※この記事は『ハリウッド1969 シャロン・テートの亡霊』の内容に触れています。閲覧には十分ご注意下さい。
ホラー映画監督ダニエル・ファランズが描く、シャロン・テートの悪夢
2019年8月30日(金)公開のクエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、シャロン・テートが新たな脚光を浴びている。
1969年8月8日から9日にかけての夜、ロマン・ポランスキー監督夫人であり、当時妊娠8か月だった女優シャロン・テートと友人ら5名が、チャールズ・マンソン率いるカルト集団のメンバー3人に惨殺されたシャロン・テート事件は、世界中を震撼させ、社会的文化的に様々な影響を与えた。あれから50年、若くして世を去ったシャロン・テートを現代に蘇らせようとしたのはタランティーノだけではなかった。
『悪魔の棲む家 REBORN』(2018年)などのホラー映画監督ダニエル・ファランズが、シャロン・テート事件をホラー映画化したのが『ハリウッド1969 シャロン・テートの亡霊』だ。事件の1年前のインタビューで、シャロンが「自分の人生はすべて運命で定まっている」と語っているところからインスピレーションを得たという。
注意! 本作は実録映画ではなくアレンジを加えたフィクションです
映画の始まりは、5人の遺体が発見された8月9日の朝。そこからすぐ、3日前の8月6日に遡り、ロンドンにロマン・ポランスキーを残して1人で帰国したシャロン・テートが、元恋人で理容師のジェイ・セブリングの運転する車でシエロ・ドライヴ10050番地の自宅に到着する場面になる。
彼女を出迎えるのはアビゲイル・フォルジャーとヴォイテク・フリコウスキー。ポーランド人のヴォイテクはポランスキーの友人で脚本家、アビゲイルは彼の恋人で、コーヒー財閥フォルジャー家の相続人。妊娠中の妻を気遣ってポランスキーが世話を頼んだのだった。
その夜、カ・バラというゲーム盤で未来を占っているところに、怪しい男がやってくる。その男はチャーリーといい、前住人の音楽プロデューサーのテリー・メルチャーにレコード契約を頼みたくて何度も訪ねてくるのだという。庭先に不審な人影を見つけた愛犬サパースティンが飛び出していき、翌日、無残な死体となって発見される。そして運命の8日を迎える……。
断っておくが、この映画はシャロン・テート事件そのものを描いた実録ものではなく、フィクションとしてアレンジされているので、事実と違うところがある。シャロン・テートがロンドンから帰国したのは8月6日ではなく7月20日だし、映画の中で新しい管理人として登場しマンソンの録音テープの謎を解く重要な役割を担うスティーヴン・ペアレントは、実際には事件の夜、友人の管理人を訪ねてきただけだった。
26歳で未来を絶たれたテートの亡霊が今もハリウッドを漂っているのか……
ファランズ監督のアイデアは、事件を“シャロン・テートの見た悪夢”とすることだった。設定を最後の3日間に限定し、フラッシュバックで描いているのはそのためだ。なので、この映画の中のシャロンは死なない。自分の夢の中なのだから当然だ。
しかし、タランティーノといいファランズといい、シャロン・テートを死なせまいと思う監督が次々に出てくるのは、彼女にそれだけの魅力があったからなのだろうか。それとも事件の猟奇性が好奇心を引きつけるのか。私はポランスキー監督との出会いとなった『吸血鬼』(1967年)を観ただけなので、女優としての魅力については、はっきり言ってよく分からない。だが、26歳の若さで未来を絶たれてしまった彼女の亡霊が、まだハリウッドの空を漂っているのだとしたら、それだけでホラー映画的ではある。
映像や音で驚かす仕掛けがたくさんあるので、できれば音響のいい映画館で見ることをお薦めする。
文:齋藤敦子
『ハリウッド1969 シャロン・テートの亡霊』は2019年8月30日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
『ハリウッド1969 シャロン・テートの亡霊』
カルト教団マンソン・ファミリーによる惨殺事件から50年
女優シャロン・テートの最後の日々を描いた衝撃作。
制作年: | 2019 |
---|---|
監督: | |
出演: |
2019年8月30日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開