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『007』ジェームズ・ボンドの原型はヒッチコック映画にあった?サスペンスの神様が“憧れ”を投映した主演俳優とは

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ライター:#谷川建司
『007』ジェームズ・ボンドの原型はヒッチコック映画にあった?サスペンスの神様が“憧れ”を投映した主演俳優とは
『北北西に進路を取れ』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.
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ヒッチコック映画「最多主演」俳優たちの対極的な位置

“サスペンス映画の神様”ことアルフレッド・ヒッチコック監督はサイレント映画『Number 13』(1922年/未公開)から『ファミリー・プロット』(1976年)まで半世紀以上の長いキャリアで計57本の作品を残したが、前半の英国時代の作品より、一般によく知られているのはハリウッドへ招かれた1940年以降の31作品だろう。ハリウッド時代の作品にしても様々なヴァリエーションがあるが、主演男優に誰を用いたのかによって、実はその傾向にかなりの違いが出ているのは意外と知られていない。

たとえば、ヒッチコック作品で最多主演回数を誇るのは、それぞれ4回のケイリー・グラントとジェームズ・スチュアートだが、グラントの演じる主人公がいつもヒッチコック自身「こうありたいけれども絶対に自分はこうなれない」という憧れの存在であるのに対し、スチュアートが演じる主人公は常にヒッチコック自身を投影している。考えてみると、『裏窓』(1954年)の主人公は覗き屋だし、『めまい』(1958年)の主人公はストーカー以外の何者でもない。それらの役柄はヒチコック自身の暗い欲望を体現している主人公だが、アメリカ人や世界の観客に愛され全幅の信頼を寄せられていたスチュアートが演じると、いびつな人間には見えず観客は受け入れてしまうという仕掛けだ。

もちろん、グラントにしろスチュアートにしろ、ヒッチコック的な“巻き込まれ型の主人公”との親和性が高いがゆえに何度も起用されていることは間違いない。しかし、一方で『サイコ』(1960年)のアンソニー・パーキンスのようにヒッチコック作品への出演は一本限りというスターもいて、それは相性が良い悪いというよりは、一本限りだったからこそ強い印象を残し得る役柄なのだろう。

一本限りのヒッチコック映画スター①:ロバート・ウォーカー

ヒッチコック作品への出演は一本限りというスター俳優は何人もいるが、たとえば『見知らぬ乗客』(1951年)のロバート・ウォーカーなどは、ほとんどこの作品一本のみで記憶されている。パトリシア・ハイスミス原作の『見知らぬ~』は、他人同士の男二人が互いに殺したい相手がいるため、“交換殺人”を実行することで動機のある自分にはアリバイを作れるし、実行犯には殺人の動機がない、というシチュエーション。

『見知らぬ乗客』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

話を持ち掛けたのはスター・テニス選手のファーリー・グレンジャーで、彼は妻を殺したい。もう一人の男、父を殺したい富豪をウォーカーが演じる、ダブル主演作だ。グレンジャーは『ロープ』(1948年)に次ぐヒッチコック作品への出演だったが、交換殺人を持ち掛けられたウォーカーの方が早々にグレンジャーの妻を殺害し、「お前も早く殺せ」とストーカーのごとくつきまとうようになる。

『見知らぬ乗客』© Warner Bros Entertainment Inc. All rights reserved.

精神を病んだところのあるこの役を演じるのにロバート・ウォーカーはドンピシャリだった。それは彼が実生活でも、妻であり女優のジェニファー・ジョーンズを大プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニックに寝取られて心を病んでいたことと無関係ではないだろう。ウォーカーは本作の直後に、アルコールの過剰摂取と医師に投与された鎮静剤の相互作用によって32歳で亡くなってしまった。

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