前作を見ていない? だからって『ロボット2.0』を劇場で観るチャンスを逃すべきじゃない!
2019年は昨年から引き続き、インド映画の劇場公開のラッシュとなりました。年末までに予定されているものも含めて1年間で13本(外国との合作も含む)が封切られ、また各種の映画祭での上映も加わり、鑑賞済み作品のコレクションが激増した方も多いのではないでしょうか。2019年10月25日(金)には重量級の超大作『ロボット2.0』(以下『2.0』)が満を持して公開されることになっており、さらにインド映画ファンの裾野が広がりそうです。
『2.0』は現地インドで2018年封切りのタミル語映画で、監督はシャンカル、出演は“スーパースター”ラジニカーント、アクシャイ・クマール、エイミー・ジャクソンほか。2012年に日本で劇場公開された(現地公開は2010年)『ロボット』の続編という位置づけで、主要キャラクターも前作から引き継いでいます。
なにぶん前作公開から時間が経っているので、続編に常につきまとう「前作を観ないで『2.0』を観ても大丈夫?」という問題が持ち上がります。私の意見は「前作を観ておくに越したことはないけれど、前作を観ていないという理由で『2.0』を劇場で観るチャンスを逃すべきではない」というものです。『2.0』の後に『ロボット』を観るのも大いにありです。
ちなみに、配給元のアンプラグドが「3分で分かる! 伝説のインド映画『ロボット』ダイジェスト」という動画を配信してくれています。また、『ロボット』はDVDやブルーレイが発売されており、複数のストリーミングサイトでの有料配信も行われています。お求めの際は、オリジナルのタミル語完全版なのか、ヒンディー語国際版なのか確認もお忘れなく。
ビジュアルはブッ飛んでいたものの、前作『ロボット』は古典的なSF作品のセオリーを踏襲していた
予告編を見るだけでも分かる圧倒的なビジュアルを脇において、『ロボット』と『2.0』を冷静に比べてみると、主要キャラクターは共通しているものの、テイストはかなり異なっています。
『ロボット』は、天才科学者バシー博士(ラジニカーント)が開発した人型ロボット・チッティが、プロトモデルゆえの数々のバグで大騒動を巻き起こすというストーリーでした。特にキーとなったのは、機械であるチッティが、人間の持つ感情、特に愛や自尊心といったものの働きを理解して、その上で人間の役に立てるかという問題です。
チッティは幾つかの失敗を経ながらそれを体得していき、やがて自身が恋愛感情を持つまでに至りますが、それをきっかけに、いわゆる「ロボット三原則」は崩壊。チッティは人間に仕えるのを止めて、自分の欲望の充足が第一と考える“2.0”に生まれ変わります。そして多くの人命を犠牲にした大暴走をすることになります。
バシー博士の決死の作戦により、2.0は機能を停止させられ、チッティは最後に封印されます。『ロボット』は、言葉での形容が全く追いつかないレベルのビジュアルの大盤振る舞いに目が眩みますが、ストーリーの骨子は古典的なロボットSFを踏襲したものでした。
まさかの黒魔術映画に発展! メカニカルでド派手な呪術合戦が見もの!!
それと比べると『2.0』は、やや趣きが異なります。まず、人々の使う携帯電話が勝手に中空に舞い上がって消えます。街はパニックになり、また携帯電話事業に関わる人物が次々と怪死します。その裏に浮かび上がってきたのは、直近に自殺した著名な鳥類学者パクシ(アクシャイ・クマール)の怨念。冒頭では前作を引き継いだロボットSFのような装いでありながら、途中からホラーに転じ、やがてパニック映画になり、文明批評もちょっと加え、最後はほとんど怪獣映画に。目まぐるしく変わるシチュエーションにはついて行くだけでやっとです。
こうした過程で、前作で封印されたチッティが、非常事態に対応して再アクティベートされます。それだけでは足りず、2.0や、さらにバージョンアップ(バージョンダウン?)した3.0も登場します。それら全てがラジニの顔で、本作で中心となって活躍する2.0は、前作に引き続きメッシュの入ったパンチパーマで「おじさん力」が最高。
バシー博士とロボットたちが戦う相手は、絶望の中で自ら命を絶った鳥類学者の負のオーラが生んだ怪物。オーラ理論が出てくるあたりで妖しい雰囲気となり、これはインド映画史の中で連綿と作られてきた(大ジャンルとなるほど本数はないですが)黒魔術映画の大胆な変種であることが分かります。
“強い恨みを持った霊(ここではパクシ)が凶暴化して暴れまわるのを抑えるために霊能者(バシー博士)が呼ばれ、式神(チッティや2.0)を動員した呪術合戦が行われた末に鎮められる”というのが、黒魔術映画のお決まりパターン。闘いの最中に霊に憑りつかれた人が、壮絶な憑依の相を見せるというのもお約束です。『ラジニカーント★チャンドラムキ/踊る! アメリカ帰りのゴーストバスター』(2005年)も、こうした系譜に連なるものでした。
『2.0』は、古色蒼然とした黒魔術映画のフォーマットに、メカニックでフラクタル的な仰天映像をまぶし、さらに何とも言えないユーモア(その多くは台詞に拠らないものです)をトッピングした147分、是非とも劇場で味わってください。
文:安宅直子
『ロボット2.0』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年4月放送
『ロボット2.0』
ある日、突然、インドの街からすべてのスマートフォンが消えた。そして携帯業者や通信大臣がスマホに殺されるという事件が次々に発生。バシー博士が助手のニラーとスマホの行方を追ううちに、無数のスマホが合体し巨大な怪鳥に変身していることが判明。やがてその巨大怪鳥は人類を襲いだし、軍隊でも抑えきることのできないモンスターと化す。バシー博士は、かつて封印された、あの伝説のロボット「チッティ」を復活させ、人類を守ることを思い立つ。そして、それはインド中を巻き込んだ、壮大なバトルの幕開けとなった!
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年4月放送