未来を担う子どもたちと、足を引っ張る生活環境
2023年制作の本作は、某辛口レビューサイトで批評家スコア95%、観客スコアにいたっては99%という驚異的な数字を叩き出している。実話ベースだけに“驚きの展開の連続!”みたいなエンタメ度は控え目ながら、小学校=生徒たちの境遇がどんなフィクション劇よりも衝撃的なので、ナチュラルなスリルにもあふれている。映画的に例えれば、家を出たら即「マッドマックス」みたいな世界なのだから当然だ。
そんな世界で未来に希望を抱くのは難しい。貧しい親には家計を支える即戦力としか思われていないし、身内にギャングまがいの人間が普通にいて、隙あらば“そっち側”へと誘導される。通学路では警察が非常線を張り、傍らには遺体がゴロゴロと横たわっている、そんな日常は私たちには想像すらできない。
それでもフアレス先生は、教室という枠にすらとらわれない実践的な授業で学習意欲を刺激する。学ぶことの楽しさを知り、未来に一筋の光を見出したことで次第に目を輝かせていく子どもたち。グレーがかっていた映像も中盤辺りからカラリと明るくなり、その頃には生徒たちにすっかり情が湧いてきて、心の中で拳を握りながら応援してしまう。
実話ならではのリアルな生活描写、各家庭の切実な事情
“これから”を生きる子どもたちと、その可能性を閉ざそうとする保護者たち。長い目で見れば子どもの成功は家族の助けにも繋がるはずなのに、それに気付けないほど彼らは困窮している。フアレス先生の授業は子どもの学力向上だけでなく、そんな負のサイクルを断ち切るための授業でもあるはずだ。
フアレス先生を演じるエウヘニオ・デルベスはビリー・ボブ・ソーントンにクリソツだが、オスカー受賞作『コーダ あいのうた』(2021年)でも印象的な人物を演じていたので見覚えがあるだろう。物語終盤、ある悲劇的な出来事を経てからのフアレス先生の行動、それが保護者の“気づき”を促す展開、そこからのラストシーンにはゴリゴリに涙を搾り取られる。そして“みんなハッピー!”では終われない其々の事情が、心の片隅にチリチリと鈍い痛みを残す。
『型破りな教室』は2024年12月20日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開