新鋭作家・ふくだももこ監督の長編デビュー作『おいしい家族』が2019年9月20日(金)より公開。母の三回忌で実家に帰ると、父が亡き母の服を着て“母”になっていた……。しかも父は男性と再婚し、さらに弟とその妊娠中の妻(スリランカ人)、再婚相手の娘と道鏡氏らと共に、仲良く食卓を囲んでいる。なんとも個性的な面々を通して家族の在り方を問いかける、ハートフルな物語だ。
前回に続き、ふくだ監督と、BANGER!!!の執筆陣の一人でもあり、俳優・モデルとして活躍する松㟢翔平との対談をお届け。本作で描かれた“新しい家族のカタチ”や、松本穂香、板尾創路、浜野謙太らキャスト陣について、ロケ地・新島での撮影秘話を語っていただいた。
ふくだ「父が“父親”という肩書を超えたらどうなるんだろう」
―翔平さんは今回の作品で描かれた、不思議な形の家族を見てどう思われましたか?
翔平:僕はどちらかというと“そっち側”というか、違和感はなかったですね。台湾でシェアハウスで暮らしていたこともあり、そこは人種も様々だったので、すごく見慣れた風景というか。自分が異物じゃない、すごく居心地の良い風景でしたね。
ふくだ:いろんなことに対して、わざわざカテゴライズする必要はなくて。「そこにいるだけ」っていう感覚を大事にしていますね。
―本作は“父親が母親になる”という設定ですが、ご自分の身に起きたらどう思うのでしょうか?
翔平:僕はあんまり父親に興味がないので、ああなってしまっても「そうなんだ」って思っちゃうかも(笑)。でもやっぱり急に父親が母親に変わったら、もう父親は戻ってこないんだって、すごく寂しくなると思います。
―この設定のアイデアはどこから生まれましたか?
ふくだ:「母親とは何か? 父親とは?」みたいなことをよく考えるんですけど、肩書がつくだけで私たち自身もその人を一人の人間として見ていない瞬間があることに、いつもモヤモヤしていて。つけられた“父親”っていう肩書を超えるってなったら、どうなるんだろう?と思って。
―監督は、この物語を主人公・橙花ではなく他の人物の立場で見ていたそうですね。
ふくだ:正直、登場人物の中で橙花が一番理解しづらい存在でした。
翔平:登場人物でいうと僕は、主人公の橙花みたいな人間じゃないので、橙花がどうなっていくのかをこっち側(他の登場人物側)から見ていた感じがあります。橙花はキャラクターの中で一番何を言ってるかわからなくて、橙花は何を言ってるんだろう? って観ながら思ってて。
ふくだ:何に反発してるかも分からないし?
翔平:分からなかったですね……だから僕、2回観たんですよ。それで「そういうことか」と思ったのが、実は彼女は寂しいだけで。常識とか大きな言葉を使ってしまうと分からなくなるんですけど、懐かしいもの、昔のことになっちゃうのが寂しくてイヤってことですよね。主人公としての橙花が本当に分からなかったんで、考えすぎましたね。
ふくだ:一番に感情移入するはずの主人公が分からんとね。でもその考え方、橙花の解釈はマジで「100点!」って感じ(笑)。私も、何となく分かるけど言葉にできなかった。だけど、橙花役の(松本)穂香ちゃんが「橙花って、ちょっと素直になれなくて、寂しかっただけ」と言ってくれて。常識とか普通とか、大きな言葉を使うと分からなくなるって言ってくれたように、彼女自身は別にそこにこだわってなくて。ただ自分がちょっと置いてけぼりにされてると感じたから、ワーワー言ってしまう。
翔平:だから頑なになってしまうってことですよね。
ふくだ:うれしい。橙花が分からない人に向けて作ってはいないので、それだけ橙花のことを考えてくれたのがうれしいです。
翔平:というか、顔がすごくタイプなんですよ(笑)。
ふくだ:かわいいよね~!
翔平:普通だったら主人公(の内面)が分からないと、もう考えないんですけど。
ふくだ:松本穂香すげ~!穂香ちゃんでよかったぁ(笑)。言っときます!
ロケ地の新島では役者もスタッフも家族のように過ごした
―本作は伊豆諸島の新島で撮影されていましたが、いかがでしたか?
ふくだ:超楽しかったです! 楽しいことしか思い出せないくらい楽しかった。温泉もあったんですよ、無料開放で24時間。最高だったな~、また行きたいな~。現場ではハマケン(浜野謙太)さんと笠松(将)くんがムードメーカーでしたね。そしてみんな、モトーラ(世理奈)ちゃんにかまいたくてしょうがなかったみたいです。
翔平:モトーラちゃんは普段どんな感じなんですか? 今回のお芝居は、今まで見たことがない感じだったので。
ふくだ:いつもニコニコしてる。「お腹すいてない?」とか聞いちゃう。みんなもう、孫のようにかわいがって(笑)。
―板尾さんは現場ではどんな存在でしたか?
ふくだ:板尾さんは、普通にそこにいるおじさん、みたいな感じ(笑)。今回は控室という概念がなかったので、台所の撮影中に居間で待っていてもらう時も板尾さんは普通に座って新聞読んだり、穂香ちゃんに話しかけたりして、なんか“板尾さん”って感じ(笑)。絶対にいばったりしないし、常に変わらない。素敵です!
穂香ちゃんは初主演やし、今思えば気を張っていたかも。(撮影現場の)新島に携帯電話も持って来なかったくらい。一応、本人は「忘れた」って言うんですけど、集中したいからかなと思ってます。マネージャーさんも同行していなかったし、ほんとにすごい。他の登場人物と少し距離のある役だから、現場でもみんなと距離を取ってくれて。でも、みんな仲がいいから、板尾さんとハマケンさんと笠松くんと三河(悠冴)くんで「穂香ちゃんに振り向いてもらうぞ隊」が結成されてしまって、笠松くんが絡みに行って無視されて終わるということもあったみたいです。アホやなと思いました(笑)。
―新島には、どれくらい滞在したんですか?
ふくだ:10日間ぐらいですね。結局、キャストもスタッフと同じ宿に泊まってました(笑)。
翔平:その感じが出てました(笑)。
ふくだ:板尾さんとハマケンさんと穂香ちゃんには違うホテルを用意してあったんですけど、板尾さんとハマケンさんは私たちのところに来て「飲もうよ」と言って下さって。朝から夜まで撮影あったんですけど、私もはやく飲みたいから頑張りました(笑)。
翔平:楽しそうですね。
ふくだ:すっっっごく楽しかった。そこまで物語も重くないし、みんな年齢も近かったからワイワイできて、映画にも出てくるバーとかスナックに行ったり。あんなに楽しい撮影はなかなかないっていうくらい楽しかった。
翔平:撮影のスケジュールが遅れてくると、役者だけ先に食事したりするじゃないですか。あれ、寂しいんですよ。
ふくだ:そうなんや!
翔平:みんなで食べたいんですよね。食べてる間に向こうでカメラチェックとかされてると……。結局、撮影の時もメシの時間が一番楽しいかも(笑)。
ふくだ:みんなで同じタイミングでご飯に向かいたいよね。料理するときも誰かのために作らないと、全然テンション上がらなくない?
翔平:全く上がらないですね。だから自分用に作る料理は相当不味いと思います(笑)。やっぱり、誰かの顔を思い浮かべないと作れないですよね。
ふくだ:誰かが食べてるの見るの、楽しいしね。「美味しい」とか言ってくれるし。私もシェアハウスで暮らしはじめて、人のためにご飯作るのが楽しいって気づけたのは、ものすごく大きいかも。
翔平:(テラスハウスで)一緒に暮らしてる(西野入)流佳くんとか、辛いものが全然ダメなんでカレーも甘くしてあげるんですけど、それが楽しい。
ふくだ:自分の食べたい味じゃなくて、誰かのためにね。
テラハ出演中の俳優・松㟢翔平「食卓を囲む家族に憧れる」常識ハズレの家族を描く『おいしい家族』ふくだ監督と語る(1/3)
「人生短いんやし、好きなことはやった方がいい」ふくだ監督(『おいしい家族』)と、テラハ出演の松㟢翔平の共通点(3/3)
<3/3に続く>
『おいしい家族』2019年9月20日(金)より全国ロードショー
◆取材協力◆ そうめん専門店「そそそ」
〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西1-4-1
03-6416-9284
<営業時間>
日~木 ランチ 11:30~15:00 ディナー 17:00~24:00
金土祝前日 ランチ11:30~15:00 ディナー17:00~28:00 定休日 不定休 (年末年始を除く)