ふたつのアジェンダを正確に描きたかった
―監督が『サスペリア』の物語に、ここまで魅了される理由はなんでしょうか?
私はオリジナル版『サスペリア』(1977)の、ストーリーに惹かれたわけではないんです。正直なところ、あのストーリーはよくある話で、とても無垢な人がダークな世界に入っていき、そこで悪と戦うというもの。グリム童話をはじめそういったお話は世界中にあって、おとぎ話みたいなものだと思うんですね。
私が惹かれたのは“挑発的”な部分なんです。自分も、その挑発的な部分をもっと追いかけたいと思わせる、そういったところに惹かれました。
―芸術的な踊りが印象的でした。プロフェッショナルな集団の振る舞い一つひとつが、マルコス・ダンス・カンパニーが実在するような錯覚、ある種のドキュメンタリーにも見えました。この舞踏団をリアルに描くことにこだわった点を教えて下さい。
そうおっしゃっていただけてとても嬉しいです。人が集団として集まってくる、そこに複雑なテーマというか、彼らにとってのアジェンダがある。それはダンスというアート、そのテーマのもとに集まっていると同時に、魔女の集団でもあるという、2つのアジェンダがあるんです。
それぞれのアジェンダを正確に描くことで、リアリティを持たせたかった。本当にこういうダンスカンパニーがあるかのような、そういったリアリティがほしかったので、あらゆるものが一致していることが重要だったんです。観客が没入できるようなリアルさを目指しました。
映画製作はトム・ヨークら才能あるアーティストと仕事をするよい機会
―トム・ヨークの音楽は撮影前に完成していたと聞きました。事前に彼にリクエストしたことや、実際に音楽がある中での撮影は、何か影響がありましたか?
すべての曲ではないんですが、テーマになるいくつかの曲は準備できていました。映画制作は素晴らしい才能を持ったアーティストを集める良いチャンスでもあるので、この映画が作れたことを嬉しく思っています。
―本作の美術や装飾へのごだわりを教えて下さい。
私たちが使ったカラースキームは鮮やかというか、生きている、息づいているような色合いでした。例えばバルテュスの絵画のような、何かがその下で息づいているように感じられるもの。そのために、1977年のドイツを反映するような、あるいはバルテュスの絵を反映するような色をベースにしています。
―日本でも大ヒットした『君の名前で僕を呼んで』の次に『サスペリア』を作ろうとした経緯を教えて下さい。
長い間「サスペリア」を撮りたいと思っていて、『胸騒ぎのシチリア』(2015)を撮った後に脚本家のデヴィッド・カイガニックと「具体的にサスペリアの話をしよう」ということで台本を作り上げて、そこに<amazon>が制作に入り、制作準備を始めていました。
その頃、ちょうど『君の名前で僕を呼んで』の話が来たので、まずそっちを撮りました。その後で、以前から準備していた『サスペリア』を撮ったので、偶然2作続けて撮ることになったというわけです。
だから『サスペリア』を撮影をすることはとても自然な流れであり、私がずっと尊敬していた才能あるアーティストたちと一緒に仕事ができる機会が与えられて、とても嬉しいです。
監督が参考にした在ベルリンの日本人アーティストとは?
―名匠ダリオ・アルジェントの『サスペリア』にオマージュしたことや、特に作品の見せ方として変えたことを教えて下さい。
まず、オリジナルの『サスペリア』がなければ私の『サスペリア』もなかったので、この映画を作ったこと自体がオリジナルへのオマージュになっていると思っています。私は自分のバージョンの『サスペリア』をとても誇りに思っていますし、自分なりにとてもこだわって作りました。特に、ダンスを重要な要素として取り入れたことを誇りに思っています。
―ベルリン在住のアーティスト・塩田千春さんから美術や装飾について影響を受けたと聞きました。
千春さんは非常に才能のある、ラディカル・フェミニスト・アーティストです。彼女のテーマは、とても深い女性の不気味さというものを描いていると思います。今回の『サスペリア』では、同じように女性の不気味さを描きたいと思っていたので、とてもアヴァンギャルドで前衛的なアーティストである千春さんの作品が非常に参考になりました。
『サスペリア』は2019年1月25日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
『サスペリア』
超名門バレエ団「マルコス・カンパニー」に入団したスージーは、カンパニーに潜む、恐ろしく邪悪な「何か」の存在におびえる。やがて「それ」は仲間を1人、また1人と殺していく―。カルトホラーの傑作、想像を超えた最恐のリメイクが結実。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
脚本: | |
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