自白強要、拷問、証拠捏造……国家情報院は違法行為の総合商社
絶賛公開中のドキュメンタリー映画『スパイネーション/自白』は、独立メディア<ニュース打破>とチェ・スンホ監督が、韓国で40年以上にわたって密かに繰り広げられてきた“北朝鮮スパイねつ造疑惑”を徹底した調査・取材で暴く、ジャーナリズムの真髄だ。
本作は、韓国で公務員として働いていた華僑の男性、国家情報院で謎の自殺を遂げた脱北者、「在日同胞留学生スパイ事件」に巻き込まれた学生(当時)という、3つのケースを軸に展開していく。
華僑ということで目をつけられたユ・ウソン氏の妹ユ・ガリョさんは、情報院の尋問センターで6ヶ月にわたって暴力的な取り調べを受けた。肉体的・精神的に追い詰められたガリョさんは、兄がスパイ活動に加担したと虚偽の供述をしてしまう。その後、証言を撤回するも受け入れられず、ウソン氏は北朝鮮のスパイとして拘束されたが、中国に住む親戚はそもそも身寄りもいない北朝鮮に彼が出向く理由がないと否定する。
直撃取材を敢行するスンホ監督の質問に答えず、ニヤケ面でトンズラを決め込む関係者の姿には憤りを禁じ得ない。しかし、ウソン氏が北朝鮮に入国した証拠として検察側が提出した書類を含め、すべての証拠が偽造されたものだということが本作の取材チームによって判明し、事態は急展開を見せる。
数々の証拠捏造が暴かれ、さすがの国家情報院も会見を開いて公式に謝罪。さらに、当時パク・クネ大統領の秘書室長を務めていたキム・ギチュンはかつて<KCIA(=韓国中央情報部、現・国家情報院)>で「在日同胞留学生スパイ事件」に関わったスパイ捏造の大御所みたいな輩ということで、スンホ監督は国家の膿を絞り出さんと40年の時を遡って徹底的に追求していく。
大統領候補をも動かした執念のジャーナリズム
『スパイネーション/自白』は2016年に韓国で公開されるや大きな話題となり、当時選挙中だった現大統領ムン・ジェインは本作を観て、公約に「国家情報院の改革」を加えたという。まさにジャーナリズムが国を動かしたお手本のようなエピソードだが、数十年前の拷問のような取り調べで精神を病んだ「在日同胞留学生スパイ事件」被害者キムさんの現在の姿には胸が抉られる思いだ。
日本で暮らす冤罪被害者の中には、数十年の時を経て無罪判決を勝ち取ったという人もいる。民主化以降も続いた理不尽な仕打ちの数々を目の当たりにすれば、若い世代を含め保守化が進んでいる日本にとっても対岸の火事とは言っていられないだろう。
『共犯者たち』『スパイネーション/自白』は12月1日よりポレポレ東中野にて2作品同時公開 ほか全国で順次公開予定。