大作に便乗しつつも独自進化を遂げたアサイラム産ロボ映画
賛否両論を巻き起こした大作ロボット映画『パシフィック・リム:アップライジング』(2018年)……に続き、米国の映画会社・アサイラムが便乗公開したロボット映画が、今回紹介する『アトランティック・リム』(2018年)である。原題は『ATLANTIC RIM RESURRECTION』、あるいは『Atlantic Rim 2』だ。
原題を見ての通り、本作はただの単発モックバスターではない。以前アサイラムが、これまた性懲りもなく『パシフィック・リム』に便乗して作ったロボット映画『バトル・オブ・アトランティス』(2013年)の正式な続編でもあるのだ。
つまりはなんだかよくわからない映画業界のコレジャナイロボが、意外と売れてしまったせいか独立したシリーズと化しているわけだが、それはさておき今回は『アトランティック・リム』を紹介していこう。
かつて人類を襲った巨大生物“怪獣”との死闘から数年後。大西洋の海底から、なんの前触れもなく新たな怪獣が出現。世界は再び危機に見舞われる。事態を重く見た国防省は、怪獣を撃退するための巨大人型兵器である、“アルマダ・ロボット”3機を実戦投入。未知の脅威への対抗を試みる。
だが、国防省の内輪揉めによる仕様変更を受けて、本来より性能を落としていたアルマダ・ロボットは、恐ろしい怪獣を前に惨敗。さらに怪獣は無数の小型怪獣を生み出し、地球に本格的な破滅が迫る。果たして国防省と、三機のアルマダ・ロボットは、平和な世界を取り戻すことができるのだろうか……。
というのが本作の概要である。
壮絶な“中小企業的グダグタ感”が怪獣以上の脅威となって襲いかかる
本作を観て最も目につくポイントといえば、やはり“国防というものをナメている人類側の、ブラック企業すぎる組織体制”だろう。まず前提として、前作『バトル・オブ・アトランティス』から数年後の物語である本作のオープニングでは、「先の怪獣との戦いを受け、世界は惨劇の再発防止に必死である」という旨のナレーションが流れる。
だが実態はこうだ。新型のアルマダ・ロボットとやらに搭乗するパイロットは、「シミュレーターでしか訓練を行っていない」上に、なぜか「現行機とは違う旧式のインターフェースでトレーニングしていた」ため、操縦が事実上ぶっつけ本番という始末。また、「ロボットがダメージを受けると、痛みがパイロットに伝わる」という前作でも見られた欠陥を、国防省は改善せず放っていたくせに、いざ怪獣が現れてから「これマジでどうしよう」と対策を練り始める後手後手っぷりだ。
重大な欠陥を直していなかった理由については、要約すると「技術者の主人公と、国防省が不仲だったから」という人間関係のいざこざが原因なのだから救えない。さらには「国防省が勝手にロボットのOSを変えていたので、わざわざ現場を離れていた技術者の主人公を呼び出してまで投入した高性能インターフェースが使えない」という事実が、すでに怪獣が町で暴れている段階になって判明(結局は主人公がある程度対応)。
極め付きは、いざ出撃という土壇場で、ロボットの脳波コントロールにひどいタイムラグが生じることが発覚。これは「ソフト全体を修正しないと改善できない不具合」だということだが、国防省は「もう時間的に余裕がない、でもパイロットはベテランだから大丈夫」と謎の自信でスルーするのである(先ほど申し上げた通り、件のパイロットはこれまで現行機と異なるインターフェースで模擬訓練のみを行っていたので、ベテランもなにもないらしいのだが)。
とまあ、怪獣とは無関係なところで繰り広げられる、壮絶な“中小企業的グダグタ感”が、怪獣以上の脅威となって世界を襲うのだ。
ロボット映画というよりブラック企業映画? 身に覚えのある人は感情移入必至
そんなこんなでアルマダ・ロボットは出動するが、怪獣の強さというより、深刻な問題を先送りにしがちな組織体制のあおりを受けて、現場のロボットは、それはもうボロッボロに敗北する。主人公が、「(ロボット開発に関わって)何年もプログラミングに費やしたのに、今は使えないコードに書き換えられてる……」と悲痛に嘆く台詞が、ここまで真剣味を帯びて響くロボット映画も、そうあるものではないだろう。
と、なんだか映画コラムというよりブラック企業の告発みたいな記事になってしまったが、一応ロボットのデザインについては前作よりデティールが精巧に、格段に良くなっていると思う。ダラダラした場面が多いのは相変わらずとはいえ、戦闘描写には最低限の品質が伴っているので、必ずしも悪いばかりのアサイラム作品ではないだろう。
かといって良いかというとそれはまあゴニョゴニョだが、あえてオススメするなら、例えばそう、実際にブラック企業で、何度も仕様変更や納期にからんだ修羅場を経験している方やエンジニアの方は、序盤の展開に感情移入できるかもしれない。
もしかすると最も世知辛いアサイラム作品、それが『アトランティック・リム』なのだ。
文:知的風ハット
『アトランティック・リム』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「アサイラム・アワー」にて2019年11月放送
『アトランティック・リム』
深海から出現した怪獣がアメリカ東海岸に壊滅的な被害を与えてから数年後。人類は巨大人型兵器“アルマダ・ロボット”で新たなる脅威に備えていたが、再び現れた巨大怪獣の猛威は想像を遥かに超えていた。ロス博士率いる特命チームは、怪獣の細胞を分析してその弱点を突き止めようとする。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラス「アサイラム・アワー」にて2019年11月放送