「ヤクザ映画にピッタリ」「日本の監督で前日譚を」オスカー2部門受賞『エミリア・ペレス』オーディアール監督が語る

『エミリア・ペレス』ジャック・オーディアール監督インタビュー
今年のアカデミー賞授賞式は、編集賞プレゼンターのダリル・ハンナが「ウクライナ万歳」で挨拶を始めたり、本作『エミリア・ペレス』で助演女優賞を受賞したゾーイ・サルダナが移民としての誇りを述べるなど、政権のウクライナ対応や移民政策に対する「NO」の表明が目立った。
最多ノミネート作となった本作はゾーイ・サルダナがラップで歌い踊った『El Mal』が歌曲賞も受賞。音楽とダンスの重要性について、ジャック・オーディアール監督が語った。

ジャック・オーディアール監督 『エミリア・ペレス』© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA
「日本の監督に前日譚を撮ってほしい。ヤクザ映画にピッタリじゃないですか」
――『エミリア・ペレス』は、ご友人の作家のボリス・ラゾン(Boris Razon)さんから送られてきた小説「Ecoute」に登場する、女性になりたがっている麻薬カルテルのボスからインスパイアされたそうですが、エミリアをカルテルの女ボスにしないで改心させたのは、有害な男らしさを批判するためですか? それとも、良心に反して暴力的に振る舞わなければ自分が被害に遭ってしまう男性社会の息苦しさを伝えるためなんでしょうか。
おっしゃる通り、まさに、エミリアが性別適合することで暴力の連鎖を断ち切ることができるだろうかという問いかけを私は投げかけたかったのです。
マニタスが性別適合手術を受けてエミリアとしてリタの前に現れる以前に、どれほど男性として苦しんできたか……つまり、本当は暴力を振るいたくないのに暴力を振るわなくてはならず、犯罪を犯さなくてはならず、さらに自分は本当は女になりたいのに妻との関係性をキープしなければならない。マニタスがどのような人間的苦悩を抱えていたか、そこに思いを馳せるのは非常に興味深く、それを描くだけでも一本作品が撮れると思います。それで、私は日本の監督にその前日譚を撮ってほしいと思っているんです。

『エミリア・ペレス』© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA
――私は是非その前日譚もオーディアール監督の作品として見てみたいです。
ありがとうございます。でも、これは日本映画が得意とするヤクザ映画にピッタリじゃないですか。
――ああ、なるほど。そうですね。実際、映画の中には、ジェシーが子どもを産んだ途端に夫との関係性が変わってきてしまったと嘆くシーンがありました。ほかにも男性上司に能力を正当に評価されてもらっていない弁護士のリタとか、夫に暴力を振るわれていたエピファニアたちが出てくるんですけど、彼女たちには新聞で見かけるニュースなどモデルがいたりしたんでしょうか?
三面記事や何か具体的な例からインスパイアされた、モデルがあったということではなくて、とても残念な言い方になりますが、本当に凡庸な苦悩というか、あれらが至る所に見受けられる女性たちの苦悩なんだと思います。ジェシーの場合は、世界の中で自分の居場所が見つけられない。アメリカからメキシコに行って、今度はスイスに行かされて、またメキシコに戻される。自分の居場所を見つけられなくて本当に苦しんでいます。
同時にリタも、女性弁護士として、男性優位の弁護士事務所にいて評価されません。そして、夫の暴力を受けてきたエピファニア、みんな共通の苦悩を抱えているわけです。これは残念ながらステレオタイプとして存在する社会の苦悩ですね。ですが私がこの作品で非常に重要視しているのは、エミリア・ペレスの存在自体が女性たちの人生を少しずつ良くしていく。そうした求心力を持った女性として描いています。
『エミリア・ペレス』
弁護士リタは、メキシコの麻薬王マニタスから「女性としての新たな人生を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタの完璧な計画により、マニタスは姿を消すことに成功。数年後、イギリスに移住し新生活を送るリタの前に現れたのは、新しい存在として生きるエミリ ア・ペレスだった。過去と現在、罪と救済、愛と憎しみが交錯する中、運命は思わぬ方向へと大きく動き出す――
監督・脚本:ジャック・オーディアール『君と歩く世界』『ゴールデン・リバー』『 パリ 13 区』
制作:サンローラン プロダクション by アンソニー・ヴァカレロ
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス、アドリアーナ・パス
制作年: | 2024 |
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2025年3月28日(金)より全国公開