インディーズ映画躍進の狼煙となるか? 気鋭のユニットが送る新感覚スリラー
俳優/プロデューサーの皆川暢二を中心に、映画製作を学んだ後にIT業界でサラリーマンとして働いていた田中征爾と、俳優/アクション監督として活動する磯崎義知の3人が立ち上げた、新進気鋭の映画製作ユニット「One Goose」(ワングース)による、初の映画作品『メランコリック』が2019年8月3日(土)から公開。長編第1作目ながら、第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で監督賞を受賞するなど注目を集めている。
死体処理には銭湯が最適!? 究極のぬるま湯に浸かった男たちに退路なし
東大を卒業しながら一度も就職せず、やりたいことも見つからないまま実家暮らしを続ける鍋岡和彦(皆川暢二)は、ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・副島百合(吉田芽吹)と出会い、下心に火が点いたことがきっかけでその銭湯で働くことに。
同時に採用されたチャラ男の松本(磯崎義知)に、高学歴からくるプライドでそれとなくマウントを取りつつ業務に勤しんでいた和彦。やがて百合ともイイ感じなっていくが、ある日、その銭湯が深夜になると“人を殺す場所”として貸し出されていることを知ってしまう。
和彦は流されるまま死体の片づけを手伝うことになり、さらに同僚の松本が“殺し屋”だったことが判明。そのころには、完全に後戻りができない状態になっていた……。
“映画”という名の湯を沸かすのはクリエイターたちの熱い情熱!
あらすじだけ聞くと典型的な巻き込まれ型クライムストーリーのようだが、サスペンス、アクション、コメディ、恋愛など、様々な要素を盛り込んだジャンル横断型の映画に仕上がっている。流れた血を簡単に洗えて、死体を燃やす窯もある……殺人を実行する場所としての「銭湯が最適」というアイデアはやや物騒に思えるが、本作で展開されるのは“子ども部屋おじさん”などと呼ばれてしまう年齢に差し掛かった、いかんともしがたいボンクラ男の青春エンターテインメントだ。
また、全体を通じて流れる飄々とした空気感も大きな特徴である。いわゆる“社会のダークサイド”に巻き込まれた場合、その物語の登場人物は葛藤したり大げさなほど動揺したりするものだが、本作の主人公・和彦は、それほど抵抗なく現実を受け入れてしまう。ギャーギャーと無駄な騒がしさがない展開は、まさにちょうどいい湯加減といったところ。ただし、天井からポタリと落ちる湯気のようにヒヤッとさせられるシーンもあるので、そこは要注意だ。
オーソドックスな骨格を持つ『メランコリック』が、多種多様な肉付けによって他に類を見ない作品に仕上がったのは、3人のクリエイターの熱い想いの賜物だろう。プロデューサーも務めた主演・皆川暢二は、俳優として仕事が来るのを待つだけの受け身の姿勢に疑問を感じ、自ら映画を製作することを思い立ったという。
そんな皆川の情熱に共感したのが、映画監督を志しながらサラリーマンとして働いていた田中征爾と、アクションシーンの構成・演出も担当した磯崎義知。低予算・低知名度というインディーズ映画の大きな制約の中、彼らが振り絞った知恵と感性が『メランコリック』に結実し、日本映画界を驚かせるまでの作品になった。同い年の3人組が立ち上げた映画製作ユニット「One Goose」の快進撃は、まだ始まったばかりだ。
『メランコリック』は2019年8月3日(土)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ港北ニュータウンほか全国順次公開