剣とサンダルの時代の昔話ならぜ~んぶ「ソード&サンダル」でOK!
「ソード&サンダル」とは、古代ギリシャ~ローマ、エジプトなどを舞台に繰り広げられる古典時代劇のこと。「じゃがいも&しらたき」と言われれば肉じゃがを、「白菜&唐辛子」と言われればキムチを連想するのと同じように、剣を持ってサンダル履いた人たちがたくさん出てくるから「ソード&サンダル」なのだ。
舞台となる時代が時代だけにソード&サンダル作品は不条理でキツいお話が多いものの、シンプルかつ明快なアドベンチャー/ファンタジー系映画として普遍的な人気を誇る定番ジャンルでもある。近年では、ラッセル・クロウ演じるコロシアム最強の闘士マキシマスが虎とたわむれた『グラディエーター』(2000年)や、ブラピがギリシャの戦士アキレスを演じた『トロイ』(2004年)、コリン・ファレル&アンジェリーナ・ジョリー共演の『アレキサンダー』(2004年)などが代表作だろうか。
もちろん剣とサンダルが出てくるお話、例えばシュワちゃん主演『コナン・ザ・グレート』(1982年)やドルフ・ラングレン主演『マスターズ/超空の覇者』(1987年)、ロック様ことドウェイン・ジョンソン主演『スコーピオン・キング』(2002年)だって、立派なソード&サンダル映画である。たぶん。
なんと製作費1億ドル! あの歴史的名作『ベン・ハー』を約半世紀ぶりにリメイク
そんなソード&サンダル映画を代表するのが、ご存知『ベン・ハー』だ。原作はルー・ウォーレスによる(1880年刊)同名ベストセラー小説。1907年に短編サイレント映画が制作され、現在までに計4度も映画化されている歴史的名作である。1925年版のチャリオット(戦車レース)シーンはその後数十年にわたって多くの映画に影響を与えたほどの迫力! そしてチャールトン・ヘストン主演の1959年版は3時間超の大作であり、同年のアカデミー賞で11部門を受賞するという快挙を成し遂げた。
しかし、今回ご紹介するのは約半世紀ぶりにリメイクされた2016年版の『ベン・ハー』である。監督は『ウォンテッド』(2008年)『リンカーン/秘密の書』(2012年)のティムール・ベクマンベトフ。……なんか嫌な予感がするって? 確かに本作は1億ドルの制作費を投入するも、世界中の映画ファンから過去作と比較されたうえメッタメタに酷評され、興行収入は惨敗。しかも日本ではDVDスルー(劇場公開されず直接DVDが発売される)という憂き目にあった哀しい作品だ。
とはいえ、古典中の古典である『ベン・ハー』を若い世代が知るきっかけになったはずだし、愛憎渦巻く人間ドラマによって幅広い世代が楽しめる、2時間強にぎゅっと濃縮されたアクション時代劇に仕上げている。2010年代以降めっきり大作が減ってしまったソード&サンダル映画の系譜を引き継ぐ、貴重な作品と言えるだろう。
歴代『ベン・ハー』の代名詞! 大迫力の戦車レースが現代によみがえる
念のためざっくりお話を説明しておくと、豪族の息子ジュダ(ユダヤ人)と義兄弟のメッサラ(ローマ人)の友情が立場の相違によって次第にすれ違い、やがて壮大な復讐劇へと発展していく……という点は過去作と同様だ。1959年版のチャリオットシーンはVFXのない時代にもかかわらず背筋が凍る程の迫力だが、本作は現代のテクノロジーを駆使して超アグレッシブなチャリオットを実現。ふっ飛ぶ操車や暴れる馬など、いろんな理由で撮影不可能なレースを見事に蘇らせた。
キャスト陣も、中堅どころが大健闘。メッサラ役のトビー・ケベルは『猿の惑星』シリーズ(2014年~)で武闘派チンパンジーのコバを演じた人なので、不信感や嫉妬を抱くキャラクターがウホッとハマる。逆にジャック・ヒューストン(祖父は巨匠ジョン・ヒューストン)が演じるジュダは豪族の息子だけに少しナヨ感がありつつも、メッサラの謀略によって堕ちるところまで堕ち、ロドリゴ・サントロ演じる過剰にイケメンなイエスと出会い、ガレー船の漕手として生死を懸けた修羅場をくぐり抜けたことで、徐々に精悍な顔つきに変わっていく姿がグッとくる。
なお、1959年版のアラブの族長イルデリムはアフリカ系の商人に改変され、ジュダを救う重要人物としてドレッドヘアのモーガン・フリーマンが貫禄たっぷりに演じている。いまや彼がナレーションをすると逆に安っぽく感じてしまうという謎現象も起きているが、なんとなく少年ジャンプ漫画っぽいしキャッチーさは増しているので良しとしておこう。
そして2016年版の便乗企画『ベン・ハー 終わりなき伝説』(2016年)なんてのも存在する。