秋の足音が聴こえてきたとはいえ、まだまだ暑い日が続きますね! ということで、夏バテを引きずった脳ミソにもやさしい映画『ビッグ・バグズ・パニック』(2009年)を紹介したいと思います。
ジャンル映画マッシュアップ!? 各ジャンルのツボをしっかり押さえた低予算映画
本作は、モンスターパニックとパンデミック~サバイバルものを高次元でマッシュアップした低予算のB級映画。巨大昆虫襲来は『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズ(1997年~)、個性豊かな人物描写や終末的舞台設定はコメディ版『ミスト』(2007年)と言えなくもないし、『遊星からの物体X』をパロったようなクリーチャーデザインもキモくて秀逸だ。もちろん主人公は絵に描いたようなボンクラで、ジャンル映画としての細かいセオリーをしっかり踏襲しつつ、ダメ男の成長物語としても高水準を満たしている。
主人公のクーパーはどうやら母親を亡くしたばかりのようだが、テキトーすぎる社会人ぶりで物語冒頭からクビを言い渡される。その緊張感のない性格のおかげでシリアスになることを回避している。クーパーがクビを宣告された直後、(強引な展開で)自分を含むオフィス内の同僚、さらに外の世界でも人々がマユのようなものに包まれていた……というところから物語が始まる。
まるでコメディ版『ミスト』! 緊張感を維持する巧みな脚本と演出がスゴい
巨大昆虫自体がキモいのに、マユに包まれた人間のエキスを触手で吸うという生理的なヤダみがすごいシーンもあり、虫嫌いでなくとも思わず目を背けたくなるはず。とはいえ(おそらく予算の都合で)登場人物が最小限なので阿鼻叫喚の地獄絵図になるわけでもなく、なんともヌルッとしたテンションでどんどん物語が進んでいく。問答無用の超展開だけに最初は事態が飲み込めないと思うが、そのうち脳が追いついてくるので深く考えないでおこう。
「B級にしては」という枕詞は避けられないものの、観ている側が登場人物と同じく「もう何がなんだか!?」という状態に陥る巧みな脚本と演出が功を奏し、過剰に安っぽさを感じさせることなく緊張感をキープ。今となっては意外性こそないが、ホラーコメディの王道的なユルいテンションと、生理的な嫌悪感を刺激するエグい設定が満載だ。ギャグパートも笑えるし、見栄を張ったクズは早めに死ぬというパニック映画のセオリーも遵守していて、『ミスト』と同じく和を乱すヤツを強制退場させる思い切りの良さも小気味いい。
低予算映画にありがちな、目的のために矛盾を放置するようなストレスがほとんどない点も、本作が多くのジャンル映画ファンから支持を集める所以だろう。当然ながらキャストも地味なのだが、『ファンボーイズ』(2008年)で末期がんのオタクを演じたクリス・マークエットがクーパーを、『ツイン・ピークス』シリーズ(1990年~)でローラ・パーマーの狂った親父リーランド役でお馴染みのレイ・ワイズがクーパーの父親役で出演しているのは嬉しいところだ。
終盤、軟弱だったクーパーが支配的な親父に反旗を翻して男気を発揮するあたりから、物語はクライマックスに向けて大きく動きはじめる。友情や愛、親子の絆もしっかり描きつつ、1時間半でサクッと鑑賞できる『ビッグ・バグズ・パニック』こそ、毎日セミやカナブンの死骸を避ける生活を強いられる晩夏にぴったりの映画と言えるだろう。
『ビッグ・バグズ・パニック』はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年9月放送
https://www.youtube.com/watch?v=q4OcaSJvHMY
『ビッグ・バグズ・パニック』
何の取り柄もない男クーパーは、コネで就職した会社からもクビ通告。その瞬間、彼はひどい耳鳴りを感じ、意識を失う。目を覚ますと、そこは巨大昆虫に支配された世界だった。合流した生存者たちとサバイバルを繰り広げる中、クーパーは共に行動するサラに心を奪われ……。
制作年: | 2009 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年9放送