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『Merry Christmas! ~ロンドンに奇跡を起こした男~』 作曲家マイケル・ダナ 独占インタビュー

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ライター:#森本康治
『Merry Christmas! ~ロンドンに奇跡を起こした男~』 作曲家マイケル・ダナ 独占インタビュー
作曲家:マイケル・ダナ
チャールズ・ディケンズの不朽の名作「クリスマス・キャロル」誕生の過程とディケンズの心をユーモアとファンタジーたっぷりに描いた、『Merry Christmas! ~ロンドンに奇跡を起こした男~』。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』でアカデミー賞作曲賞を受賞し、今回も作品をより際立たせる音楽を担当したマイケル・ダナに、音楽ライターの森本康治氏がBANGER!!! 独占インタビューをしてくれた!

この物語はディケンズの作家としての苦悩やプレッシャーを描いた作品。クリスマスソングだらけにはしたくなかったんだ

「オリヴァー・ツイスト」や「大いなる遺産」などで知られる英国の作家チャールズ・ディケンズ。『Merry Christmas! ~ロンドンに奇跡を起こした男~』(2017)は、ディケンズの代表作「クリスマス・キャロル」がいかにして誕生したのかを描いた伝記/ファンタジー映画である。劇中の音楽を作曲したのは、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012)でアカデミー賞®作曲賞を受賞したマイケル・ダナ。彼が弟のジェフと共同で制作したアルバム「ケルティック・ロマンス」を筆者のレーベルでリリースして以来、ダナ兄弟には幾度もインタビューに応じてもらっており、今回も兄マイケルがBANGER!!!のインタビューに快く答えてくれた。

 ――バハラット・ナルルーリ監督とは今回が初めての仕事になりますが、あなたはどのような経緯で本作に参加することになったのでしょうか?

ナルルーリ監督はインド系イギリス人で、僕のスコアにはインド音楽の要素を取り入れた作品がいろいろあるから、以前から僕の音楽を聴いてくれていたんだ。この映画にはインドの影響は全くないけど、彼は僕の音楽のファンとして、一緒に仕事がしたいと思ってくれたんだよ! 僕たちはすぐに意気投合した。僕たちがインドと西洋の両方の世界を知っていることは、コラボレーションの大きな出発点になったと思う。

 ――この映画にはメインテーマでもある「ディケンズのテーマ」や「スクルージのテーマ」など、印象的なメロディがたくさんあります。音楽のコンセプトはどのようなものだったのでしょう?

僕はとても伝統的な方法でクリスマスを祝う家庭で育ったから、この映画は自分にパーソナルに語りかけてくるような、本当に素敵な映画だと思った。僕たちがよく知っているクリスマスの精神の基礎を作ったというディケンズの大きな役割は、自分にとって多くの意味を持つものだった。音楽のコンセプトとしては、ディケンズが自宅で考えたり感じたりしたことを、様々なスタイルやムードを伴ったオーケストラで描くというのが重要だった。でも曲作りの手法はいつもと変わらない。物語の主題を掘り下げて、それを音楽に反映させ、観客にストーリーを伝える手助けをするというものだ。

 ――この映画はディケンズの伝記でもあり、「クリスマス・キャロル」のキャラクターを描いたファンタジーでもあります。あなたはこのユニークな世界観をどう感じましたか?

この映画は、自分の人生に突然訪れた金銭的な問題や名声、出版までの期限などのプレッシャーに苦悩する作家の物語だ。彼はプレッシャーのせいで感覚が麻痺してしまい、創作において自分の”声”が見出せなくなっている。そして彼がどのようにしてそれを克服するのかが描かれているが、それは創作に携わる人なら誰でも経験があることではないかと思う。僕自身もアカデミー賞®やゴールデングローブ賞の作曲賞を受賞してから数年間、ちょっと行き詰まっていた時期があった。というのも、僕がそれまで20年以上続けてきた作曲の仕事は、まず自分自身が楽しむためにやってきたことだったので、あまりプレッシャーを感じなかったんだ。でもそれが(受賞で)突然変わってしまった。本来の感覚を取り戻すまで少し苦労したこともあったから、この物語にはとても共感できた。

ディケンズは様々な架空のキャラクターを創り出し、彼らと会ったり、喋ったり、口論したりするぐらいリアルな世界を構築していく。「クリスマス・キャロル」の世界は、ある意味彼にとって痛みを伴う方法で作られていると言える。そして彼は自分と父親とを隔てる心の壁を壊さなければならない。彼は幼い頃に自分を失望させた父親を受け入れ、批判や恨みといったわだかまりを捨て、最後には父親をただ愛するようになる。ディケンズはこのようにして、クリスマスの精神は愛と思いやりなのだという本のテーマを見つけ出していくんだ。

 ――この映画はクリスマス・ストーリーの要素もありますが、ポピュラーなクリスマス聖歌は劇中でほとんど使われていないように思います。これはあなたのアイデアでしょうか? それともナルルーリ監督からのリクエストだったのでしょうか?

バハラットも僕も、この映画をよく知られたクリスマス聖歌でいっぱいにするのは避けたいと考えていたんだ。この物語はディケンズの作家としての苦悩や、創作の行き詰まりと向き合う姿が重点的に描かれていて、彼がスランプを克服するドラマは典型的なクリスマス・ストーリーとは違うものだからね。でもディケンズの家でクリスマスの準備をしているシーンで、実はほんの少しだけ”ひいらぎかざろう”のメロディをスコアの中に入れているんだよ!

インタビュー/文:森本康治(映画音楽ライター)

Special thanks to Mychael Danna

新宿バルト9ほかで上映中『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』

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『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』

1843年、ロンドン。落ち目となったベストセラー作家のチャールズ・ディケンズは、これから子どもが増えるというのに、家の改装費用にも事欠くありさまだった。友人でエージェントのフォースターと出版社へと足を運ぶが、原稿料の前借りも断られてしまう。起死回生を狙って新作の構想を練っていたある日、チャールズが耳にしたのは、アイルランド人のメイド、タラが子供たちに聞かせていたクリスマスのストーリー。それは「クリスマスイヴの日にはあの世との境目が薄くなって、精霊たちがこの世にくる」と祖母が語ってくれた話だという。

制作年: 2017
監督:
音楽:
出演:
吹替: