• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • ホロコースト生き延びた建築家の半生描く『ブルータリスト』移民の両親持つエイドリアン・ブロディが語る

ホロコースト生き延びた建築家の半生描く『ブルータリスト』移民の両親持つエイドリアン・ブロディが語る

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#佐藤久理子
ホロコースト生き延びた建築家の半生描く『ブルータリスト』移民の両親持つエイドリアン・ブロディが語る
『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures
1 2

アカデミー賞®10部門ノミネート!エイドリアン・ブロディが語る『ブルータリスト』

アカデミー賞®最有力候補の一本と目されるブラディ・コーベット監督の215分の大作、『ブルータリスト』で見事ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)を受賞し、『戦場のピアニスト』(2002年)以来2度目のアカデミー賞®を狙うエイドリアン・ブロディ。ホロコーストを生き延び、ハンガリーからアメリカに渡った不遇の天才建築家、ラースロー・トートに身も心もなりきり、渾身の演技を見せた彼に、この「運命的な役柄」について訊いた。

『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

「移民の母が負った犠牲や過去との決別は、僕の一部でもある」

――本作の演技で、2度目のアカデミー賞®の呼び声も高いですが、本当に素晴らしい演技を見せて頂きました。この役はそもそも、あなた自身のご家族のバックグラウンドととても似通っていたと聞きましたが、まずその点について教えてください。

この脚本をもらって僕自身、驚いたこと、そしてただちに心を鷲深みにされたのが、まさにその点だった。というのも、僕の祖母と母は、主人公のラースロー同様に、1956年に起きたハンガリー動乱のときに国を離れ、アメリカに渡ってきたから。

母は自国で写真家として活動していたけれど、すべてを国に置いて、ニューヨークで再出発をしなければならなかった。英語も不十分で強い訛りがあり、外国人としてのハンディを背負っていた。そういう意味での犠牲、過去との決別、それらは家族の歴史として、僕の一部でもある。

そういう自分自身の旅を、このような映画をきっかけにして見直せること、移民としての経験やアメリカン・ドリームを達成することの複雑さを表現できることは、とても光栄だし、個人的にも意味のあることだった。

『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

――そのような背景は、役を演じる上でどのように影響しましたか。

もちろん、すごく役に立ったよ。とくに母がクリエイティブな人間だったことで、そんな経験をしたアーティストが世界をどのように眺めるようになるのかを考えることは、建築家であるラースローを演じる上で大きなヒントになった。

『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

「『戦場のピアニスト』は僕のなかに刻印された、血と肉のようなもの」

――あなたが最年少でアカデミー賞®主演男優賞に輝いた『戦場のピアニスト』では、ナチス占領下のポーランドで迫害を受けた実在のユダヤ人ピアニストを演じられました。もちろん物語や時代設定は異なりますし、ラースローはフィクショナルなキャラクターですが、ともに迫害を受けたユダヤ人アーティストという点ゆえに、以前の経験が今回役立ったと思えたことはありましたか。

『戦場のピアニスト』におけるリサーチや、ウワディスワフ・シュピルマンを演じた経験は、僕に多大なインパクトを及ぼしたよ。あれからもう20年以上経つけれど、それは何か僕のなかに刻印された、血と肉のようなものと言えるかもしれない。

そのことはラースローが生きてきた背景を考える上で、大きな価値があった。とくに苦痛や絶望、喪失といった経験が、アーティストをいかに導くか、そこからいかに創造的なパワーが生まれるのか、という点においてね。

シュピルマンが悲惨な体験をしたにも関わらず、クリエイティブであり続け、それが光をもたらすことについて学ぶことができたのは、ラースローを演じる上でも素晴らしいインスピレーションとなったよ。

――本作は映画自体が壮大で、コーベット監督ははっきりと、観客に映画館へ足を運んでもらうようにするために、それなりの付加価値が必要だと思ったと語っています。それにしても、このスケール感はただものではないと思いますが、あなたにとって彼はどんな監督でしょう。

たしかに彼の作品は今日、映画産業を牽引する重要なものと言える。僕は彼との仕事にとても心を動かされた。決して潤沢とは言えない制作環境のなかで、威風堂々として、観る者の心を動かさずにはいられない、人間的で複雑で奥深いものを作り上げた。それは刺激に満ち、その熱狂が人々に伝染するような類のもの。とても大胆で勇敢な監督だ。

彼が恐れを知らないとは思わない。でも情熱と勇気で彼はやりきった。そのことに感嘆する。そしてこの作品に関わったすべての俳優、スタッフたちが僕と同じような喜びを感じていると思う。これはブラディとモナ(・ファストヴォールド。コーベット監督のパートナーで本作の共同脚本家)にとって7年の歳月をかけた旅であり、僕自身も5年を捧げた。こうして誇らしげに感じられる結果に至って、とても嬉しい。

『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

次ページ:「ブルータリズムは戦争の影響を負っている」
1 2
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『ブルータリスト』

才能にあふれるハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)は、第二次世界大戦下のホロコーストから生き延びたものの、妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)、姪ジョーフィア(ラフィー・キャシディ)と強制的に引き離されてしまう。
家族と新しい生活を始めるためにアメリカ・ペンシルベニアへと移住したラースローは、そこで裕福で著名な実業家ハリソン(ガイ・ピアース)と出会う。
建築家ラースローのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンはその才能を認め、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築を依頼した。
しかし、母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には多くの障害が立ちはだかる。
ラースローが希望を抱いたアメリカンドリームとはうらはらに、彼を待ち受けたのは大きな困難と代償だったのだ――。

監督・共同脚本・製作:ブラディ・コーベット
共同脚本:モナ・ファストヴォールド
出演:エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ
   ガイ・ピアース、ジョー・アルウィン、ラフィー・キャシディ

制作年: 2024