「マーティン・スコセッシやオリバー・ストーンが『感動した』と言ってくれた」
―映画の鑑賞後に観客から言われた言葉で、最も印象的だったものは何でしたか?
ジュリアン:マーティン・スコセッシが、ウィレムの演技について「彼の人生でも最高のものだ」と言ってくれた。ウィレムはマーティンの映画(『最後の誘惑』[1988年])でキリストを演じているんだけど、その演技も素晴らしかったよ。だから、これは凄い褒め言葉だったね。マーティンはとても感動していたよ。彼はモロッコのマラケシュでこの映画を見たんだ。上映後、妻のルイーズと一緒に彼と会ったんだけど、最高だった。彼の目は嘘をつかないから。誰かが興奮しているのは見たら分かるし、いい印象だった。オリバー・ストーンもウィレムと仕事をしたことがある監督で、彼も僕たちにとても感動的な手紙を書いてくれた。それに、たくさんの心からの支援をもらった。……そうだ、先日、僕がヴェネチアにいたとき、ホアキン・フェニックスが「この映画を5回観た。ウィレムは大好きな役者だ」と言ってくれたよ。ウィレムはこんなことを色々聞くのはちょっと照れるかもしれないが、ギレルモ・デル・トロとクリストフ・ヴァルツも褒めていた。
僕とウィレムは同じ船で航海していたかのようだった。彼が気持ちのままに演技して、僕も一緒に連れて行ってくれた感じなんだ。様々な監督たちからのそんな反応を見るのは驚きで、とてもうれしかったね。自分の仲間や、自分が心から尊敬している人たちにそう思われるのは、素晴らしいことだよ。それはファン・ゴッホが思い焦がれていたものだ。
―この映画はまさにゴッホの靴を履いて、彼が観た美しい景色を体験できる素晴らしい映画でした。本作に出てくる景色や情景の中で、特に印象的だったものはありますか?
ウィレム:美しい光が射し込む草原でのシーンがとても印象的だったね。もともと台本にも載っていないシーンで、あまりにも光が美しいから撮影しようという話になったんだ。そこはゴッホが眠っているお墓の近くだった。ジュリアンから「イーゼルを置いて絵を描く準備をしてくれ」と言われたんだけど、急遽撮ることになったシーンだったから、絵を描く準備がすぐに出来なかった。だから僕は、絵を描くのではなく景観を噛みしめるように、草原を歩き回って撮影した。劇中にも出てくるけど、僕は地面にある泥を顔に塗って、その泥を食べたんだ(笑)。そのシーンは本当に思い出深くて、その土地との繋がりを強く感じることができた。実は、その草原の近くでゴッホが人生最後の絵を描いたんだよ。とても運命的で、僕にとってその草原は特別な場所になったね。
ジュリアン:ゴッホは背の高い葦の中を歩いていて、その葦を切って筆を作った。その筆を持って、遠くの草原まで歩いて、丘を登ってその筆で絵を描いたんだ。ゴッホがいかに社会から遠いところに存在していたかが分かるよね。そこまで社会から自分を遠ざけることができたところに、ゴッホの決意の強さを感じるよ。そんな彼の決意を感じられる風景は数多くあったね。それに、南フランスにあるアルルという地域の風や木々も特別だ。画家のフランシス・ベーコンが、ゴッホがアルルで仕事場に行く画を描いているんだよ。
―ゴッホをリサーチして知った驚きの事実はありましたか?
ジュリアン:今回、ゴッホのことを調べいてとても面白いと思ったのは、彼は既に存在している絵を複製、模倣して描くことに興味があったことだね。日本の浮世絵だけでなく、他の人が描いた絵もいくつか再現していた。昔から知っていたことではあるけど、ゴッホの「刑務所の中庭(囚人の運動)」は、版画家ギュスターヴ・ドレ作「ニューゲート監獄-運動場」の作品を忠実に模倣して描いたものだ。あの有名な「ひまわり」や「アルルの女(ジヌー夫人)」も、同じ絵を何枚も描いた。自然の中で絵が描けない時は、自分が描いた絵を再現するように描いていた。そういう意味では、ゴッホは“アンディ・ウォーホル”に似ていると思う。彼はポストモダンの先駆者だったのかもしれないね。
ウィレム:撮影中に実際に絵を描くことで、ゴッホが残した手紙に書かれていたこと、彼の人生や、頭の中で何を考えていたかを、深く知ることができた。新しい物の見方を学んだよ。絵を描くことは創作活動であり、瞑想的な行為でもあることを体感したね。
「マッツは美しいルックスを持っているだけでなく、素晴らしい人格者なんだ」
―先日、本作にも出演しているマッツ・ミケルセンが来日していましたが、彼にはどういった印象を持っていますか?
ジュリアン:マッツとの撮影はとても楽しかったよ。素晴らしい俳優だ。この企画を考えたときに、ウィレムをゴッホ役に決めていたように、はじめからマッツには神父役を演じてほしいと思っていた。実は、マッツとは一度も会ったことがなかったんだけど、出演をオファーしたら即答で引き受けてくれたんだ。それで撮影現場に来てくれて、彼の出演するシーンはほぼファーストテイクで撮り終えた。表現力のある2人が私の作品に出てくれたことが、とても嬉しかったね。
マッツは数日間しか撮影現場にいなかったけどが、「自分のシーンが終わったら帰っていいよ」と彼に伝えたところ、なんと最後に僕らに贈り物を渡して、サッと立ち去って行ったんだ。本当に人間ができた人で、自分の横にずっといて欲しいと思える人物だね。
ウィレム:マッツは主役を演じることが多い俳優だから、ひとつのシーンの撮影のためだけに参加してくれたことに感謝を述べたい。彼は美しいルックスを持っているだけでなく、素晴らしい人格者なんだ。俳優というものは自己中心的で、自己顕示欲が強くなって、役を台無しにしてしまうこともある。でもマッツは、セリフが多い神父役で、とても変わったスタイルでの撮影にも関わらず、文句ひとつ言わず見事に演じみせた。
―『永遠の門 ゴッホの見た未来』を観るのを楽しみにしている日本のファンに、一言いただけますか?
ジュリアン:僕たちが作ったフィンセント・ファン・ゴッホの映画、『永遠の門 ゴッホの見た未来』を皆さんに観ていただけることを願っています。映画には、こんな場面があります。ゴッホはずっと日本に来たかったので、ゴーギャンがマダガスカル行きを決めたとき、「日本がいいんじゃないか?」と言うんです。ゴーギャンは「いや、マダガスカルだ。インドの近くの大きな島だよ」と答えました。ゴッホは日本に来たくて何とかしようとしましたが、結局フランスのアルルまでしか行けませんでした。彼は一度も日本には来ることはできなかったんです。けれども、2019年10月に彼の絵画がたくさん日本に来て、大きな展覧会が開催されます。それに、ゴッホは僕たちの映画でも日本にやって来たので、皆さんにこの映画を観ていただけたら、彼はとても喜ぶと思います。僕たちも嬉しいです。
ウィレム:この映画の宣伝のために日本に来られて、とても嬉しいです。僕はこの映画が大好きで、僕にとって、とても素晴らしい経験になりました。みなさんが観てくださることを願っています。
『永遠の門 ゴッホの見た未来』は2019年11月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
『永遠の門 ゴッホの見た未来』
生きているうちに誰にも理解されなくとも、自分が見た<世界の美しさ>を信じ、筆を握り続けたフィンセント・ファン・ゴッホ。不器用なまでに芸術と向き合った孤高の画家は、自らの人生を通して何を見つめていたのか――。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
2019年11月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー