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MLBは“オータニ”だけじゃない!熱狂的ファンを持つ最弱球団が起こした奇跡を描く『オーロラの彼方へ』

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ライター:#谷川建司
MLBは“オータニ”だけじゃない!熱狂的ファンを持つ最弱球団が起こした奇跡を描く『オーロラの彼方へ』
『オーロラの彼方へ』© 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
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1969年のワールドシリーズを誰もが知っているからこそ生まれた名作映画

そんな1969年の“ミラクル・メッツ”は、だからこそメッツ・ファンだけでなく、アメリカ人なら知らない者はいない奇跡のチーム。そして、そのミラクルをサブ・プロットとして、父と子の絆を描き、もう一つの奇跡を描いた名作映画も作られた。

その映画は『オーロラの彼方へ』(2000年)で、物語の背景はワールドシリーズが開始される直前の1969年と、その30年後。――1999年、NYに30年振りにオーロラが発生したある日、ニューヨーク市警の刑事ジョン(ジム・カヴィーゼル)は、父の形見のアマチュア無線機を発見し、ある男と交信することに成功する。その男はなんと、30年前に死んだ父フランク(デニス・クエイド)で、しかもそれは、消防士だった父が救助中に殉職してしまう直前のことだった。

オーロラの彼方へ【字幕版】 [VHS]

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オーロラがもたらしてくれた奇跡。……それは、幼き日に突如死んでしまった、敬愛してやまなかった父と、もう一度会いたい、話したい、という夢が叶ったこと。だが、父は明日には死んでしまうと知っているジョンは、必死になって、自分が30年後の息子だと説明し、翌日の救助現場で命を落とさないよう、直感で選んだ脱出ルート以外のルートを選ぶように懇願するものの、フランクはどうしても信じてくれない。だが、翌日になって、ワールドシリーズでのメッツの戦いぶりが昨日ジョンの話していた通りなのをラジオで聞いていたフランクは、ジョンの助言を信じたことで命を落とさずに済む。

『オーロラの彼方へ』© 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

……タイムスリップ物の変形である本作は、このあと、タイム・パラドックスによって別の問題が発生するのを、無線を通じて30年の時空を超えて父と息子が協力して対処していくのだが、誰もが容易には信じられないほどのメッツの戦いぶりを、30年経ったあとでもジョンが鮮明に覚えていたからこそのもう一つの奇跡の成就なのだった。

『オーロラの彼方へ』© 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

映画『オーロラの彼方へ』が作られた1999年、筆者は当時NY在住で足繁くシェイ・スタジアムへ通ったが、メッツは1986年以来となるワールドシリーズ進出へあと一歩のところで敗退、と今年と同じ結果だった(翌2000年には進出するもヤンキースに敗れた)。

『オーロラの彼方へ』© 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

最弱球団ゆえに愛されてきたメッツの歴史

NYメッツがMLB史上最弱球団だったからこそ、球団創設8年目のワールドシリーズ初制覇がミラクルと呼ばれたことは既に述べたが、ではなぜ最初期のメッツはそんなに弱かったのか? その答えは明白だ。

元々、ドジャースとジャイアンツが西海岸へ去ったことで心にぽっかりと空洞ができたNYのかつてのドジャース・ファン、ジャイアンツ・ファンの夢を叶えるための市民運動として結実したNYメッツは、チームと共にロサンゼルス、サンフランシスコへ移っていった名選手たちを呼び戻す。そして監督には、宿敵NYヤンキースを12年間で10度のリーグ優勝、ワールドシリーズ制覇7回(1949~53年は5連覇)に導いた名将ケイシー・ステンゲルを据えた、正真正銘のドリーム・チームとして出発した。

しかし、元ブルックリン・ドジャースのギル・ホッジス、ドン・ジマー、デューク・スナイダー(1963年加入)らは、いずれも全盛期を過ぎ球団のプロテクトを外された下り坂の選手だった。ステンゲル監督をして「メッツの試合よりも酷いのはメッツのダブルヘッダーだけ」と言わしめた1962年のチーム成績は、40勝120敗の勝率.250というものだった。

勝率で言えば、1899年にクリーブランド・スパイダーズが.130(20勝134敗)、1916年にフィラデルフィア・アスレチックスが.235(36勝117敗)という不名誉な記録を残してはいたが、年間120敗というのは20世紀以降の近代ベースボールの歴史では年間最多敗数としてMLB史上に燦然と(?)輝くことになった。だが、メッツ・ファンは、そんな最弱チームであっても、いや最弱チームだからこそ、こよなくチームを愛し続けた。いつかチームが強くなってワールドチャンピオンになれる日を信じて――。

2024年、MLBでファンが固唾をのんで見守ったもう一つの記録達成とは?

さて、大谷翔平の記録がいろいろと取りざたされたMLBの2024年シーズンだったが、実はひっそりと年間最多敗記録が62年振りに更新された。

――すなわち、アメリカンリーグ・セントラル地区所属で、かつて日本の井口資仁、高津臣吾、福留孝介が所属していたシカゴ・ホワイトソックスが、シーズン最終成績で勝率.253、41勝121敗となり、勝率ではわずかに1962年のメッツを上回ったものの、年間121敗というMLB新記録を打ち立てたのだ。さてもベースボールは記録のスポーツだからこそ面白い!

文:谷川建司

『オーロラの彼方へ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年12月放送

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『オーロラの彼方へ』

1999年、NYにオーロラが発生したある日、ニューヨーク市警察の刑事ジョンは父の形見の無線機を見つけ、ある男と交信する。その相手は30年前に亡くなった父フランクで、その日は消防士だった父が事故死する、まさに前日だった! ジョンはなんとしても父を救おうとするが……。

監督:グレゴリー・ホブリット
出演:デニス・クエイド ジム・カビーゼル エリザベス・ミッチェル

制作年: 2000