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宮藤官九郎が描く「泣き笑い移住エンターテインメント」菅田将暉主演『サンセット・サンライズ』(ネタバレなし解説)

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ライター:#稲垣貴俊
宮藤官九郎が描く「泣き笑い移住エンターテインメント」菅田将暉主演『サンセット・サンライズ』(ネタバレなし解説)
©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
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被災地にとっての“よそ者”と、それを受け止める“住民たち”

百香や章男のほか、居酒屋店主のケン(竹原ピストル)、常連客のタケ(三宅健)、山城(山本浩司)、耕作(好井まさお)、晋作の隣人となる茂子(白川和子)たちと晋作の関わりは、穏やかであり、激しくもあり、ときに乱暴でもあり、そこに人間味を感じられる。コロナ禍の東京から失われていた、人が直接触れ合うコミュニケーションが、晋作と東京の同僚たちによるオンライン飲み会とさりげなく対照されるのも巧みだ。オンラインならワンクリックで退出できるが、目の前にいる相手との関わりからはそう簡単に逃れられない。

©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

映画が展開するにつれ、ゆるやかに“震災”のテーマが前面に押し出されてくるが、じつは後半の展開は宮藤によるオリジナル。原作のストーリーを踏まえ、そこに描かれていなかった“震災”への向き合い方を提示した。被災地にとってはどこまでもよそ者でしかない晋作と、それを受け止める住民たち、それぞれの視点がひとつの場面に集約されるクライマックスは、震災を描き続けてきた書き手にしか紡ぐことのできない場面だろう。

メイキングショット
©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

ちなみに宮藤は、『俺の家の話』(2021年)や『新宿野戦病院』(2024年)などでコロナ禍を描いており、本作ではコロナ禍初期の(今となっては)過剰に思えるほどの反応や、田舎町の相互監視などの感覚をきわめてリアルに取り込んだ。ほんの数年前の出来事だが、それらをシリアスなトーンではなく笑いによって描けるようになったことも時代の変化を感じさせる。

メイキングショット
©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

「宮藤作品らしさ」と「岸作品らしさ」が交互にやってくる感覚

監督の岸は、震災やコロナ禍という大きなテーマ、そして宇田濱町でおこなわれる人々の営みを、ささやかなディテールの積み重ねから確実に立体化した。『正欲』(2023年)でも記憶に新しい、人物の心理や生活を美術や小道具ひとつからさえも描き出していく演出は、新境地となった今回も健在。宮藤脚本のもつユーモアや悲しさに、さらなる厚みと説得力をもたらした。

©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

宮藤と岸による異色の共作は「時間」の扱い方にもあらわれており、せりふのやり取りは宮藤節だが、せりふのない時間や、そこにいる人物を切り取る視線は岸節というべきもので、異なるリズム感が同居しているのも興味深い。あえて言えば「宮藤作品らしさ」と「岸作品らしさ」が交互にやってくるような感覚で、どちらのファンにとっても新鮮な体験となるはずだ。

メイキングショット
©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

舞台となった宇田濱町は、南三陸にあるという架空の町。よそ者としてふらふら漂い、迷いながら生きる晋作を演じた菅田のほか、町そのものに存在感と説得力をもたらした住民役の俳優陣が織りなすアンサンブルも見事だ。章男役の中村雅俊を除き、じつは出演者のほとんどが東北出身ではないにもかかわらず、まるで違和感を抱かせない方言の演技にも舌を巻く。

メイキングショット
©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

文:稲垣貴俊

『サンセット・サンライズ』は2025年1月17日(金)より全国公開

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『サンセット・サンライズ』

新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た〈よそ者〉の晋作に、町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた—?!

出演:
菅田将暉
井上真央
竹原ピストル 山本浩司 好井まさお 藤間爽子 茅島みずき
白川和子 ビートきよし 半海一晃 宮崎吐夢 少路勇介 松尾貴史
三宅健 池脇千鶴 小日向文世 / 中村雅俊

脚本:宮藤官九郎  監督:岸善幸『あゝ、荒野』
原作:楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫)
音楽:網守将平 主題歌:青葉市子
撮影:今村圭佑
インスパイアソング:GRe4N BOYZ「シオン」

制作年: 2024