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「我が子が人を殺めた」彼は何故そこで“ふっと笑う”のか?ホ・ジノ監督に聞く『満ち足りた家族』【前編】

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ライター:#松崎健夫
「我が子が人を殺めた」彼は何故そこで“ふっと笑う”のか?ホ・ジノ監督に聞く『満ち足りた家族』【前編】
『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED
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ホ・ジノ監督インタビュー「設定とテーマ編」

韓流ドラマが日本で流行する以前の1990年代後半。ミニシアターではハン・ソッキュ主演の恋愛映画『八月のクリスマス』(1998年)が静かなヒット作となっていた。ハン・ソッキュは、後に『シュリ』(1999年)で韓国映画ブームを牽引してゆくスター俳優だが、重要なのは『八月のクリスマス』がホ・ジノ監督の長編デビュー作であったことにある。

現在、韓国映画といえば、『犯罪都市』シリーズのようにエンタメ要素やバイオレンス描写を売り物とする作品、或いは、『ソウルの春』(2023年)のような史実を基にした作品が人気だが、かつては繊細な描写に秀でた人間ドラマも高く評価されていた。ホ・ジノ監督は<恋愛映画の名手>とも評され、イ・ヨンエ主演の『春の日は過ぎゆく』(2001年)や、ぺ・ヨンジュン主演の『四月の雪』(2005年)で人気監督となったという経緯がある。

そんなホ・ジノ監督の新作が、サスペンスの要素を帯びた衝撃の人間ドラマ『満ち足りた家族』(2025年1月17日[金]公開)だ。来日した監督にインタビューを敢行。示唆に富んだ監督の談話を2回に分けて掲載するが、前編は「作品の設定とテーマ」についてお聞きしたパートをお届けする。

ホ・ジノ監督

「子どもの幸せのために親は何をすべきなのか? という物語」

『満ち足りた家族』の原作は、2009年にオランダの作家ヘルマン・コッホが執筆した小説「冷たい晩餐」(イースト・プレス刊)。これまでも、オランダで『Het diner(原題)』(2013年)、イタリアで『われらの子供たち』(2014年)、アメリカで『冷たい晩餐』(2017年)として映画化され、今作は舞台を韓国に置き換えた4作目の映画化作品となる。短期間に国際的なリメイクが何度も為されることは珍しいケースだが、ホ・ジノ監督は物語のどこに普遍性があると感じたのだろう。

これは、子どもの幸せのために親は何をすべきなのか? という物語ですよね。道徳的なものなのか? 或いは倫理なのか? そういったものは、韓国社会のその現象と似ていると思いました。

冷たい晩餐

その点では、小児科医である弟のジェギュ(チャン・ドンゴン)の息子と、弁護士である兄のジェワン(ソル・ギョング)の娘が、大学受験を控えているという設定に、韓国社会の激しい受験戦争が反映されていると感じさせる。なぜならば、原作には無い設定でもあるからだ。

そうですね、原作には確かにありませんでした。この物語は、チャン・ドンゴンさんが演じたジェギュの夫婦が、江南に引っ越してきたところから始まっています。彼らの息子が引っ越した先で上手く馴染めなかったところから問題が始まっていますが、この家族が引っ越してきた理由というのが息子をいい大学に送るためなんですね。しかし、そこで馴染めなかったことから、ぶつかり合いが起きてしまいました。

もうひとり、ソル・ギョングさんが演じたジェワンの娘は、ある意味で韓国社会の一番象徴的な人物ではないかと思うのです。韓国のお金持ち、富裕層というのは、国内の大学ではなく、必ず海外の大学に留学させるんですね。ですから、弁護士の娘という人物は、ある意味で韓国社会のそういった状況というのを上手く反映している人物だと言えます。

『満ち足りた家族』©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

次ページ:「韓国社会のストーリーを伝える」ための人物設定とは?
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『満ち足りた家族』

兄ジェワン(ソル・ギョング)は、道徳よりも物質的な利益を優先して生きてきた弁護士だ。
仕事のためなら、殺人犯の弁護でさえも厭わない。
年下の2人目の妻ジス(クローディア・キム)や10代の娘らと共に豪華マンションに住み、家事は家政婦がこなす誰もがうらやむ暮らしだ。

一方、小児科医として働くジェギュ(チャン・ドンゴン)は、どんな時にも道徳的で良心的であることを信念に生きてきた。
年長の妻ヨンギョン(キム・ヒエ)と10代の息子と共に住む彼は、老いて痴呆気味になった母の介護にも献身的に当たり、品行方正な日々を送る。

まったく相容れない信念に基づいて生きてきた兄弟。
しかし2人は、それぞれの妻を伴って月に1回、高級レストランの個室に集い、ディナーを共にする。
レストランではお得意様であるジェワン夫妻が常に優先され、兄弟家族同士の会話はどこかぎこちない。

ディナーが行われた夜、時を同じくある事件が起こり、満ち足りた日々を送る家族が想像だにしなかった衝撃の結末を招き寄せる――。

監督:ホ・ジノ
出演:ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キム

配給:日活/KDDI
©2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

制作年: 2024