『カノン』(1998年)『アレックス』(2002年)など、常に映画ファンを驚かせ続ける鬼才、ギャスパー・ノエ監督の最新作『CLIMAX クライマックス』が2019年11月1日(金)より公開となる。監督自らが選んだ22人のダンサーたちが、ドラッグやアルコールで次第に理性を失っていく狂乱の一夜を描き出し、第71回カンヌ国際映画祭で上映された際は賛否が真っ二つに分かれた本作。そんな問題作について、ギャスパー・ノエ監督に話を聞いた。
「ジェットコースターに乗っているような感覚を味わってほしい」
―『CLIMAX クライマックス』はとても中毒性がある映画ですが、何か狙いがあったのでしょうか?
この映画は踊ることの喜びが伝わればいいな、と思って作ったんです。最初はものすごくハッピーなダンスシーンからはじまるんですが、だんだんみんなおかしくなって、最後はダークな要素が強くなって、お互いに罵り合ったり、喧嘩したりする状態になってしまいます。観ている人がジェットコースターに乗っているような感覚を、この映画で味わってくれればいいなと思っています。
―ダンサーのみなさんも、とても素敵でした。
出演しているダンサーたちは、自分がインターネットで見つけた人たちなんですが、さまざまなイベントで踊ったり、ダンスバトルをしたり、あくまでもみんな趣味の範囲で踊っていたような人たちだけなんですね。だから、彼らにとって初めての経験だったということも含めて、ただ観ている人に楽しんでほしいと思っています。
―作品の中に出てくるドラッグやアルコールがアクセントになっていますね。
実際の彼らは、とてもクリーンでドラッグやアルコールなどを全然やらない人たちです。しかしこの物語の中では、ドラッグやアルコールで結局は堕落していく人間の様子を撮りたかったので、彼らには実際のそういう人たちの言動を撮影した動画をたくさん参考にしてもらいました。人間は何らかのきっかけで、簡単に自分自身を破滅させてしまう存在であること、何かを作り上げるよりも壊す方が簡単なんだということを、ドラッグとアルコールを使って描きたいと思いました。
「どう動くダンスか先が読めないからカメラも即興的」
―今回の作品にインスピレーションを与えたものはあったんでしょうか?
この作品に関しても、他の作品に関してもそうなんですが、おそらく今までに自分が読んだ本や観た映画とか、無意識のうちに本当にたくさんのことに影響されているはずですし、インスパイアされているはずなんですよね。だから、この作品が何かの影響を受けたことを特定するのは難しいです。
ただ、映画の冒頭でダンサーたちのオーディションをしているようなインタビューシーンがあるのですが、周りにたくさん積み重ねてある本やVHSは私物なんです。年代、時代ごとに自分が本当に好きで、何回も読んだり、何回も観たりした作品たちなんですよね。だから、その作品たちが、おそらく今回の映画に関して、いろいろインスパイアされた作品としてあげられるかもしれませんし、今回は『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)や『タワーリング・インフェルノ』(1974年)みたいな、閉ざされた空間の中で人々がパニック状態に陥って、そこから起こるカタストロフィーを撮りたいと思ったので、この2本は直接的に意識しているかもしれません。
―ダンスシーンのカメラワークや演出方法も特殊だと思うんですが、これは現場で監督が思いついたことでしょうか?
今回は順撮りをして、自分がカメラを回しました。他の作品の時もそうなんですが、即興を軸にした撮影方法をとっていて、特に今回は、ほとんど即興のシーンなんです。ダンスにしても、彼らがどう動くか先が読めないし、その時にならないと分からない。だから、撮影も基本的にあらかじめ絵コンテを作って決めておくようなことはしないで、その時々で即興的なんです。
『CLIMAX クライマックス』は2019年11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開