刑務所のボスと元刑事の囚人が邂逅! 修羅の門が鈍い音を立てて開く!!
刑務所の中には囚人たちを仕切るボスがいて、所長や刑務官に賄賂を握らせては我が物顔で君臨していて……というのはクライム映画の定石だが、凶悪な囚人たちが自由に塀の外へ出入りしているというパターンは珍しい。韓国映画『監獄の首領』(2017年)は囚人たちが夜な夜な脱獄し、強盗や暗殺などを遂行しては再び塀の中に戻ってくる、つまり完璧なアリバイを保証された組織的犯罪を繰り返しているという、あるようでなかったアイデアが光るクライム・サスペンスだ。
しかも、そんなムチャクチャな刑務所に入所してきたのは100%の検挙率を誇ったバリバリの元刑事ユゴン。当然ながら囚人たちの目の敵にされボコられるが、血気盛んなユゴンは不遜な態度を改めない。しかし、刑務所を裏で操る受刑者イクホは一線を越えた暴力行為と脅迫で、ユゴンに「なんでもするから助けてくれ」と言わせて服従させるのだった。
『シュリ』で韓国映画の未来を拓いたハン・ソッキュが最恐演技を見せる!
序盤~中盤までは、刑務所内外に絶大な権力を持つイクホの恐ろしさと、彼を助け/助けられていくうちに刑務所内でイクホに次ぐ地位にまで上り詰めていくユゴンの姿を淡々と描いていく。そして、囚人の中には元医者や元軍人、爆薬、解錠、輸送などのエキスパートがいて、イクホの命令によりシャバでそれぞれのスキルを発揮しているのがスゴい。なんだか韓国版『スーサイド・スクワッド』といった感じで、かなり燃える設定ではないか。そんなチームに元刑事のユゴンが合流するのも、話の流れ的にはとてもスムーズだ。
物語を構成するシークエンスのひとつひとつは昭和のマンガみたいなぶっ飛びぶりで、それゆえにスピード感と勢いの良さで見せきる迫力がある。線の細いイケメン俳優ばかりキャスティングされていたら萎えてしまうところだが、イクホを演じるハン・ソッキュは90年代韓国映画の金字塔『シュリ』(1999年)の主演俳優であり、今でもギラついた田口トモロヲみたいな存在感をキープ。ユゴン役のキム・レウォンも、加藤浩次と坂上忍をミックスしたようなルックスで画面への集中力を高めてくれる。
ゴツゴツした男たちが塀の中に大集合! そして衝撃のラストに黙祷……
中盤以降、イクホや所長の周辺で何かを嗅ぎ回るように動くユゴン。そして刑務所内のゴタゴタ=エグい暴力シーンがぐんと増えると同時に、彼の過去が回想としてたびたび挿入される。つまり優秀な刑事だったはずのユゴンが囚人として収監されるまでの顛末が描かれるわけだが、そこから先は観てのお楽しみ。『クローズZERO』(2007年)みたいな青春不良マンガのエモいノリで観ていると、イクホの鬼畜な所業に涙目になってしまうことだろう。そして最後の最後、その目に小さな炎を灯したユゴンの姿で物語は終わりを迎える……。
とはいえ直接的なバイオレンス描写は少なめなので、それほど気負わずに鑑賞できるはず。他の囚人や看守たちもゴツゴツした面構えの俳優たちがズラリと揃っていて、間違いなくオススメの硬派な作品だ。
『監獄の首領』はAmazon Prime Videoで配信中