インド映画史上最大規模のSFアクションファンタジー
プラバース主演の超大作『カルキ 2898-AD』の公開が間近に迫りました。本作のユニークさは、巨額の資金を注ぎ込んだディストピアSFアクションであるだけでなく、ヒンドゥー教の神話を絡めた複雑なプロットを持つことにあります。
ディストピア化した未来世界でニヒルに生きる賞金稼ぎプラバース
BC(紀元前)3102年に起きたとされる、古代インドの神話上の最終戦争クルクシェートラの戦い。両軍の死闘は終盤に至り、武士道に反するさまざまな奸計や反則が横行し、モラルは地に落ちます。中でも特に重篤な違反行為をした戦士アシュヴァッターマンには、クリシュナ(最高神ヴィシュヌ神の化身)により不死の呪いがかけられます。
そこから話は一気にAD(紀元後)2898年、6千年後に飛びます。人類は何らかの壊滅的な戦災を経たらしく、地球で唯一残った都市がインドのカーシー(またの名をヴァーラーナシー、ベナレス、バナーラス)です。しかしそのカーシーは、全体主義的専制と拝金主義が合体したディストピア。街の中心にそびえ立つ<コンプレックス>という構造物は支配階級の住む愉楽の園、一方で一般民衆がひしめく地上の暗く薄汚い居住区は、水や卵が貴重品という貧しさです。
巨額の入居金を得ればコンプレックスの住人になれるというので、お尋ね者を捕える賞金稼ぎを稼業とする男たちも少なくなく、主人公バイラヴァもその一人。彼は賞金のかかった女性SUM-80を追い荒野に赴きますが、6千年の時を経た神話物語の続きの中に絡めとられていきます。
“汎インド映画”が持つレイヤーとは?
“汎インド・スター”プラバースの主演作なので、当然のように複数言語同時公開の“汎インド映画”である本作、日本で公開されるのはオリジナルのテルグ語版です。『RRR』(2022年)もそうでしたが、テルグ語圏から送り出される汎インド映画には、複数のレイヤーを持つものが多いです。
そのレイヤーとは、「①ユニバーサルな観客に訴える要素」、「②インド人観客全体に訴える要素」、「③普通はテルグ人観客にしかウケない要素」、の3つ。『RRR』ならば、①驚異のアクションや友情と使命のジレンマの熱いドラマ、②ヒンドゥー教神話からの引用、③テルグ民族にとっての英雄である主人公たちの実人生とのリンク、ということになります。
③が分かっていればテルグ人と同じように味わうことができますが、①のレベルだけでも十分に面白く、最大多数の人々の支持を得られるというのが、近年の成功した汎インド映画に共通しています。
『カルキ 2898-AD』
2898年の未来。
世界は荒廃し、地上最後の都市カーシーは、
200歳の支配者スプリーム・ヤスキンと、
空に浮かぶ巨大要塞コンプレックスに支配されていた。
しかし、奴隷のスマティが宇宙の悪を滅ぼす“運命の子”を身ごもったことで、
コンプレックスと反乱軍の大戦争の火ぶたが切られる!
そこへ一匹狼の賞金稼ぎバイラヴァが加わり、
過去の宿命が動き出す!!
果たして勝利を得るのは誰なのか?
そしてスマティは身ごもった救世主“カルキ”を、
この世界に送り出すことができるのか?
出演:プラバース、アミターブ・バッチャン、ディーピカー・パードゥコーン他
監督:ナーグ・アシュウィン『伝説の女優 サーヴィトリ』
制作年: | 2024 |
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2025年1月3日(金)より全国ロードショー