CMや短編映画で高く評価されてきた常盤司郎の長編デビュー作
CMやミュージックビデオで名を馳せ、サザンオールスターズの『FILM KILLER STREET (Director’s Cut)』や短編映画『皆既日食の午後に』(2011年)などで高い評価を得てきた映像作家、常盤司郎。彼の初となる長編映画『最初の晩餐』が2019年11月1日(金)より公開中。家族の幸せな記憶と影を丁寧に描いた、心温まる感動作だ。
仕事も恋愛もうまくいっていない若きカメラマン・麟太郎(染谷将太)は、子育てに追われ夫ともぎくしゃくしている姉の美也子(戸田恵梨香)とともに病院で父の死に立ち会った。そのまま母・アキコ(斉藤由貴)と葬儀の日を迎えるが、アキコが勝手に通夜ぶるまいの仕出しをキャンセルしていたことが発覚、母は「自分が作る」と言って目玉焼きを参列者にふるまいはじめる。麟太郎は、それが父が初めて作ってくれた料理だったことを思い出すのだった。
登山家の父とアキコは再婚同士だった。長男・シュンは母の連れ子で、麟太郎と美也子は父の連れ子だ。彼らはすぐに仲良くなり暖かい家庭を築くが、幸せな生活は長くは続かなかった。ある1本の電話に取り乱した母は一時的に家を出ていってしまい、その後しばらくして父と山に登ったシュンも次の日、黙って家を出て行ったのだ。母は戻ってきたものの、それ以来、家族が全員揃うことは一度もなかった。
兄弟で作った焼き芋、美也子の喉に刺さった魚の骨、父と兄が山で食べたピザ……。彼らは思い出の料理を振り返りながら家族の記憶をたどってゆく。やがて通夜も終盤に差し掛かった頃、ついにシュン(窪塚洋介)が帰宅し、あの日の真実が明かされることになる。
『天気の子』の森七菜や『地獄少女』の楽駆ら子役たちの演技も必見
大人になった家族の熱演も素晴らしかったが、この作品の大きな魅力は、やはり子役たちの演技だろう。ふざけて抱きつき笑いあう兄弟・親子の演技が自然で楽しそうで、義理の親子や兄弟とは思えないほど仲が良く、実にほほえましい。血がつながっていなくても、父の影響を受け登山の楽しさを知るシュンの素直さ、そんな兄をまっすぐに慕う弟といった家族の絆が、山々の自然とともに美しく描かれている。だからこそ、幸せが崩れ去った時の子供たちの傷ついた姿が胸に迫るのだ。
『天気の子』(2019年)の森七菜、『地獄少女』(2019年)の楽駆など、今後絶対活躍するであろう若手の演技は必見。また、『HANA-BI』(1997年)の撮影で知られる山本英夫をはじめ、美術の清水剛、衣裳の宮本茉莉、照明の小野晃など最高のスタッフたちが脇を固めており、映像の美しさも見逃せない。
家族って何だ? と悩む人たちへ、常盤監督からの素敵な贈りもの
染谷が演じる麟太郎の問い「家族って何なんですか」が、本作のテーマになっている。昨今の日本映画ではめずらしくなりつつあるオリジナル脚本だが、実際に監督の父が闘病の末に亡くなった時の想いが込められているという。
誰しも幼い頃、親の些細な言動に傷ついた経験があると思うが、結局それを消化して解決できるのは家族だけであり、どんなに離れていても、家族はやっぱり家族なのだ。観終わった後、家族を大事にしたい、誰かと家族を作りたいと思わせる、そんな作品である。ぜひ家族や大事な人たちと鑑賞し、様々な目線から家族について語り合ってほしい。
『最初の晩餐』は2019年11月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー