第2のレイヤーはヒンドゥー教神話にあり
『カルキ 2898-AD』におけるそれは、①SF映画としての迫力のビジュアルとアクション、②ヒンドゥー教神話の埋め込み、③テルグ語話者だけに分かるニュアンスや引用、です。第2のレイヤーであるヒンドゥー教神話の要素については、ひとまずは以下を押さえておけば大体わかるでしょう。
▼アシュヴァッターマンとカルナ
「インド神話物語 マハーバーラタ 下」に目を通すのがおすすめです。アシュヴァッターマンについては「首を斬られた恩師」、「呪われたアシュヴァッターマン」の箇所、カルナについては「カルナの戦車の車輪」の箇所です。読みやすい本なので1冊丸ごと読むのも苦にはならないでしょう。
▼ユガという時間観とカルキとシャンバラ
ヒンドゥー教の時間観では末法の世にあたるのが「カリユガ」です。このカリユガに救世主として現れるのがカルキという神格で、その誕生の地がシャンバラ(またはサンバラ)であると「マハーバーラタ」第三巻188章(「原典訳マハーバーラタ4」に収録)に記されています。カルキはヴィシュヌ神の10ある化身の最後の形態で、仏神としては弥勒菩薩にあたります。ユガに関する解説は「マヌ法典:ヒンドゥー教世界の原型」(渡瀬信之 著:中公新書)などで。
▼バイラヴァとカーシー
バイラヴァはシヴァ神の憤怒相を表す神格で、しばしば犬を連れた姿で表わされます。チベット系の密教に取り入れられ、仏神としては大威徳明王に繋がっているとされます。インドでのバイラヴァ信仰の中心地のひとつがカーシーです。
深淵なる第3のレイヤーとは?
そして③の「テルグ語話者だけに分かるニュアンスや引用」ですが、まず何よりもテルグ語映画界のコメディー・キングであるブラフマーナンダムの出演が挙げられます。出てきただけで吹きだしてしまうこの人の顔は、テルグ人の映画好きの心のオアシス。
Journeying through the incredible life of #Brahmanandam Garu in ‘NENU,’ his autobiography crafted with humor and heart. 📘 These pages hold the essence of laughter, life lessons, and the cinematic charm he brought to us all.
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— Ram Charan (@AlwaysRamCharan) January 10, 2024
さらに、テルグ語話者だけに分かる、深淵なる謎の提示があります。ラスボス的な存在であるシュプリーム・ヤスキンにまつわるこの謎については、劇場売りパンフレットをお買い求めください。『RRR』についても③の視点から詳細な解題を提供してくださった字幕監修の山田桂子氏による目から鱗のエッセイが収録されています。この最奥のレイヤーを踏まえて鑑賞できる日本の観客は本当に幸せなのです。
文:安宅直子
『カルキ 2898-AD』は2025年1月3日(金)より全国ロードショー
『カルキ 2898-AD』
2898年の未来。
世界は荒廃し、地上最後の都市カーシーは、
200歳の支配者スプリーム・ヤスキンと、
空に浮かぶ巨大要塞コンプレックスに支配されていた。
しかし、奴隷のスマティが宇宙の悪を滅ぼす“運命の子”を身ごもったことで、
コンプレックスと反乱軍の大戦争の火ぶたが切られる!
そこへ一匹狼の賞金稼ぎバイラヴァが加わり、
過去の宿命が動き出す!!
果たして勝利を得るのは誰なのか?
そしてスマティは身ごもった救世主“カルキ”を、
この世界に送り出すことができるのか?
出演:プラバース、アミターブ・バッチャン、ディーピカー・パードゥコーン他
監督:ナーグ・アシュウィン『伝説の女優 サーヴィトリ』
制作年: | 2024 |
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2025年1月3日(金)より全国ロードショー