長寿人気シリーズにしてミラ・ジョヴォヴィッチの運命を決めた代表作
“バイオハザード”とは「生物学的危害」のことで、本来は生態系に悪影響を及ぼす廃棄物や、遺伝子組み換え作物などを指すのだが、今では1996年にカプコンから発売されたゲームの代名詞である。アメリカ中西部の架空の都市ラクーンシティの古びた洋館に逃げ込んだ特殊部隊チームS.T.A.R.S.(スターズ)が、襲い来るゾンビを倒して脱出するというゲームで、それまでのアクションアドベンチャーにホラーの要素を取り入れたところが新しく、世界中で大ヒットした。
これを、当たるものなら何でも映画にしてしまう映画界が放っておくはずがなく、『モータル・コンバット』(1995年)をヒットさせたポール・W・S・アンダーソン監督(のちに製作総指揮も)で映画化されたのが、2002年に公開された第1作『バイオハザード』である。
製作総指揮に、ゲームプロデューサーで当時カプコンの取締役だった岡本吉起が入っているのはそのためだ。映画版では、敵役のアンブレラ社という巨大軍産複合体と、アリスという新しいキャラクターを創造し、アリス対アンブレラ社の戦いをシリーズを通じたストーリーの主軸とした。アリスを演じるミラ・ジョヴォヴィッチは、映画の大ヒットでハリウッドのトップスターの仲間入りを果たしただけでなく、監督のアンダーソンとも結婚、『バイオハザード』は彼女の運命を決めた代表作となった。
その第1作では、一切の記憶を失い、見知らぬ洋館のシャワー室で目覚めたアリス(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が、警官を名乗るマット(エリック・メビウス)と特殊部隊チームに急襲される。実は、アリスはアンブレラ社の警備員で、神経ガスで一時的に記憶をなくしていたのだった。一行は、洋館の地下に隠されていた入口から、アンブレラ社の研究施設“ハイブ”に侵入し、超人工頭脳“レッド・クイーン”のシャットダウンに成功するが、それは新たな恐怖の始まりだった……。
シリーズ中、唯一スリラー系アクション映画仕立てになっていて楽しめるのが、この第1作目。エリック・メビウスはこの後、ドラマ『アグリー・ベティ』(2006年~)のダニエル・ミード役でブレイク。他にも『ワイルド・スピード』シリーズ(2001年~)のミシェル・ロドリゲスなど、配役が意外に豪華。
ゲーム版のキャラクターも参戦! 監督チェンジによって拡がった世界観
続く第2作『バイオハザードII アポカリプス』(2004年)は、ゾンビの世界が地下のハイブから地上のラクーンシティへと拡大。アンブレラ社はラクーンシティを塀で取り囲み、感染していない市民ともども武力で外の世界と隔離しようとする。アシュフォード博士(ジャレッド・ハリス)は塀の中に閉じ込められた娘を助けるためにアリスの力を借りようとするが、彼女の前に最強のバイオ・モンスター“ネメシス”が立ちふさがる。
ジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』(1981年)を思わせる脱出もの。ゲームの人気キャラ、ジル・バレンタイン役でシエンナ・ギロリーが登場し、カッコよさでファンを増やした。監督はチリ出身で撮影監督でもあるアレクサンダー・ウィット。
第3作『バイオハザードIII』(2007年)では、ゾンビ世界が地球規模に拡大。アンブレラ社は“アリス計画”を始動させ、最強の戦士アリスのクローンを作りだそうとする。一方、アリスは生存者を捜し出し、地上で唯一感染をのがれた土地、アラスカを目指すが……。
バイクを駆って、終末の砂漠でアンデッド(ゾンビ)軍団と戦うアリスは『マッドマックス』(1979年)そっくり。シエンナ・ギロリーに代わって、『ファイナル・デスティネーション』(2000年)や『HEROES/ヒーローズ』(2006年~)のトレイシー役で知られる金髪美女アリ・ラーターがアクションを披露。監督は『ハイランダー/悪魔の戦士』(1986年)のラッセル・マルケイだ。
アンダーソン監督と人気キャストが復帰! アニメ作品も同時進行で公開
『III』の翌年に公開された『バイオハザード ディジェネレーション』(2008年)は、ミラ・ジョヴォヴィッチを主人公とする映画化シリーズとは一線を画するフルCGアニメ。ラクーンシティの事件から7年後、アメリカ中西部のハーバードヴィル空港で人間がゾンビ化する事件が起き、捜査官のレオンが特殊部隊チームを率いて閉鎖された空港に生存者救出に向かう……。
監督は『日本沈没』(2006年)などで特撮監督を務めた神谷誠。アニメ版なのでゲームに近いテイストが再現でき、キャラクターも美男美女ということで、ゲームファンは必見の1本。
初の3D作品となった第4作『バイオハザードIV アフターライフ』(2010年)は、ゲーム発祥の地に敬意を表してか、渋谷駅前のスクランブル交差点から始まる(!)。交差点の地下にあるアンブレラ社の基地を破壊した後、アリスはロサンゼルスの刑務所に取り残された生存者と合流、刑務所からの脱出を図るが……。
監督は、再びポール・W・S・アンダーソンに。アリスは両手に刀を持って『マトリックス』(1999年)的なワイヤーアクションを披露。共演は『プリズン・ブレイク』シリーズ(2005年~)で脱出はお手のもののウェントワース・ミラーだ。
第5作『バイオハザードV:リトリビューション』(2012年)には、1作目のミシェル・ロドリゲス、2作目のシエンナ・ギロリーが、今度はアンブレラ社の攻撃部隊員として再登場。“リトリビューション”は「報復」という意味。監督は引き続きポール・W・S・アンダーソン。
ストーリーは『アフターライフ』のラストシーンで、アリスが爆撃機の墜落と共に海へ沈んでいったところから始まる。意識を失ったアリスがアンブレラ社に拾われ、実験施設に捕らわれるが、死んだはずのアンブレラ社元幹部ウェスカー(ショーン・ロバーツ)が現れ、彼が派遣した救出部隊と共に施設からの脱出を図る。実験施設内で精巧に再現された渋谷の場面で、中島美嘉がカメオ出演するのでお見逃しなく。
14年続いた『バイオ』は全6作で終了! 大団円のシリーズ完結に感慨
そして第6作『バイオハザード:ザ・ファイナル』(2016年)の舞台は、荒廃した首都ワシントン。超人工知能レッド・クイーンから、Tウィルスに感染したすべてのものを死滅させる抗ウィルス剤がラクーンシティの地下のハイブの中にあり、48時間以内に空気中に放出させないと人類が滅亡すると教えられたアリスが、最後の戦いに挑む。
第3作で死んだはずのアンブレラ社の創立者、アイザックス博士がすべてを握る黒幕として再登場。演じるのは『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~)の騎士ジョラー・モーモント役でおなじみのイアン・グレンだ。
ゲーム感覚の強かった前作に比べて、最終章にあたる第6作は、アンブレラ社の世界観(終末観)があらわになり、物語性がより深く、面白くなった。それにしても、通算14年間アリスを演じ続けたミラ・ジョヴォヴィッチの変わらないスタイルの良さと、キレのよい動きには脱帽する。彼女の代表作であるばかりでなく、監督のアンダーソンとの出会いともなった運命のシリーズも、これで大団円だ。
文:齋藤敦子
『バイオハザードIV アフターライフ』『バイオハザードV:リトリビューション』『バイオハザード:ザ・ファイナル』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2019年9月放送。