説明不要のビートルズと、いま世界中を虜にするエド・シーラン、どちらも最低限の予習は必要
もしも世界中で自分以外の人たちが、急に“ビートルズ”の存在を忘れてしまったとしたら、数々の名曲を自分が作ったことにする? ……この一点だけで、しばらく妄想が進んでしまうような映画が『イエスタデイ』(2019年)だ。
「あのバンドの曲、自分が作ったことにしたかったな」というのは一種の称賛というか、ちょっと恥ずかしくもあるが自分も言ったことがあるし、なんなら漫画家・大橋裕之先生の連載で漫画化して頂いたこともある。
漫画家・大橋裕之さんがミュージシャンに「自分が作ったことにしてしまいたいぐらい好きな1曲」とその理由を聞いて漫画化するシリーズ。今回は、ミツメの川辺素さん。
— ミーティア (@meetia_music) January 25, 2018
あの曲、ぼくが作ったことになればいいのに 第12回https://t.co/Tr0K9lrt8S #meetia pic.twitter.com/iICAMT7503
しかし、そんなことが実際に起きたら、良いことばっかりじゃないかもよ? という一歩進んだ展開が、この映画では起こってゆく。ビートルズの楽曲や、その背景について知っていれば、それぞれの楽曲が登場するシーンでの現実とのねじれたパラレル感を、より楽しめる映画なんじゃないかと思った。
ただ“ビートルズについての映画”と思って観ると、エド・シーランがかなり重要なキャストとして登場するので、ビートルズはもちろん彼についても事前にある程度知っていた方が、ストーリーへの理解が深まるだろう。
主人公ジャックはエド・シーランの投影? 地元愛あふれる展開にほっこり
映画『イエスタデイ』の最初の舞台となるのは、主人公ジャックが住むイギリスのサフォーク州。小さな海辺の町である。エド・シーランもこの町で育ち、16歳で音楽の道を歩むべくロンドンへ移り住んだが家賃も払えないほどの極貧状態で、一時はホームレス生活をしていたこともあったそうだ。
それでも路上や小さなライブハウスで年間300本ものライブを行ったエド・シーランは、地道な活動の甲斐あって成功を収め今に至る。2017年から2019年まで続いたツアーでは、U2が持っていた史上もっとも成功したツアーの記録を塗り替えるなど、いまや世界一成功したシンガーソングライターとなった。
現在はサフォークの地に家を建てて暮らし、地元愛の強いシンガーソングライターとしても知られている。そんなエド・シーラン自体が、本作の主人公ジャックのモデルなのである。
『イエスタデイ』は、本人役で出演しているエド・シーランとジャックが奇妙に交差しつつ、ビートルズが存在しない世界で巻き起こる現実と虚構がごちゃまぜになったストーリーが繰り広げられる。観終わったあと、身の回りの現実と虚構の境目も曖昧になったような、少し不思議な感覚が残る映画だった。
文:川辺素(ミツメ)
『イエスタデイ』
売れないシンガーソングライターのジャックが“音楽で有名になる”という夢をあきらめた日。12秒間だけ世界規模で謎の大停電が発生。真っ暗闇の中、交通事故に遭ったジャックが昏睡状態から目を覚ますと……
あのビートルズが世の中に存在していない! 世界中で彼らを知っているのはジャックひとりだけ!?
ジャックがビートルズの曲を歌うとライブは大盛況! SNSで大反響、マスコミも大注目!!
すると、その曲に魅了された超人気ミュージシャン、エド・シーランが突然やって来て、彼のツアーのオープニングアクトを任されることに。エドも嫉妬するほどのパフォーマンスを披露すると、ついにメジャーデビューのオファーが舞い込んでくる。
思いがけず夢を叶えたかに見えたジャックだったが─。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2019年10月11日(金)より全国ロードショー