日々激しく変わりゆく現代中国を正面からとらえた作風で世界的に評価が高い、ジャ・ジャンクー監督の最新作『帰れない二人』が2019年9月6日(金)から公開される。17年という歳月の中で、急速に変化する時代に翻弄される男女の愛を描いた本作について、監督が自ら語ってくれた。
中国の“今”を等身大で描き出す映画監督、ジャ・ジャンクー
―最新作について教えていただけますか?
『帰れない二人』は、2001年から2018年の17年間の男女の運命をたどっていったラブストーリーで、中国の裏社会の人たちを描いた作品です。こういった作品を撮ろうと思ったきっかけは、中国の今に至る大きな変化というものを、ちゃんと描いてみたいと思ったからなんです。『長江哀歌(エレジー)』(2006年)では、長江流域にある2000年の歴史を持つ町がダムの建設によって消えていくという、外から見てわかる変化を撮ったのですが、今回は外の変化ではなくて、様々な社会の激変の中にいる人々の、心の変化を撮ってみたいと思ったんです。
今まで持っていた伝統的な観念がどんどん消えてしまっています。裏社会の人々にとっても、これまでは“義理”と“人情”というものが伝統的な価値観だったわけですが、それも社会の変化とともに変わっていくということを、17年という時間の中で、中国人の心の変化として撮ろうと思いました。
映画は世界共通言語 ― 国を越えて伝わる本質的な価値
―伝統的な価値観の変化というのは、日本人である私たちから見ても共感できる部分が多いです。
この作品はアメリカやフランス、その他の国ですでに公開されていて、多くの観客の共鳴を引き起こしています。国は違えども、さまざまな人から共感してもらえるのは、人生というのはどこの国の人のものであっても似通っていて、共通の感情をこの映画の中に見つけられるからだと思うんです。およそ人類の経験することに、大きな差はないと思いますし、他の国の映画を観て、そういう共感を得ることはとても大事ですね。
―ひと昔前の空気感を作るのに苦労した部分はありましたか?
中国の変化は本当に早くて、17年前のことを撮るのも確かにいろいろと工夫しなければいけない点が多かったですね。例えば、洋服も携帯電話も今のものとは違います。また、外の風景にしても道そのものが違うし、部屋の内装なども全く変わりました。ただ、当時のものを再現することはそんなに難しいことではありませんでした。
一番難しいのは、人間の顔ですね。当時と今とでは顔つきが全然違うんです。以前は痩せて、日焼けした色黒の人が多く、役者やエキストラを選ぶにしても、当時の雰囲気を持っている人をできるだけ選ぶようにしました。
「人を理解し、社会を理解する」監督の視線の先にあるものとは
―今回、チャオ・タオさんを主演に起用したのは過去の作品とのつながりを意識されたのでしょうか?
そうですね。チャオ・タオとは『プラットホーム』(2000年)から一緒に映画を作っていて、『青の稲妻』(2002年)、『長江哀歌(エレジー)』では彼女が主役を演じています。彼女は中国の地方都市に住んでいる普通の女性にとてもイメージが合うんです。そして彼女自身、とても観察能力が高く感性もすごく鋭いので、私が演じてほしい地方都市の女性を非常にうまく演じてくれました。
『帰れない二人』の脚本を書いている時に、過去の『青の稲妻』『長江哀歌(エレジー)』と今回の作品を合わせてひとつの物語にしたい、という想いが沸いてきました。17年間の時の流れの中で、この過去の女性像も変化していったことを表現しなければならないわけです。チャオ・タオの演技の幅も広がって、20代から40代にいたる変化もきちんと演じられる技術、演技力があると思ったので、今回も彼女を主役にしました。
―ご自身はこの17年間で、監督としてどんな変化がありましたか?
いろんな変化が私自身にもありました。実際、周りの環境も生活自体も変わっていったわけですが、特に言えるのは、若い頃は世界が狭すぎて、あまり理解していなかったと思う。なぜ映画を撮るのか。それは人を理解し、社会を理解するということが目的なわけですが、でもそれを上手くやるには、以前はちょっと若すぎたかなと思います。ですから今回は、かなり長い時間の流れの中で、人間をしっかりと見つめていくという想いでこの作品を撮りました。
―最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。
みなさん、こんにちは。私の新作『帰れない二人』が2019年9月6日(金)に日本で公開されます。チャオ・タオとリャオ・ファンが主演です。この2人が、17年という時のなかで繰り広げられるラブストーリーを演じています。ぜひみなさんもこの17年間の愛の旅にご参加ください。
『帰れない二人』は2019年9月6日(金)よりBunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。