細野晴臣 ― ミレニアル世代のアーティストにも影響を与え続ける伝説の音楽家
今年、デビュー50周年を迎えた日本を代表する音楽家、細野晴臣。2019年は“細野さんに会いに行く”というコンセプトで様々な50周年企画が行われているが、中でも注目したいのが映画『NO SMOKING』だ。
東京・白金に生まれ、はっぴいえんど、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)という、日本のポップ・ミュージックに革命を起こしたグループの中心人物であり、作曲家、プロデューサーとしても「風をあつめて」(大瀧詠一が亡くなったとき、はっぴいえんどのこの曲がラジオからよく流れたが、これは細野さん作曲&ボーカル)、「はいすくーるららばい」(イモ欽トリオ)、「天国のキッス」(松田聖子)はじめ数々の名曲を生み出してきた。さらに『万引き家族』(2018年)をはじめ多くの映画音楽も手掛けている稀代の音楽家であり、言ってみれば大御所だ。
でも、御本人はそんな風情は一切なく、常に飄々と軽やかで、誰でも「細野さーん」と呼び掛けたくなる愛すべき存在なのだ。細野さんは軽やかにスキップならぬ、独特の“火星歩行”を踏みながら、50年間音楽と向き合ってきた。
実は私、告白すると『NO SMOKING』の試写で細野さんをお見かけし、「すごく楽しかったですー!」と思わず話しかけてしまったのである。高校生の時に代官山でお見かけしたときは流石に声をかけられなかったが(当時、YMOのテクノカットを生み出した美容院が代官山にあり、バイト代を貯めて髪を切りに行った帰りに遭遇したのだから、火星人を見るくらい驚いた)、試写室ですぐ目の前にいる細野さんは、何だかうっかり数年ぶりに会う親戚のお兄さんのような気がしてしまったのだ。そして細野さんも、「あ、ほんと? それはよかった。嬉しいなあ」と微笑みながら答えてくれた。ああ、高校生の私に聞かせてあげたい!
ナレーションを務めるのは細野を慕う星野源! 欧米ツアーの貴重な映像も公開
細野さんにとって初のドキュメンタリー映画となる『NO SMOKING』は、2018年から2019年にかけて行われたイギリス、アメリカ・ツアーの映像を中心にしつつ、細野さん自身のインタビューと、過去の貴重な映像、写真と共にその半生と音楽人生を振り返る。細野さんは決して自分を持ち上げないし、大滝詠一との出会いや、YMOの結成秘話など、よく考えるとすごいこと(父方の祖父はタイタニック号の生存者だった)も、淡々とユーモアを持って振り返る。
ナレーションは、細野から大きな影響を受けたという、星野源。二人が共演した横浜中華街でのライブや、坂本龍一、高橋幸宏が飛び入り参加したロンドンのライブを始め、ヴァン・ダイク・パークス、矢野顕子、水原希子・佑果姉妹など、ゆかりある人々が続々と登場する。
音楽とユーモアを愛する細野さんの姿を捉えた監督は、NHKエンタープライズのエグゼクティブプロデューサーで、「紅白歌合戦」や細野さんの番組「イエローマジックショー」などを手掛けた佐渡岳利。火星歩行の何たるかを知りたい方は、ぜひ劇場へ。
ちなみに、六本木ヒルズギャラリーで2019年10月4日から11月4日まで開催された<細野観光>と題された展覧会では、では、細野さんが生まれてから今までのさまざまな人や物、場所、そして音楽との邂逅を、膨大なコレクションとともに公開した。
漫画も得意な細野さんスケッチ集や、ベース(細野さんは稀代のベーシストでもある)や、シンセサイザーをはじめとした貴重な楽器も見ものだった。
文:石津文子
『NO SMOKING』は2019年11月1日(金)よりシネスイッチ銀座、ユーロスペースほか全国順次公開