綾野剛、佐藤浩市ら豪華キャスト集結! 山奥の集落で起こった少女失踪事件から始まる悲劇
『ヘヴンズ ストーリー』(2010年)『64 -ロクヨン-』(2016年)『菊とギロチン』(2018年)など、社会問題を織り交ぜた重厚な人間ドラマを撮ってきた瀬々敬久監督が放つ最新作『楽園』。吉田修一の最高傑作と評された「犯罪小説集」から「青田 Y 字路」「万屋善次郎」を映像化した衝撃のサスペンス大作だ。
過疎化が進む山奥の集落で、下校途中の少女が失踪。村のY字路で最後に少女と別れた同級生・紡(杉咲花)は、心ない村人たちの発言に深く傷つき心を閉ざしてしまう。やがて思春期を迎えた紡は、各地を転々とし偽ブランド品を売っている母親を手伝う内気な青年・豪士(綾野剛)と知り合い、村に馴染めない者同士心を通わせてゆく。
だがその絆も、再び発生した失踪事件の犯人が豪士ではないかと村人たちに疑われたことがきっかけで、一瞬のうちに消え去るのだった。
親を介護するために集落にUターンしてきた田中善次郎(佐藤浩市)は、追い詰められる豪士をだまって見ていたが、その後、些細なことがきっかけで自身が村八分となり、孤立を深めていく。過疎化が進む村では実際に起きているであろう現実が描かれ、まんまと瀬々監督の術中に嵌った観客たちは、なんとも言えないもやもやを抱えたまま顛末を見守ることになる。
実際の事件を連想させるやり場のない怒りに心が震える
あらすじを読んで、先日起こった少女の行方不明事件を連想した方も少くないだろう。また終盤に起こる事件も、実際に起こったあの事件が瞬時に脳裏をよぎり、こういった状況ならば情状酌量もあり得るのか? などと考えさせられてしまう。
よそ者や村のルールを破った者への冷酷さ、嫌われている人間には何をしてもよいという周囲の陰湿さがとにかくリアルで、観る者の精神をゴリゴリに削っていく。
それでも村の一員として生きていくために、嫌がらせを見ても見ぬふりをし、村八分となった彼らに救いの手を差し伸べられないその他大勢の村人たちの残念さも、美化することなく痛烈に描く。
この暗黒世界に差す一縷の光 ― 俳優たちの名演と美しい主題歌
監督の術中にはまり陰湿な物語に惹き込まれるということは、俳優たちの演技が素晴らしいということでもある。特に、吃音気味で感情を表に出すことが苦手な青年を演じた綾野剛の演技は非常に印象に残った。いかにも犯罪を起こしそうな危うさと、大人に虐げられ苦しむ若者の苦悩を見事に演じ切っている。
また、大きく潤んだ目で大人を見つめ続ける杉咲花の目線の演技、次第に道を踏み外してゆく佐藤浩市の切実な狂気、孫が見つからない怒りを少女に激しくぶつける柄本明(藤木五郎)の凶暴性など、一つ一つのシーンがグサリと胸に突き刺さる。俳優たちの演技はもちろん、些細な表情も丁寧に逃さず拾ってみせた監督の手腕でもあるだろう。
またエンディングで、「楽園」という言葉に希望を見出す若者のテーマソングかのように流れる主題歌も聴き逃せない。先日、野田洋一郎(RADWIMPS)のプロデュースであることが発表され話題となった、上白石萌音の「一縷」だ。
この曲を聴きながら、こんな理不尽を若い世代に引き継いではいけない、我々大人の世代で断ち切らなければならない、と思わされた。負の連鎖を断ち切る勇気、それこそが瀬々敬久が最も伝えたかったことなのではないだろうか。
『楽園』は2019年10月18日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー