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「役に“共感”はしない(キッパリ)」名優イザベル・ユペールが語る最新作『不思議の国のシドニ』は日本舞台

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ライター:#遠藤京子
「役に“共感”はしない(キッパリ)」名優イザベル・ユペールが語る最新作『不思議の国のシドニ』は日本舞台
イザベル・ユペール
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想像以上に「イザベル・ユペール」

イザベル・ユペールといえば、ジャン=リュック・ゴダール、クロード・シャブロル、ミヒャエル・ハネケ、ポール・ヴァーホーヴェンと大監督の作品に出演し、現在も活躍を続ける世界に名だたる名優中の名優。第37回東京国際映画祭開催中に来日、12月13日(金)より公開の主演映画『不思議の国のシドニ』(以下『シドニ』)について話を聞かせていただけることになった。

『不思議の国のシドニ』©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM-IN-EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMÉLIA

『不思議の国のシドニ』は、若くして亡くなった夫を忘れることができない作家のシドニがサイン会のため来日、新しい恋に飛びこんで夫を忘れようとするが、なぜか日本のあちこちにフランス人の夫の霊が現れる物語だ。

映画の質問には饒舌に、女性誌的な質問には「ノン」と答える姿勢は、無双。それでもこんなにチャーミングにNOと言える人を他に見たことがない。さすがのキャリアを感じさせる、名監督の名言で締めくくられたインタビューとなった。

『不思議の国のシドニ』©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM-IN-EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMÉLIA

「共感はしません。でも、想像力は使います」

―今回演じられたシドニという役柄は内向的で、ここのところ私たちが見てきた『エル ELLE』とか『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』、『ポルトガル、夏の終わり』の強い主人公たちとはだいぶ違っていて、弱々しさが少し意外でした。でもエリーズ・ジラール監督はプレスリリースで「脚本を読んだ誰もがイザベルを思い浮かべた」とおっしゃっているんですが。

え、本当?

―シドニとユペールさんには、どのような共通点があるんでしょうか?

いろんなイザベルがいるってことかしら。私のある側面にシドニと似ているところがあるんでしょう。

―それはどのような?

シチュエーションで言えば、シドニはまったく知らない異国に来て何かを吸収するアンテナを張りめぐらせていて、彼女の驚きから生まれる面白さがあり、そうしたシチュエーションが映画では有効に働きますよね。韓国のホン・サンス監督も、西欧の女性が自国とはまったく違う韓国に来て、そのギャップから生まれるおかしみをよく使っているんですよ。

それに私はいつも、日本語にしても韓国語にしてもフィリピン語にしても、それぞれの国の言語が顔の表情に現れるのを感じるんです。それぞれの国の人々が話す表情と、フランス人である私の表情との違いやギャップみたいなものが表現できたんじゃないかしら。

『不思議の国のシドニ』©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM-IN-EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMÉLIA

―シドニは小説家という役で、ユペールさんは俳優として、どちらも物作りに携わっています。そうした共通点も感じられましたか。

そうですね。そこには共通点があると思います。作家と俳優は想像力が求められる職業で、もちろん作家は、すべて言葉で表せないといけないわけで、俳優は音や映像など映画の力を借りて感覚を観客に伝えます。自分たちの佇まいなどの些細なこと……存在そのものからそうした感覚を生み出すという点では、共通するところがあると思います。

―想像力が求められる職業という点で、例えば今まで『グレタ GRETA』みたいな極端な役柄、自分とはまったく違ったり、極端すぎて想像するのが大変なとき、その役柄に共感できるところをどのように探していかれるのでしょうか?

共感はしません。共感する必要はないと思います。でも、想像力は使います。『グレタ』を例に出してくださったので『グレタ』の話をしますが、グレタはモンスターみたいな人物じゃないですか? でも、きっと彼女の中にも何か傷があると想像するんです。精神分析ではないですが、やっぱり何か傷を負っているからシリアルキラーになっているんじゃないかという見方をしますね。ニール・ジョーダンがうまく演出してくれたとも思うんですが、その役柄を非常に興味深い人物だと考えます。役を掘り下げるアプローチはしませんが、「悪の裏側には何かがあるだろう」「100%悪という人間はいないだろう」というアプローチで演技しています。でも『グレタ』はジャンル映画だと思ってください。

『不思議の国のシドニ』©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM-IN-EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMÉLIA

―じゃあ、役の背景をご自分で考えるということなんでしょうか。

私はあまりその人物のバイオグラフィを作ったり背景を考えるタイプではなくて、「この人はこう」と直感で入っていくタイプなんです。『グレタ』の場合はああいう人物像だったので少し作り込みが必要でしたが、『シドニ』の場合は「私と近いところもあるな」という感じなので、その近さをトランポリンのように使って直感的に演じました。おそらく観客もグレタよりシドニに親近感を持ってくださるでしょうし、自然な形で受け止めてくださると思います。登場人物は最終的に映画を撮り終えてから出来上がるもので、撮っている間に「こういう人物像にしよう」とは思わないんですよ。

『不思議の国のシドニ』©2023 10:15! PRODUCTIONS / LUPA FILM / BOX PRODUCTIONS / FILM-IN-EVOLUTION / FOURIER FILMS / MIKINO / LES FILMS DU CAMÉLIA

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『不思議の国のシドニ』

フランス人作家シドニが、日本の出版社から招聘される。
見知らぬ国、見知らぬ人への不安がありながら、彼女は未知の国ニッポンにたどり着く。
寡黙な編集者・溝口に案内され、日本の読者と対話しながら、桜の季節に京都、奈良、直島へと旅をするシドニ。
そんな彼女の前に、亡くなった夫アントワーヌの幽霊が現れて……。

監督:エリーズ・ジラール
出演:イザベル・ユペール 伊原剛志 アウグスト・ディール

制作年: 2024