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是枝監督が釜山映画祭で受賞!「政治では困難な連帯を、映画と映画人でより深く」

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ライター:#石津文子
是枝監督が釜山映画祭で受賞!「政治では困難な連帯を、映画と映画人でより深く」
第24回釜山国際映画祭 是枝裕和監督

「この場にいるのは“映画の力を信じている人たち”なのだと信じている」

2019年10月3日~12日に開催された第24回釜山国際映画祭で、是枝裕和監督が八面六臂の大活躍を見せた。

アジア映画人賞(The Asian Filmmaker of the Year)を受賞、またカトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎えた新作『真実』(2019年)が映画祭のメイン部門であるGala Presentationに選ばれた是枝監督は、10月5日に釜山で記者会見を行った。

イ・ヨングァン映画祭理事長からトロフィーを授与される是枝監督

「空港から直行してきたばかりで、ちょっと落ち着かないのですが」と前置きしつつ、「2019年の韓国映画がちょうど100周年という本当におめでたい年に、僕のデビューとほぼ同じ年から始まり、困難を乗り越えながら成熟していった釜山映画祭でこの賞を受賞させて頂いた。本当に光栄な時間をここで皆さんと分かち合えることを、嬉しく思っています」と挨拶。

会見で「日韓関係が悪化していることについて聞かせてください」という質問が出ると、「出ると思ってたんだよね」と是枝監督は苦笑。進行役のチョン・ヤンジュン執行委員長が「質問するのは自由だが、監督は映画以外の質問に答える必要はありません」と止めに入ったが、是枝監督は「他の質問の方が難しいかな」と笑顔を見せた。5年前、セウォル号沈没事故へのパク・クネ政権(当時)を批判した映画『ダイビング・ベル セウォル号の真実』(2015年)を釜山映画祭が上映したことから、当時の映画祭委員長だったイ・ヨングァン氏が解任されるなど大きな危機に陥ったことを踏まえ、次のように語った。

(左から) イ・ヨングァン映画祭理事長、是枝監督、依田巽ギャガ会長、チョン・ヤンジュン執行委員長

「この映画祭が政治的な圧力を受けて開催が危ぶまれた時期に、世界中の映画人から“釜山映画祭を支えたい”という声があがりました。僕も微力ながら、この映画祭に対する意思を表明しました。そのことによって、困難を乗り越えて釜山映画祭が存続し、また僕自身がよんでいただけるような状況になっている。その時の映画祭は、よく頑張ったな、よく耐えたなと思います。政治が困難に直面してできない連帯を、映画と映画人がより豊かに、より深く示すことで、逆にこういう形で連帯ができるということを見せていくことが大事なのでは思っています。なので、この場に来ています。そして、作り手、ジャーナリスト関係なく、映画の力を信じている人たちが、この場にいる人たちなのだと信じています」

「大きく豊かな“映画という共同体”の中で価値観を共有し繋がれることが本当に幸せ」

記者会見での是枝監督

また、アジアの映画人としての自覚、映画を撮り続ける意義も次のように示した。

「普段もあまり日本映画を撮っているという意識はないですし、今回もフランス映画にしなければというプレッシャーがあったわけではないんですね。とにかくいい映画を作りたいという意識だけで撮っている。それでもやはり、同時代のアジアの監督たち、僕にとって大きな存在であるホウ・シャオシェンさん(台湾)とか、イ・チャンドンさん(韓国)、ジャ・ジャンクーさん(中国)という、同じ時代に映画を撮っているアジアの同志・友人たちに触発されながら、自分も彼らに観てもらって恥ずかしくないものを作りたいと、25年間やってきました。そういうアジアの映画人である意識だけは、自分の心の底にあるんだろうなと思っていましたので、その意味でも今回の受賞は感慨深いものがあります。

『真実』photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

そして、なぜ映画を撮るのかというのは本当に難しい質問なんですけど、『真実』のように日本を出てフランスで、フランスのスタッフ、キャスト、アメリカのキャストと一緒に映画を作ったり、優れた映画祭に招待を受けて、そこで出会う映画人たちとの交流を通し、それこそ自分が目に見える形で所属をしている国とか共同体より、もっと遥かに大きな、豊かな“映画という共同体”の中に居させてもらい、フランスのようなナショナリズムとは無縁の地で価値観を共有し映画を通して繋がっていけるという気持ちになれることは、本当に幸せです。そういう時間は僕を映画の作り手としても、一人の人間としても成長させてくれると思っているので、映画を作り続けます。」

イ・ヨングァン理事長の言葉に感激!「是枝監督は釜山映画祭にとって特別な友人」

『真実』©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

その後行なわれた『真実』の上映は、800席以上の大劇場が数分で売り切れる人気ぶり。そこで改めて、アジア映画人賞のトロフィーを授与されたが、その際、現在は復権し、釜山映画祭理事長となったイ・ヨングァン氏が登場し、「是枝監督は釜山映画祭にとって特別な友人です。監督の作品はどれも大好きなのですが、特別好きな映画があるんです。それは『海よりもまだ深く』(2016年:韓国題『台風のあとで』)です」と言うと、会場から笑いが漏れた。

2018年に開催された第23回釜山映画祭は、台風に直撃されメインステージが壊れるなど大きな被害を受けたが、今回もやはり台風直後の開催だった。そして理事長は「台風に直撃されたとき、私はスタッフに“是枝監督の映画のように、台風を耐えよう。そして楽しもう。そうすれば、きっと乗り越えられる。『海よりもまだ深く』で父親が息子に言ったように、どうなるかより、どうしたいかと思うことが大切なんだよ”と言いました」と語った。その言葉に、映画祭がかつて直面した困難、そして日韓の政治状況が悪化している今こそ、是枝監督を表彰しようという映画祭の矜持を感じ、聞いていて胸が熱くなった。

また、是枝監督も「こういう名誉賞をいただくことがちょっと増えていまして、そろそろキャリアの仕上げに入っていると見られているんじゃないか、という不安があるんですね。今回、『真実』でご一緒したカトリーヌ・ドヌーヴさんに比べたらまだまだ駆け出しの若造なので、これからの僕の映画人としてのキャリアの道のりは、今まで過ごしてきた25年よりもさらに長くしたいと思っております。このトロフィーはアジアの尊敬する映画人たちから渡されたリレーのバトンだと思って、しっかり受け止め、次の世代のアジアの作り手たちに渡したいと思います。いろいろな対立とか隔たりを超えて、映画と映画を繋いでいく役割を担っていければと、普段はそんなことは考えないのですが、今日はそう思いました。ありがとうございます」と、語った。

質疑応答後、是枝監督の元に殺到する韓国の映画ファン

観客との質疑応答の後は、まるでアイドルのようにサイン攻めにあうなど、韓国でも高い人気を誇る是枝監督。翌日は、『息もできない』(2008年)監督・主演のヤン・イクチュンが聞き手となり、90分にわたって映画人生を振り返るセミナーも行われ、こちらも盛り上がった。ヤン監督も言っていたが、是枝監督がかつての失敗や苦労を語る姿に、若い映画人たちは励まされたに違いない。是枝監督の言うように、“映画という共同体”の力を感じさせてくれる場所、それが釜山映画祭だと改めて実感させられた数日間だった。

第24回釜山国際映画祭 ヤン・イクチュン監督(左)是枝裕和監督(右)

取材・文:石津文子

『真実』は2019年10月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

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『真実』

全ての始まりは、国民的大女優が出した【真実】という名の自伝本。
出版祝いに集まった家族たちは、綴られなかった母と娘の<真実>をやがて知ることになる――。

国民的大女優ファビエンヌが自伝本【真実】を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール、テレビ俳優の娘婿ハンク、ふたりの娘のシャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書……お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ1つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」

そしてこの自伝は、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く「真実」をも露わにしていき――。

制作年: 2019
監督:
出演: