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「タバコ1本頂戴」J・ビノシュ、大女優ドヌーヴへの接近術?是枝監督『真実』の撮影秘話

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ライター:#BANGER!!! 編集部
「タバコ1本頂戴」J・ビノシュ、大女優ドヌーヴへの接近術?是枝監督『真実』の撮影秘話

映画『真実』で、夢と語っていた是枝裕和監督との初タッグ、カトリーヌ・ドヌーヴと初共演を果たしたジュリエット・ビノシュ。フランスで撮影された本作の撮影秘話を明かしてくれた。

―まず是枝監督との出会いを教えて下さい。監督のどういった部分に魅力を感じましたか?

是枝監督の『誰も知らない』(2004年)を公開当時に観て感動しました。是枝監督は世界的な偉大な監督の一人だと思いますし、女優としては素晴らしい監督と常に仕事をしたいと思っています。「是枝監督の作品に出たい」と彼に勇気を持って言いました。シャイになったり、プライドの高さによって自分から声を掛けないなど、チャンスを逃すようなことはしたくないと思っています。

第76回ベネチア映画祭『真実』フォトコール ジュリエット・ビノシュ(左)、是枝裕和(中央)、カトリーヌ・ドヌーヴ(右)© Getty Images

是枝監督は映画監督であり、素晴らしい作家でもあります。これまで、とても作家性の強い作品を生み出しています。『真実』では、様々なレベルで物事が多様に展開していきます。母と娘が物語の中心でありながら、多彩な登場人物が絡んで、アンサンブルを奏でます。カトリーヌ・ドヌーヴ演じる女優(ファビエンヌ)がスポットライトを浴びて、その周りの陰に居る人々がどういう風に生きているのか、そんな見方が出来る作品です。

『真実』©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

―舞台挨拶で、映画監督には“目と耳の感受性”が必要で、是枝監督にはその才能があると仰っていました。

映画というのは、撮影監督が責任を持つ“映像”と、音響監督が責任を持つ“音”、その2つの要素から成り立っています。全体を仕切る監督が目や耳の鋭い感受性を持っていることが、とても大切だと思います。感受性がない監督だと、俳優は演技に集中することができず、より高みを目指すこともできません。是枝監督は、鋭い感受性があり、様々な物事を受け止めて、感動し、その感情を周りの人々と分かち合うことできます。女性的な感覚を持ち合わせていると言えるでしょう。そして、是枝監督は何かに感動すると、子供のような表情を見せてくれるイノセントな部分を残した人です。

『真実』©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

―是枝監督とは、通訳を通してお話されることになったと思いますが、難しさを感じましたか?

私は台湾のホウ・シャオシェン監督など、英語やフランス語を話さない監督との仕事も経験があって、通訳を通してコミュニケーションを取ることに戸惑いはありません。是枝監督は、フランス語や英語での演技を見て、納得いくものが撮れたの決断しなければいけなかったので、、監督自身がその撮影方法に慣れていく必要があると思いました。あまり決断が遅れると、俳優の集中力も低下していくので、こちらからも監督に積極的に意見を言いました。

第76回ベネチア映画祭『真実』レッドカーペット© Getty Images

―他のインタビューで、自分の中に役を落とし込んでいくのに3週間かかるとお話されていました。今回は、前日に台本を変えて当日に渡されることが多かったようですが、何か苦労されたことはありましたか?

私はいつも演技のコーチを雇って、役の準備をしています。監督が入念に準備をするのと同じく、俳優も役に対してしっかり準備する必要があると思っています。ただ、是枝監督は俳優が事前準備をすることを好まない方だったので、今回はコーチを雇いませんでした。だから、大変ではありましたがこれまでの経験を生かして、いつもと違うプロセスに順応していきました。

また、撮影当日に台詞が変わると、台詞を間違えないことに必死になり、役に集中できなくなることがあると思います。これまでは、しっかり準備をして、台詞が自然と出ることが大切だと思っていました。ただ、自分の中でその役が落とし込めてさえいれば、台詞が変わろうがその状況で言うべきことを言葉にできるので、大きな問題ではないと思えるようになりました。それと、今回はフランス語での演技で是枝監督は細かいニュアンスまでわからないと思うので、役がつかめていれば台本に近いことを言えば大丈夫でした(笑)。

『真実』ジュリエット・ビノシュ

―子供のころに、カトリーヌ・ドヌーヴの『ロバと王女』(1970年)を観て、カトリーヌに憧れていたというお話をされていました。『真実』で初共演となりましたが、どうやって彼女と距離を縮めていきましたか?

カトリーヌは誰もが知る大スターです。そんな彼女と私が母と娘を演じるので、いかに彼女と距離を縮めるかが、とても重要なポイントでした。カトリーヌは、割と人と距離を置くタイプです。これまでの数多くの経験からなのか、彼女が女優になった時代の影響かはわかりませんが。フランス語には親しみを込めた二人称「tu」と、かしこまった二人称「vous」があります。はじめのころ、カメラが回っていないときは、私がカトリーヌに「tu」を使って親しげに話しているのに、彼女は「vous」を使って距離を取ってきました。これはなかなか難しいなと思っていましたが、劇中で母と娘を演じて「tu」を使って会話をしていたので、撮影以外でもカトリーヌからも自然と「tu」を使って話しかけてくれるようになりました。そこから、お互いからかいあって、ユーモアを持って会話できるようになりました。

『真実』カトリーヌ・ドヌーヴ(左)、ジュリエット・ビノシュ(右)©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

それと、カトリーヌは愛煙家で有名で、私は『真実』の撮影に入るまでタバコをやめていたのですが、彼女と仲良くなるためにまた吸ってみようと思いました。カトリーヌがタバコを吸っていたので「1本貸して」とお願いすると、「あなた、貸して貸してと言うけど、どうせ返さないでしょ」と言われました。私も負けたくなかったので、「あとで1箱買って返すわよ」と言うと、リハの時にカトリーヌが私にタバコを1本投げて渡してくれました。その時「よし、勝った!」と思いました。そのあと、約束通り1箱返しましたが、「これは私が吸っている銘柄じゃないわ」と文句を言われました(笑)。ベネチア映画祭で再会したときには、彼女の方から「タバコ欲しい?」と言ってくれて、距離が縮まったようで嬉しかったです。

『真実』photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

『真実』は2019年10月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

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『真実』

全ての始まりは、国民的大女優が出した【真実】という名の自伝本。
出版祝いに集まった家族たちは、綴られなかった母と娘の<真実>をやがて知ることになる――。

国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝本【真実】を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優の娘婿ハンク(イーサン・ホーク)、ふたりの娘のシャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書……お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ1つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」

そしてこの自伝は、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く「真実」をも露わにしていき――。

制作年: 2019
監督:
出演: