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おバカギャグ連発! ピンク・パンサー1作目のラストは必見『ピンクの豹』 ピーター・セラーズはイギリスの“笑い”の原型⁉

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ライター:#椎名基樹
おバカギャグ連発! ピンク・パンサー1作目のラストは必見『ピンクの豹』 ピーター・セラーズはイギリスの“笑い”の原型⁉
『ピンクの豹』©2018 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

ドリフのコントでもおなじみの“あのテーマ曲”と失われた大人向けのセンス

「映画音楽」といって最初にその名前が挙るのは「スター・ウォーズのテーマ」だろうか。しかし、それと同じくらい人々の耳に残っていて、しかも一度思い出したらしつこく耳から離れないのが「ピンク・パンサーのテーマ」ではないだろうか。

怪しく、妖艶で、コミカルなサックスのリフは、聴くだけで夜の世界に人を誘う。「スターウォーズのテーマ」が一聴で冒険心を煽られるように、ピンクパンサーのテーマは、どこかに忍び込み悪巧みに参加しているような気分になる。

https://www.youtube.com/watch?v=9OPc7MRm4Y8

私の子供の頃は、「8時だョ! 全員集合」でドリフターズがドロボーコントでこの曲を使用していて、曲がかかるだけでなんだか知らぬが、おかしくておかしくて仕方なかったものだ。

さらに、このようなジャズのナンバーや、おなじみのピンク・パンサーのキャラクターの「大人向けのアニメ」といったセンスは、30年前くらいまでは確固として日本のエンターテインメント業界にも存在していたが、今はすっかり失われてしまっていて、映画『ピンクの豹』(1963年)のオープニングアニメを見た時、深夜番組「11pm」や柳原良平によるキャラクター“アンクルトリス”の「トリスウイスキー」のCMなどを思い出し、懐かしさを覚えた。「子供向け」や「オタク向け」ばかりの現在からすると、やはりそうしたものが恋しく感じる。

ピーター・セラーズ=ビートたけし!? バカバカしいギャグ連発の凄み

『ピンクの豹』は、脇役であったクルーゾー警部役のピーター・セラーズによる抱腹絶倒の演技が話題を呼び、後にクルーゾー警部主演の【ピンク・パンサーシリーズ】という、20世紀後半を代表するコメディシリーズのきっかけになった。さらに前記のヘンリー・マンシーニ作曲【ピンク・パンサーのテーマ】と、今も愛され続ける【アニメキャラクター】を生んだこの作品は、こう言ってはなんだが、作品そのものの評価よりも、後世に残る【3つの芸術】を生んだことが伝説的であるという、妙な存在感を持つ作品なのだ。

前回紹介した『Fleabag フリーバッグ』のフィービー・ウォーラー=ブリッジ、パイソンズ(モンティ・パイソン)、英BBCのコメディ「Little BRITAIN/リトル・ブリテン」(2003年)のマット・ルーカス、デヴィッド・ウォリアムス、衝撃的に面白かった『 ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)のサシャ・バロン・コーエン。彼らが連綿と受け継いでいる、狂気じみていて、少々不謹慎なイギリスの笑いのセンスを遡っていくと、ピーター・セラーズにたどり着く気がする。イギリスにはなんと言っても、映画史上最大のコメディアンであるチャールズ・チャップリンがいて、その影響も多大だろう。しかし、身も蓋もない、場合によっては怒り出す人もいるかもしれない、イギリス独特の笑いのセンスをダイレクトに感じられる俳優は、ピーター・セラーズだ。

とは言っても『ピンクの豹』におけるセラーズは、非常にたわいなく、純粋に馬鹿馬鹿しい。ビートたけし的な小ボケの連続でちっとも話が前に進まない、と言ったら、きっと多くの人にその演技を想像してもらえると思う。クルーゾー警部が最初に登場するシーンでは、何気なく地球儀を回した警部が、すぐに回したことを忘れ(縦回転の)地球儀に手を置くと、回転の勢いで前につんのめって転ぶ。とにかく延々と転び、頭をドアにぶつけ、熱いものに触ってしまう。まあ、ビートたけしです(笑)。「ああ、たけちゃんはピーター・セラーズのファンなのだな」と感じられる。

このような演技は台本にしようがなく、全てセラーズのアドリブか、アイデアを持ち込んで共演者に協力してもらったのだろう。そう考えると馬鹿馬鹿しいギャグの連続も凄みに感じてくる。

笑いあり謎解きありロマンスあり、そして歌ありのごった煮作品

余談だが、『ピンクの豹』は1963年の作品であり、1961年に『ロリータ』、1964年に『博士の異常な愛情』と、セラーズが出演するキューブリック作品に挟まれている。それを知って私は、「『ロリータ』ってもしかしてコメディだったの?」と思ったのだ。『ロリータ』は、バディ・ホリー風の音楽家役のセラーズを筆頭に、登場人物がみな過剰で、文芸作品を原作にしながらテーマを伝えるという作風ではなく、スラップスティック(どたばたギャグ)作品とも感じられる。

いっぽう『ピンクの豹』の内容は、笑いあり、謎解きあり、ロマンスあり、そして歌ありで、ちょっとインド映画風のごった煮的な作品。やはりヘンリー・マンシーニが作曲した「今宵を楽しく」をフルコーラス歌い踊るシーンが突然挿入されたりするが、それがとても素晴らしい出来映えだ。

そして、クルーゾー警部の妻役のキャプシーヌ、中東の王女役のクラウディア・カルディナーレが非常に美しいことも書いておきたい。昔の女優には、今の女優にない気品がある。

ところで、この映画のオチが、あまりにもクルーゾー警部がかわいそうで、私はかなり驚いてしまった。セラーズだからこそ、その残酷さも笑いとして成り立っているのかもしれないが、それにしてもクルーゾー警部が救われなさ過ぎる。みなさんにも見ていただいて、感想を聞いてみたい。

『ピンクの豹』
ブルーレイ発売中
¥1,905+税
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

最後に蛇足ではあるが、報告。この作品を観るためにレンタルビデオ屋さんに行ったのだが、近所の2店舗とも置いてなく、絶版なので渋谷店など大きな店舗に行ってくれと言われた。仕方がないのでネットでポチッて入手した。今回のこの作品の放送は、なかなか貴重だ。

文:椎名基樹

『ピンクの豹』はムービープラスにて2019年9月放送

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『ピンクの豹』

世界中の宝石泥棒が狙う巨大ダイヤモンド“ピンク・パンサー”の持ち主は、ヨーロッパの美しいプリンセス。昨今、各都市を騒がせる怪盗ファントムもこの宝石を狙っていることが分かり、クルーゾー警部はファントムの追跡を命じられる。だが、行く先々でドジを踏み・・・。

制作年: 1963
監督:
出演: