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「我が子が人を殺めた」彼は何故そこで“ふっと笑う”のか?ホ・ジノ監督に聞く『満ち足りた家族』【前編】

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ライター:#松崎健夫
「我が子が人を殺めた」彼は何故そこで“ふっと笑う”のか?ホ・ジノ監督に聞く『満ち足りた家族』【前編】
『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED
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「直接的に伝えるよりも、相手に考えさせる、解釈させる」

脚本上には書かれておらず、劇中の台詞においても説明されてない設定を、家族同士が交わす視線のような映像情報によって、観客がなんとなく推し量っている点は重要だ。例えば、<音>。映画は暗転した映像で始まるが、真っ暗な画面の中で諍いが起こっていることを、ホ・ジノ監督は<音>だけで表現してみせている。そのため、観客は能動的に<想像>し始める。それは、映画の冒頭で「そういう映画ですよ」と宣言しているようにも見えるのである。これは、監督が意図した演出なのだろうか。

この映画を描く時に、二つの方向性がありました。一つは社会的な問題を扱うということ。それからもう一つが、人間の本性ということです。その本性というのは、直接的に見せることが少し難しいと思いました。できれば想像させる、考えさせる。その行動そのものや、その人の内面が行動として如実に表れないようにしたいというように、徹底的に意図したわけではないのですが、そういった少しのスパイスを考えたところはありました。

例えば、自動車事故を起こした人物が現れます。その人物が、お兄さんのジェエワンが弁護する法廷で無罪を主張している時に、判事にも見えないように、ちょっと淡い笑顔を見せる場面がある。ふっと、ちょっとだけ笑うんです。そして、もう一つが、ジェギュがご飯を食べている時に、ふと笑う場面です。この笑うシーンというのは、息子が暴力を振るってしまったある人物が死んだことを聞いて、ご飯を食べる時にふと顔をほころばせるんですね。そういった場面で、例えば「死んでよかった」というふうに露骨に喜んでしまったら単純になってしまいます。ですから、そういった内面を隠すような、抑えるような演技というのを、いろいろとやってもらいました。

運良く死んだことに対して、人間は露骨に望んだり、喜ぶというように表立ってはできないものです。なぜならば、道徳的な観念ですとか、責任感があるので。しかし「死んでくれて良かった」というふうに思っているのだなということを、観ている人が解釈できるよう隠喩として描いてみました。直接的に自分のメッセージを「こうですよ」と伝えるよりも、少し遠まわしに、やんわりと伝えるという技法が好みで。直接的に伝えるよりも、何か相手に考えさせる、解釈させるということの方がわたしは好きですね。

『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

「今の韓国社会のストーリーを伝えるために医師と弁護士という職業を選んだ」

ホ・ジノ監督の『春の日は過ぎゆく』で、主人公の職業は録音技師だった。また短編『二つの光』(2017年)では、主人公の職業が調律師だったように、監督作において<音>は重要な要素なのではないかと思わせる。加えて、『八月のクリスマス』の主人公が写真館を営んでいるなど、登場人物たちの(やや特殊な)職業も重要な設定だなと思わせる。今作においても、医者と弁護士という職業が、キャラクター造形に影響を与えているからだ。

そうですね、初期の作品は意図的に職業を選んでいたと思います。おっしゃる通り、『八月のクリスマス』では写真家、『四月の雪』では照明に関わる人物でしたが、『春の日は過ぎゆく』は音に関する人物でした。それでこの作品では、木々の葉っぱがぶつかり合うような音で、2人の恋心を表現しました。だから『春の日は過ぎゆく』ではサウンドがとても重要だったのです。思い返せば、一番最初が写真、二番目に音、三番目は照明で行ってみようかという感じでした(笑)。

『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

これは、「初期三作の主人公たちを集合させることで、映画を作れる要素になっている」ということなのだとインタビュー後の雑談で監督が教えてくれた。

今作には弁護士と医師が出てくるのですが、これは原作にはない設定なんですね。イタリア映画『われらの子供たち』(2014年)の設定ではあったのですが、今の韓国社会のストーリーを伝えるのに良いのではないかと考えて、医師と弁護士という職業を選びました。

ホ・ジノ監督

▶インタビュー「演出とキャスティング編」に続く

取材・文:松崎健夫

『満ち足りた家族』は2025年1月17日(金)より全国ロードショー

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『満ち足りた家族』

兄ジェワン(ソル・ギョング)は、道徳よりも物質的な利益を優先して生きてきた弁護士だ。
仕事のためなら、殺人犯の弁護でさえも厭わない。
年下の2人目の妻ジス(クローディア・キム)や10代の娘らと共に豪華マンションに住み、家事は家政婦がこなす誰もがうらやむ暮らしだ。

一方、小児科医として働くジェギュ(チャン・ドンゴン)は、どんな時にも道徳的で良心的であることを信念に生きてきた。
年長の妻ヨンギョン(キム・ヒエ)と10代の息子と共に住む彼は、老いて痴呆気味になった母の介護にも献身的に当たり、品行方正な日々を送る。

まったく相容れない信念に基づいて生きてきた兄弟。
しかし2人は、それぞれの妻を伴って月に1回、高級レストランの個室に集い、ディナーを共にする。
レストランではお得意様であるジェワン夫妻が常に優先され、兄弟家族同士の会話はどこかぎこちない。

ディナーが行われた夜、時を同じくある事件が起こり、満ち足りた日々を送る家族が想像だにしなかった衝撃の結末を招き寄せる――。

監督:ホ・ジノ
出演:ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キム

配給:日活/KDDI
©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

制作年: 2024