ビタイチ飽きるヒマのない面白さ!
カトリック教会が仕切るバチカンを舞台にした超一級のミステリー、最高のエンタメ作品に仕上がっている本作。思想・派閥が絡むポリティカル・サスペンス、ゴリゴリの家父長制を象徴する現代社会の縮図――実際そういった趣旨の作品ではあるし掘り下げるべきテーマではあるものの、とはいえ身構えて観る必要はない。会話劇がメインにも関わらず「えっ、どういうこと?」「じゃあ、あの人が……」な展開がポンポン出てきて、とにかく“我慢の時間”がほとんどない面白さなのだ。

『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.
野心は見せないが保守派の就任を阻止したいリベラル派のベリーニ、重要な何かを隠している様子の重鎮トランブレ、ベネチアの伝統保守派テデスコ、初のアフリカ系候補アデイエミ、“遅れてやってきた”若手ベニテス(アフガニスタンで奉仕していたって!?)……枢機卿たちのキャラ立ちは抜群で、おじさんばかりで誰が誰だか? な状態にはなりようがない。

『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.
レイフ・ファインズを筆頭にスタンリー・トゥッチやジョン・リスゴーら重厚感ある演技を見せるベテラン俳優たちは、全員メインディッシュ級。わずか数分の登場時間にもかかわらず演じたイザベラ・ロッセリーニがアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたシスター・アグネス(ちょっとした表情演技にも注目!)も、シスター目線のスピンオフが1本撮れそうなほどの存在感だ。

『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.
全国の映画館がザワつくこと必至の超・驚愕展開
劇中冒頭で逝去する教皇のモデルはローレンスの敬愛ぶりから察するに、現ローマ教皇(第266代)フランシスコだろうか。進歩派のフランシスコは宗教を隠れ蓑にした戦争犯罪や人種的・性的マイノリティへの差別に対してNOを表明しており、それゆえに否定派も多い存在だ。なおトゥッチ演じるベリーニの役作りもフランシスコみがある。

『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.
フランシスコについてはアンソニー・ホプキンスとジョナサン・プライスが共演したNetflix映画『2人のローマ教皇』(監督:フェルナンド・メイレレス)でも描かれていて、プライスが演じた枢機卿がのちのフランシスコ。彼が自身の過去に抱えている悔いと苦悩が描かれているので、本作と併せて鑑賞すれば理解が深まるだろう。
本作の監督エドワード・ベルガーは、Netflix映画『西部戦線異状なし』で2022年にアカデミー賞国際長編映画賞を受賞している注目のドイツ人監督。腹の奥がムズムズするような終始ヒリついた空気感は今回も継続しており、史実ベースの作劇センスを改めて証明してみせた。最後の最後まで声が出るほど驚かせてくれるので、覚悟して鑑賞して欲しい。

『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.
……これは完全に余談だが、本作の脚本家ピーター・ストローハンはジョン・ル・カレ原作のスパイ映画『裏切りのサーカス』(2011年)も手掛けていて、そして『2人のローマ教皇』のメイレレスは同じくジョン・ル・カレ原作の『ナイロビの蜂』(2005年)の監督でもあり、こちらも主演はレイフ・ファインズだった。
『教皇選挙』は3月20日(木・祝)より全国公開中