トランスジェンダー(※身体的性別と性自認が一致しない人)の実在するバレリーナにインスパイアされた、28歳の新人監督による長編デビュー作『Girl/ガール』が2019年7月5日(金)から公開! 数々の映画賞を受賞した感動作であり、衝撃的な描写で賛否両論を巻き起こした問題作だ。
第二のグザヴィエ・ドラン!? あるバレリーナと監督の交流から生まれた映画
「15歳のララの夢はバレリーナになること。しかし、それは簡単なことではなかった。彼女は男の体に生まれてきたから」
作品紹介の文章を読んで、いやいやいやいや! 女の体に生まれてきても滅多になれないでしょう! と、まず思う。人間が日常生活を送る上で決して必要としない動きも軽やかに美しく舞ってみせるプロのバレリーナは、体を徹底的に鍛え、人為的に変容させることが求められる過酷な職業だ。
『Girl/ガール』は、ホルモン療法をはじめとする医療処置によって生来の体の性を変えること、そして体を鍛錬してバレリーナになること、15歳の若さにして二重の試練に挑むトランスジェンダーの少女ララの物語である。
本作が長編デビューとなる1991年ベルギー生まれのルーカス・ドン監督によれば、この映画は現在ドイツで活躍しているトランスジェンダーのダンサー、ノラ・モンセクールにインスパイアされたものなのだそうだ。
2009年、映画学校に入学したばかりのドン監督は、新聞記事をきっかけにモンセクールを知った。「男らしさ」や「女らしさ」について思うところのあったドンは、当時まだ15歳にして自分は女性であると確信しバレエ学校に通うモンセクールに心奪われ、面会を申し込む。以来、ふたりは親交をあたため、モンセクールは本作の脚本執筆にも協力しているという。
トランス俳優が演じるべきだった? 映画で“性”を扱うことの難しさ
そうして2018年に完成した『Girl/ガール』は、カンヌ映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)、最優秀演技賞(ある視点部門)、国際批評家連盟賞の3冠を達成し、ゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートされるなど高く評価された。
しかしそれと同時に、トランスジェンダーの少女の役をシスジェンダー(非トランスジェンダー)の少年が演じていることに対しても、また作中の描写に対しても厳しい批判の声が湧き上がった。確かに、躍動する若い肉体の美しさに息を呑むと同時に、はたしてこれを称賛していいものか躊躇してしまう部分もある作品だ。
主人公ララを演じたヴィクトール・ポルスターは、アントワープのロイヤル・バレエ学校に通う2002年生まれの少年。長身に小さな頭、筋肉質かつしなやかな長い手脚、陶器のような肌、まっすぐなまなざし。どう見ても才能に恵まれ、それを磨いてきた若者であり、見る者の心を奪う。それこそ30年前のシャルロット・ゲンズブールのように熱烈なファンがつきそうだ。
一方で、物語の登場人物も演者も、まだ中学生の段階で自分の体に大きな負担をかける決断をしていることを「本人がそれを望んでいるから」という理由で受け入れてもいいものなのか、また、それが社会にどんな影響を与えるのかを考えるともやもやしてしまうし、クライマックスはショックを狙いすぎているのではないかとも思う。
何をおいても尊重されるべきは本人の意志
男でも女でも、性別に規定される「らしさ」にとらわれず、自分の好きなことを好きなようにやっていける社会を目指したい。性別二元制を解体したい。しかし、あいまいな性をあいまいなままにしておくのではなく、はっきりと男か女どちらかの一員でありたいと強く望んでいる人々もいて、その意志は尊重されるべきである。
それを大前提として、誰もが生きやすい社会を築くにはどうすればいいのか。性別の問題だけにかかわらず、どうしたら自分の思い通りにならない体を受け入れることができるのか。トランスジェンダーについて、芸術について、現代社会について、さまざまな角度からの思考を促し、いろいろな立場からの意見を聞いてみたくなる作品であることは間違いない。
文:野中モモ
『Girl/ガール』は2019年7月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
『Girl/ガール』
15歳のララの夢はバレリーナになること。しかし、それは簡単なことではなかった。彼女は男の体に生まれてきたから。
それでも強い意志と才能、全力で応援してくれる父に支えられ、難関のバレエ学校への入学を認められる。だが、初めての舞台公演が迫る中、ライバルからの嫉妬や思春期の身体の変化が、徐々に彼女の心と体を追い詰めていく。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
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