帝王」はそれで成功しましたが、第1弾の『コマンドー』だけはとんでもない本数を販売しました。吹替というよりも『コマンドー』だったことが重要かもしれませんね。『コマンドー』は『コマンドー』っていうジャンルなので(笑)。
K:“洋画”という枠すら超えますもんね。
『コマンドー』はアートなんですよ
―『コマンドー』は1985年の日本公開以降、いまだに人気がある息の長い作品ですが、公開当初から話題作だったんでしょうか?
K:そんな感じではなかったですね。
Siringo:いま観ても通用するので、「面白い映画だな」というのはありましたけど、そこまでではなかったですね。それまでのシュワルツェネッガーは『コナン・ザ・グレート』(1982年)と『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2』(1984年)ぐらいしかなかったし。
K:その次が『ターミネーター』(1984年)ですね。
Siringo:そこから人気に火が点きました。
K:それ以降は、シュワルツェネッガー作品が年に2~3本劇場で公開されていた気がします。シュワルツェネッガーも良い時期と迷走期があるなかで、『コマンドー』は比較的良い時期のはしりぐらい。ただ、代表作までいかず、“量産されていく作品中の1本”みたいな位置づけですかね。
Siringo:『コマンド―』の次に『アーノルド・シュワルツェネッガー/ゴリラ』(1986年)が上映されましたよね。
K:それは迷走した作品ですね(笑)。
―『コマンド―』が熱狂的にファンから支持されるようになったのは、どの時期からなんでしょう?
K:(吹替の)テレビ朝日版放送時にファンがついたんですかね?
Siringo:それもあると思います。もう一つの要因として、『コマンドー』が1986年公開で、1987年~1990年ぐらいがレンタルビデオの最盛期。1つの街に3店ぐらいレンタルビデオ店があって、劇場で公開した作品が半年後にレンタルビデオ店に並ぶ時代ですよね。おもしろい現象として、劇場でそんなに話題になっていなくても、ビデオになった瞬間にものすごくヒットする作品が出はじめたんです。『コマンドー』も、そのなかの1本。さらに、それがテレビ放送に行くんですね。ビデオになった段階ではまだ吹替版を作らないから、テレビではじめて吹替版を観る。劇場で観て、ビデオを借りて、テレビで吹替版を観るという、3段活用じゃないですけど、ここで完結みたいな流れがあったんです。認知度もレンタルビデオの段階で高まってるから、やっぱり視聴率が高いんですよね。
―そんな流れがあったんですね! 吹替用の翻訳も人気の秘訣でしょうか?
Siringo:(テレビ朝日版の)翻訳を平田勝茂さんがやった時に、原語を無視しちゃったんですね、今ほどカッチリしていなくて。自然な日本語の会話になるように意訳しつつ、それでも原語の持つ意味自体は変えない暗黙のルールがありました。70年代あたりまでは、つまらない映画の場合はオリジナルの製作者の意図は無視して、吹替の演技と翻訳で少しでも面白くなるよう改変していたこともありましたね。今考えるととんでもないですが、視聴者にもっと楽しんでいただくサービスのひとつだったんですね。テレビドラマの『俺がハマーだ!』(1986年~1988年)とかも、そうです。実は、それも平田さんが最初に翻訳してるんですが(笑)。『コマンドー』は、70年代までの自由奔放な吹替制作を、80年代末に再現したといってもいいかもしれません。有名な「ただのカカシですな」っていうセリフも、本当は全然違うことを言ってる(笑)。もともと、シュワルツェネッガーの映画はコメディーっぽいところが多いですし、彼自身もコメディーのセンスがあって、映画自体も大げさすぎて笑うしかない。
K:この映画って、あらためて観るとシュールすぎますよね。ギャグでやっているのか、本気でやっているのかわからない。一番好きなのは地図を見て「(敵の隠れ家は)きっとこの島だ」っていうシーン。
Siringo:(地図上に)丸で囲んである(笑)。
K:「え、なんで隠れ家にわざわざ印つけてるの?」って(笑)。それをみんな大真面目にやっていて。平田さんはそのシュールさに気づいて、あの吹替をのっけたんだと思います。それが魅力の元なんだと思うんですけど。
Siringo:あのシーンおかしいですよね。燃料から計算してこのあたりまでしか飛べないなって推測して、地図広げたらもうすでに丸がしてある(笑)
K:おかしいんですよ(笑)。配給するにあたって、美術館とかで流せばいいんじゃないかと思いましたよ。いわゆるアートなんですよ、『コマンドー』は(笑)。シュールレアリスム。エンターテインメントなんですけど、脈絡のなさがすごいアートっぽいんですよ(笑)。
Siringo:個人的におすすめしたいのは、実は声で出演されている人たちのほとんどが、主役級の人たちばかりなんですね。ほかの映画では必ず主役をやる人。玄田さんはもちろん、娘役の岡本麻弥さんも青春映画の主役(『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』ジュリー・デルピーほか)とか当然やるし、シンディ役の土井美加さん(ジュリア・ロバーツほか)、ベネット役の石田太郎さん(アンソニー・ホプキンスほか)。脇役の方でも、まだ若手時代の石塚運昇さん(リーアム・ニーソンほか)が吹替えていたりだとか、デビルマンの田中亮一さん、坂口芳貞さん(モーガン・フリーマンほか)が声をあてている。主役級の人がこれだけ集まった作品って、すごいですよ。今じゃできませんね。
―ちなみに、お2人が吹替版で一番お気に入りの台詞は何ですか?
K:僕は「筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ」です。語感がイイですよね(笑)。
Siringo:物語の最初で娘を連れ去られた後に、一人残った悪役が「言うこと聞かないと娘が死ぬ。OK?」って脅迫するんです。本来は「NO!」って言って撃ち殺すんですが、吹替版では「OK!」って言って撃ち殺しちゃう(笑)。
K:真逆なんですよね(笑)。
Siringo:あれはわざとだって平田さんが言ってた(笑)。ここが凄いなと思って。「OK!」って言いながらぶち殺す(笑)。
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💪#復活まいにちコマンドー
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「この先どうなるかはあんた次第だ。無事取り戻したければ・・・俺たちに協力しろ、OK?」
『#コマンドー』4Kニューマスター吹替版🎬順次ロードショー!
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「 O K !(ズドンッ」
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『コマンドー』鑑賞時の作法、それが「コマン道」
―最後に『コマンドー』吹替版を劇場で観る楽しさを教えてください。
Siringo:テレビ放送はモノラルですから、劇場の良い環境で吹替を5.1chで聞いていただきたいですね。
K:とにかく、まずは「みんな『コマンドー』ってタイトルは知っていて、名ゼリフも知ってるけど、実はちゃんと通して観てないって人、多いでしょ?」って呼びかけたいです。そういう人に来てほしいなと。あとは、「あれをわざわざ劇場で観るの?」っていう、ある意味でチープなところもあるじゃないですか。それこそシュールレアリスムな感じで。みんなで観るっていうのがスゴイですよね。300人とかの規模で観る“おかしみ”があります。(昨年の『コマンドー』の応援上映では)同じセリフを言いたいって人が多かったですし、ツッコミを入れたい人もいる。面白かったのは、ネットだと先に(キメ台詞を)言いたいんですよね。でも劇場だとそれは困るので、先に言うのはやめてくれますかとお願いしたら、みなさんもの凄い集中力で、先読みにならないように完璧なタイミングでセリフを言うんですよ。みんなであの台詞を同時に言うっていう“おかしみ”。いろんな楽しみ方があって、先に言いたい人、同時に言いたい人、後からワーッと言いたい人、セリフにツッコミを入れたい人。バラバラだったものが劇場でやると、ある程度揃ったりするのもおもしろいですね。今までの応援上映って、それぞれに作法が違うので『コマンドー』なりの作法ができていくんじゃないかなと思っています。
Siringo:『コマンドー』っていう“道”ですよね(笑)。
K:まさに「コマン道」(笑)。
『コマンドー』4Kニューマスター吹替版は2019年11月22日(金)の新宿ピカデリー特別先行上映から順次限定ロードショー
『コマンドー』4Kニューマスター吹替版
あのテレビ朝日 日曜洋画劇場 吹替版が4Kニューマスターでスクリーンに上陸。2019年の11月より順次ロードショー
制作年: | 1985 |
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監督: | |
出演: | |
吹替: |
2019年の11月より順次ロードショー