インドのスーパースター、ラジニカーント主演の伝説的SFアクション映画『ロボット』の続編、『ロボット2.0』。
今回は、インド映画界に革命を起し世界中で大ヒットを記録した珍作、もとい名作の続編『ロボット2.0』の魅力を紐解くべく、同シリーズのほか『マッキー』(2012年)『ボス その男シヴァージ』(2007年)など数々の大作インド映画を日本に紹介してきた映画配給/宣伝会社アンプラグド代表取締役・加藤武史氏と、BANGER!!!執筆陣の1人でもあるアメキャラ系ライター・杉山すぴ豊氏に、インド映画の楽しみ方や知られざる背景、さらにアメコミ映画との相似性を語っていただいた。
『ロボット』シリーズは『アベンジャーズ』『ジェミニマン』よりも早かった!?
すぴ:『ロボット2.0』(以下、『2.0』)、非常に面白かったなぁ。主人公のバシーガラン博士は、天才科学者であり自身が作ったロボット(チッティ)が活躍するという設定で、トニー・スターク(アイアンマン)っぽいキャラクターだなって。
加藤:あぁ、はいはい!
すぴ:改めて前作の『ロボット』(2010年)から見たんですけど、(前作の)「自分の作ったロボットが反逆する」という設定は、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)より早いですよね。
加藤:『2.0』のVFXを製作しているのが<DNEG(元ダブル・ネガティブ)>という会社なんです。前作のVFXを担当したチームが<レガシー・エフェクツ>という、スタン・ウィンストン(『ターミネーター』シリーズや『エイリアン2』などの特殊メイクで知られるSFX~アニマトロニクスの第一人者)という方がトップだった会社なんですよ。
すぴ:あぁ~!
加藤:レガシー・エフェクツ代表のスタン・ウィンストンの、おそらく最後のクレジット作品が『アイアンマン』(2008年)です。製作途中で亡くなってしまいましたが、その時、手掛け始めていたのが『ロボット』だったんですよ。なので(『2.0』と『アイアンマン』などには)共通点というか、影響があったかもしれないですね。
すぴ:スタン・ウィンストンの名前が出ましたけど、『ターミネーター』っぽいですよね。アメコミでいうところの磁力をよく使うというか、「X-MEN」のマグニートーみたいな。その使い方も、インドだから派手だなって。
加藤:非科学的なね(笑)。あとは、たまたまなのかもしれないのですが、『2.0』の鳥が登場するシーンのVFXを作ったのが<ダブル・ネガティブ>と聞いていて、やっぱり自由な表現になると空がやりやすいんだろうな、と思って。マーベル作品とか見ていても、ダイナミックな表現は地上よりも空中戦の方が派手にできるのかな、って思いました。
すぴ:でも、電磁波で鳥が死んでいるという状況で、スマホに博士の怨念が憑りついてスマホが合体して鳥になる、っていう発想がすごいですよね。それは考えつかないなぁ。
加藤:なかなか出てこないですよね。
すぴ:あと、チッティが自分の分身と戦うときに、ぶっちゃけ『ジェミニマン』(2019)より早いじゃん、と思っちゃって(笑)。
加藤:確かに、そうですね。
すぴ:『アイアンマン』的でもあるし、フランケンシュタインっぽくもあるし、『ジェミニマン』も『ターミネーター』も入ってて、インド映画すごいな! って思いましたね。
加藤:ストーリーがわかりやすいというのがアメコミ映画との共通点としてあるような気がしますね。インド映画ってアクションだけじゃなくて、ヒューマンドラマやミュージカルもありますが、すべてストーリーがわかりやすいんですよ。
すぴ:僕は、これ全然『2.0』から見ても問題ないな、って思いましたね。(『2.0』から見ても)過去にこのロボットはワケアリで活動停止してたんだろうな、ってわかりますもんね。
ブレイク希望! アメコミドラマにも出演のヒロイン
加藤:やっぱり『2.0』の魅力は、ストーリー自体は追いやすいんですけど、出てくる絵や展開が読めないところ。いつもすごい映像で驚かされるんですよね。インドは事前にハリウッドみたいに絵コンテがあってしっかり作るというよりも、監督システム。(撮影中も)監督の思い付きで「これやっちゃおうよ!」みたいなノリなんですよね。なので、観ていて「次にどうなるかわからない」というのは『2.0』の魅力の一つだと思いますね。
すぴ:悪人の魂がスマホに乗り移るって、ちょっと貞子っぽくもありますよね。
加藤:SF作品ですけど、根っこにあるのはオカルトとか怨念とかですからね。
すぴ:あと、実はヒロインがTVドラマ『SUPERGIRL/スーパーガール』(2015年~)でサターンガールを演じている女優さん(エイミー・ジャクソン)なんですよね。『スーパーガール』を見てた時に、すごく綺麗な女優さんだなって思ってたんですが、まさかインドの女優さんだと思ってなくて。
加藤:インド映画で活躍していますが、イギリス人の女優さんですね。
すぴ:彼女、もっとブレイクすればいいなと思ってたので、出ていてびっくり。でも、ずーっとロボットの恰好でもったいない! 前作のヒロインはもうちょっといろんな服着てたのに。
加藤:彼女は<ミス・ティーン・ワールド>(2009年優勝)なんですよね。前作のヒロイン(アイシュワリヤー・ラーイ)は<ミス・ワールド>。シャンカル監督はNo.1の美女をそろえるのが好きで、この監督だからブッキングできるんですよね。アイシュワリヤー・ラーイは、ブラッド・ピットが「頼むから共演させてくれ!」って言ったらしいです。結局ダメだったんですが、ハリウッドスターも骨抜きにしてしまう美貌ですね。
すぴ:マーベル作品に出てきてもいいですよね。特に彼女なんて『SUPERGIRL/スーパーガール』に出てるわけだし。ヒロインとチッティが相思相愛になる最後もいいですよね。
加藤:主演のラジニカーントは南インドの出身で、日本で言うと渥美清さんみたいな、みんなに愛される隣のお兄ちゃんみたいな人なんですよね。だから顔だけみると釣り合わない感じがしちゃうんですけど、人間性でみんなから尊敬されている人なんですよ。
すぴ:『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年)の人ですよね?
加藤:そうですそうです。
すぴ:必ず(オープニングに)“スーパースター”って出るんですか?
加藤:いや、彼だけです。彼はもう20年くらい、ずーっとこの感じですね。自分で言ったわけじゃないんですけど、周りから後押しされるようになったんです。くどいくらいの出方ですけどね(笑)
すぴ:どれがタイトルかわかんなかった(笑)。
インドの国民的“スーパースター”ラジニカーントとは?
すぴ:僕ら世代って『ムトゥ 踊るマハラジャ』は見てなきゃいけないんですよ。『ムトゥ 踊るマハラジャ』が素晴らしいのは、映画館に3時間もいなきゃいけないっていう体験を含めて、あの衝撃に付き合った感じがやっぱりすごくって。てんこ盛り感、インド料理屋さんでいろんな料理がワンプレートに乗ってる感じというか。
加藤:僕も当時『ムトゥ 踊るマハラジャ』のシネマライズ上映が満席で、通路に座って3時間見たのが思い出で、それがはじまりですね。歌と踊りでこんな映画があるんだ! って初めて知りました。数十年経って、いまだにその俳優が主役を張ってるっていう。彼しかいないのか? みたいな(笑)。
すぴ:他の人が出てきてくれないと交代もできないし。
加藤:冷静に見ると、ひとりで色んな役やりすぎじゃないの!? っていう。『アベンジャーズ』みたいに、もうちょっと(色んな俳優を)配役できるんじゃないの? っていうのはありますよね。
すぴ:でも『2.0』を見てて、ラジニカーントが「ドゥッ」って指さすのはちょっとカッコいいなって(笑)。
加藤:ああいった動きがすごく上手いので、もともとはバスの車掌だったんですが俳優になっていったんですよ。インド人的にはツボなんですよね、「またラジニがやってくれた!」っていう。
すぴ:(『ロボット』シリーズは)ラジニがスターだから、スター映画として作られてるんですか?
加藤:そうですね。アメリカとインドがそっくりなのは、強烈なスターシステムがあるからなんです。スターを、ヒーローである彼を観に行く、っていう。だからおじいちゃんなのに、これだけのアクションを課せられる(笑)。
すぴ:そういう意味では、ジャッキーやシュワちゃんのアクション映画に感覚がすごく近くて。いろいろな役を演じているんだけど、“ラジニカーント”なんですね。
加藤:そうですね。
すぴ:ジャッキー・チェンの映画でジャッキーの役名を言える人って、ほとんどいないじゃないですか。やっぱり「ジャッキーが警官やってました」って言っちゃうだろうし。ジャッキーとかスタローンとかシュワちゃんとか、伝説のスターあるあるですよね。
加藤:(笑)
すぴ:観客が“見たいもの”をちゃんと見せてくれるんですよね。娯楽映画ってこういうものだよなって。『アベンジャーズ』だと色んなヒーローが出てきて、自分の推しヒーローを見るっていうのが今までのアメコミ映画と違うところだった。たくさんのヒーローが出て、ケレン味たっぷりで。映画に待ってたものはこれなんじゃないか? っていう。いろんな考え方があると思うんですけど、やっぱり映画って、見たかったものや夢を描いてくれるものなんですよね。
ビギナー向けのインド映画はこれだ!
加藤:僕が考えるインド映画の面白さって、『2.0』や『バーフバリ』シリーズ(2015年~)みたいな、ものすごい世界観があって、やりすぎくらいのアクション。もしくは『きっと、うまくいく』(2009年)『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(2015年)みたいな、ヒューマニズムで笑って泣けるっていう、2つのジャンルがあります。どちらも優れているし、前知識ゼロで楽しめるのでオススメですね。ただ、どれも長いんですけど(笑)。
すぴ:『バーフバリ』は比較的見やすかったかな。話もシンプルだし、剣劇もかっこよかった。僕はブームになってから観に行ったので、続編の『王の凱旋』(2017年)から見たんですけど、まさか2/3が主人公のお父さんの話だとは思わなかった!
加藤:(笑)
すぴ:でも、実はどこから見てもいいかなって思ってて。人間、話の筋が分かんないから好き/嫌いとはならないので。女優さんは綺麗だし、物量はすごいし、なんじゃこりゃ!?っていうところがクセになるかならないか、の問題。「なんか分かんないけどすごい!」って思ったら、ほかのインド映画も楽しめます。
これはアメコミファンの誰かが言ってたんですけど、「少年ジャンプ」だって全ての作品を1話から立ち会える人はいない、って。「スラムダンク」だってなんだって途中から読み始めて、そこで好きか嫌いかだろう、って。
加藤:確かに。
すぴ:だから、最初から観なきゃいけないなんて考えなくてもいいんじゃないかな。ハマったら他の作品も見ればいいんですよね。あと、インド映画ってちょっと疲れる感じもいいですよね(笑)
加藤:そう、だからインドでは必ず途中休憩が入るんです。
すぴ:だんだんトゥーマッチになってきて(笑)。でも短縮版で歌とかカットされてると「入れりゃいいのに。このムダなところがいいんだよ」って思ってくる(笑)
インド映画とハリウッド映画の決定的な違いとは?
すぴ:インド映画って「ハリウッドと同じことしてもしょうがない」って、ちゃんとわかってますよね。
加藤:インド映画って、まだシリーズものの映画はそんなに多くないんですよ。1本で完結する映画を膨大に作れるくらいネタが多い。深刻な社会問題とか貧困とか、きっかけになるテーマを作りやすいんですよね。『2.0』も、言いたいことのひとつは“ケータイ電話使いすぎだよ”っていうのが根本にあって。実際、インドでは社会問題のひとつになってますし、そういうものをエンターテインメントの中で昇華させるのが上手い。社会問題を取り上げて、悲惨なものに終わらせるんじゃなく映画で楽しませて、最後にメッセ―ジを残して。
すぴ:前作でチッティが火事の中から女性を救うんだけど、女性が裸の状態で助けられたことを恥ずかしがって、結局自殺しちゃうっていうシーンがありましたよね。あれはなかなかハリウッドでも作れないですよ。あのエピソードはすごい。こういったものを突っ込んでくるんだ! って。
加藤:ロボットの審査でチッティが一度不合格になって、でも女性を救出して合格する寸前までいくんでだけど結局は女性が自殺してしまって、審査も落ちるっていう展開。様々な環境が凝縮されたシーンですよね。
すぴ:アメコミだったら、火事の中から人を救ったら賞賛しか待ってないですからね! 火事で人を助けるのは基本なのに、ここでこの子を殺す!? って。独特の価値観で正直に映画を作っていて、すごいですよね。
「ボリウッドvsハリウッド」もしヒーロー同士が対決したら?
すぴ:アメリカで『ブラックパンサー』(2018年)が公開された時、多くのアフリカ系アメリカ人を動員したし、次のマーベル映画『Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings』(MCU初のアジア系ヒーロー/2021年公開予定)もアジア系アメリカ人を動員するかも、って言われてますよね。
Just announced in Hall H at #SDCC, Marvel Studios’ SHANG-CHI AND THE LEGEND OF THE TEN RINGS, with Simu Liu, Awkwafina and Tony Leung, directed by Destin Daniel Cretton. In theaters February 12, 2021. pic.twitter.com/VXaqJ5uN6B
— Marvel Studios (@MarvelStudios) July 21, 2019
アメコミってアメリカ人しか出ないというわけではないので、今後インドのヒーローが出てきてもおかしくない。コミックにはまだインド人のヒーローは出てきてないんですけど、スパイダーマンの設定をインドに持っていった「スパイダーマン・インディア」という作品はあるので、それを映画化しようとかね。そういうのがあったらうれしい。そろそろ『ミッション:インポッシブル』シリーズ(1996年~)でトム・クルーズもインドに行ったらいいのに。象が暴走したりするアクションになるのかな?(笑)。
加藤:インドって6つくらいの地域に分かれていて、言語も映画の作り方も違うので、一律に“インド映画”とは言いづらいところがあるんですが、北の方はアメリカやイギリスとすごく近いと思いますよ。VFXスタジオの<DNEG(元ダブル・ネガティブ)>や<プライムフォーカス>も、今日はインド映画、明日はハリウッド映画という制作スケジュールらしいので。音楽も、レディー・ガガなどをプロデュースしているエイコンというアーティストがインド映画の音楽もプロデュースしていますし、近い将来には合作というか、アメコミ映画をインドで制作するというのも、本当にそう遠くない気がしますよね。インドの<リライアンス・インダストリーズ>という会社は、スピルバーグの会社(ドリームワークス)を買収(=株式の50%を取得)したんですよ。
すぴ:へぇ~!
加藤:インドはすごい資金力と、安くて高い技術力があるんで。
「ICU(インド・シネマティック・ユニバース)」誕生⁉
すぴ:『2.0』も、これはこれで完成されてますが、他のヒーローものとかと結集したら面白いんじゃないかな、って思いました。チッティがバーフバリとかと協力して、<インド・シネマティック・ユニバース>的な。インドだったらなんでもアリだし、できるんじゃないかな。
加藤:インドの興行収入は、インド映画が8割くらいでハリウッド映画が2割くらい。上位を占めるのはディズニーかマーベルなんですよ。ハリウッドとインドが一緒に作るかどうかは別として、インド映画がマーベルとかの面白さを取り入れるのは間もなく始まるんじゃないかな、という気がしますね。
すぴ:ロボットがタイムスリップしてバーフバリと会う、みたいな映画、作れないですかね?
加藤:インドの映画がクロスオーバーされるようになったら、すごく面白くなりますよね。観たいなぁ(笑)。
すぴ:インド映画を観ない映画ファンになるのは不幸だなって思いますよね。ハリウッドと違う、ちょっと引っかかる価値観もいい。
加藤:『2.0』はタミル映画という南インドの映画なんですが、タミル映画史上で一番当たった映画が『 バーフバリ 王の凱旋』なんですよ。2位が『ロボット2.0』で、3位が『バーフバリ 伝説誕生』、4位が『ロボット』。1~4位までが『バーフバリ』と『ロボット』で独占されてるんですよね。
すぴ:へぇ~!
加藤:だから『2.0』を見ずしてタミル映画は語れないよ、とは言っておきたいですね。
すぴ:<ホットトイズ>でエイミー・ジャクソンのフィギュア、作ってくれないかなぁ。
『ロボット2.0』は映画専門チャンネル ムービープラスで2021年3~4月放送
【スペシャルプレゼント!】※終了しています
BANGER!!!の公式Twitter(@BANGER_JP)フォロー&リツイートで日本版ポスター&ラジニカーント神様シールをセットで3名様にプレゼント!
/
— 映画評論・情報サイトBANGER!!!【公式】 (@BANGER_JP) November 8, 2019
大ヒット公開中‼️
『#ロボット 2.0』日本版ポスター&#ラジニカーント 神様シールをセットで
合計3名様に #プレゼント 🎁✨🤖
\
▼応募
1⃣@BANGER_JPフォロー
2⃣11/14(木)までに本ツイートをRT
3️⃣当選はDM連絡
▼レビュー記事もお見逃しなく❗️https://t.co/GqtvhrnPq2https://t.co/VJobCCNjar pic.twitter.com/WMqKzh8TLi
『ロボット2.0』
ある日、突然、インドの街からすべてのスマートフォンが消えた。そして携帯業者や通信大臣がスマホに殺されるという殺人事件が次々に発生。バシー博士は助手のニラーとスマホの行方を追ううちに、無数のスマホが合体し巨大な怪鳥に変身していることが判明。やがてその巨大怪鳥は人類を襲いだし、軍隊でも抑えきることのできないモンスターと化す。バシー博士は、かつて封印された、あの伝説のロボット「チッティ」を復活させ、人類を守ることを思い立つ。しかしそれはインド中を巻き込んだ、壮大なバトルの幕開けとなった!
制作年: | 2018 |
---|---|
監督: | |
出演: |