サウナ大好き! フィンランド国民は人生の苦楽を汗と一緒に流して明日を生きる
日本では一部の愛好家の間で親しまれてきた“サウナ”だが、いまや“サ活”や“サ道”なんて言葉が登場するほどのサウナブームが到来中。そんな絶好のタイミングで日本公開されたのが、サウナの本場・フィンランドからやってきたサウナ・ドキュメンタリー『サウナのあるところ』だ。
サウナ・ドキュメンタリーと言っても、その歴史や仕組みを淡々と説明するような野暮ったいシロモノではない。サウナを愛する人々が肩を寄せ合い汗を流し、過去の悲しい出来事やつらい状況、そして人生の喜びを吐露し合うという、まさにフィンランド式“人生哀歌”とも言うべき感動のドキュメンタリーである。
本作に登場するのは、主にアラサー~アラカン(それ以上?)の幅広い世代の男性たち。継父から暴力を受けていた幼少時代、愛する妻と幼い子どもとの幸せな生活、離れ離れになってしまった娘への想い、はては元アル中の前科者や妻子を亡くした男性など、置かれた状況は様々。そんなワケアリの人々が、ときに笑い、ときに涙しながら、もれなく汗びっしょりになって(生まれたままの姿で)語り合う姿は、まるでフィンランドが生んだ名匠アキ・カウリスマキが描く悲喜劇のような趣すら感じさせる。
この電話ボックスもサウナなの!? フィンランド国民にとってのサウナの重要性
それにしても、劇中に登場するサウナのインパクトがスゴい。日本では浴場に併設されているのが基本で、完全に独立したサウナ自体が珍しいくらいだが、さすがフィンランドだけあってキャンピングトレーラーや乗用車、さらには電話ボックスからトラクターなどなど、もはやハコ型ものならなんでもサウナにしてしまうんじゃないかというサウナーっぷり。自宅に隣接なんてのは当たり前で、まさかこんなところに!? というような場所にもサウナを常設してしまうのだから恐れ入る。
フィンランド人にとってサウナは日課のようなもので、食後の一服と同じような感覚で嗜んでいることがよく分かる。家族や友人、同僚たちと一緒にサウナに入り、日ごろ溜め込んだ想いを吐き出すことによって自然と自浄作用が働き、それが幸福度世界一(2018、2019年度:国連調査)の国民性につながっているのだろう。新陳代謝や疲労回復だけでなく、大量の汗と一緒に苦しみや涙も流してくれる……それがフィンランドにおけるサウナの役割なのかもしれない。
フィンランド大使館のコッコ参事官が答える!「本場サウナQ&A」
サウナそのものについて知りたい! という方のために、フィンランド大使館でメディア対応のほか文化交流の橋渡し役を担っている、マルクス・コッコ参事官にお話を伺うべくアポイントをゲット。フィンランド人とサウナの関係性、サウナの歴史、そして社交場としての役割などなど、意外と知らないフィンランドサウナについて教えていただいた。
―フィンランド人とサウナの関係性は?
いい質問ですね。サウナはフィンランド人にとって、非常に大切なものなんです。遺伝子の一部として組み込まれているし、アイデンティティとも言える。世界中どんなところに行っても、サウナに入りたい! と思うんです。サウナがないと恋しくなってしまいますね。
―サウナの歴史を教えてください。
はっきりと記録は残っていませんが、サウナは数千年前から存在していました。私たちの先祖は、穴を掘って熱した石を入れて、動物の皮でカバーしていました。その穴に入って蒸気を浴びていたようです。それがフィンランドサウナの起源ですね。そこから現在のように進化していきました。
―フィンランドと日本のサウナに違いはありますか?
フィンランドサウナに欠かせないのは「ロウリュ(蒸気)」です。熱々の石に水をかけて蒸発させ、体を温めて発汗を促進させます。日本のサウナも素晴らしいですが、フィンランドに比べて高温で乾燥していて、蒸気が出るタイプはあまり見かけないですよね。そこが大きな違いだと思います。
―「ヴィヒタ」について教えてください。
ヴィヒタは白樺の枝や葉を束ねたもので、サウナに入っているときに自分や人の体を叩きます。とても気持ちが良く血行促進効果もあり、体が温まりますし、白樺の香りがまるで森林浴をしている気分にさせてくれます。とてもリラックスできますよ! ヴィヒタは贅沢品で、フィンランドでも普段からよく使うものではありません。白樺の木がどこにでも生えているわけではないからです。それにフィンランドでは、冬の時期にはヴィヒタがないんです。雪で白樺の木も覆われてしまうからです。
―『サウナのあるところ』で描かれていたように、フィンランドのサウナは社交場になっているのでしょうか。
そうですね、そうとも言えるでしょう。フィンランドのサウナは話し合って打ち解けることができる社交場でもありますし、瞑想する場でもあります。考えに耽けて、リラックスします。
―本作には“サウナ車”が出てきましたが、実際にあるのでしょうか?
ありますよ! フィンランド人は変なことをするのが好きなんです。今年の夏に私がフィンランドに行ったとき、湖に浮いているモーター付きのサウナを見かけました。ヘルシンキには観覧車のサウナがありますし、スキーリフトにサウナを作る人もいました。フィンランドには変わったサウナがたくさんあるんです。
―フィンランドは空港にもサウナがあると聞きました。
空港にも、議会にも、どこにでもサウナがあります。フィンランドには500万人が住んでいますが、300万個のサウナがあります。
―日本のフィンランド大使館にサウナを作ったのはなぜですか?
世界中のほとんどのフィンランド大使館にあります。サウナは外交にも使えます。服を脱ぐので、権威を誇示するようなこともなく、平等な場だと思います。人と会って、友情関係を築くにもいいですし、もちろん交渉の場にも適していますよ。
―『サウナのあるところ』を観て、どう思いましたか?
サウナを見せるだけではなく、社会的な文脈を交えてサウナの意味合いを正確に描いていて、とても深く、良い映画でしたね。
『サウナのあるところ』は2019年9月14日(土)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
『サウナのあるところ』
熱くなったサウナストーンに水がかけられ、 ジュワっという音とともに、サウナにロウリュ(蒸気)が立ち上がる。ロウリュに包まれながら、フィンランドの男たちは語り始める。
継父からの虐待、犯罪歴のある昔の自分、離れ離れになった娘、止められなかった職場での事故、先に逝った妻や幼い娘……これまで話すことができなかった人生の悩みや苦しみ。 子どもが生まれた喜び、かけがえのない“親友”との友情、老いてからの出逢い、祖父が薪に込めていた祖母への愛……じんわりと伝わってくる大切な人への想い。
ロウリュはやさしく男たちの心を溶かし、絆を深めていく。
制作年: | 2010 |
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監督: |
2019年9月14日(土)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー