これでもグロは控え目? ゴア描写から覗く巨匠サヴィーニの意匠
残酷描写については相変わらずで、映画が始まって5分も経たずに子供がバラバラにされる大惨事となる。いやー、やりすぎだろ! と思う方もいるだろう。しかし、監督のダミアン・レオーネはこう語る。
「テリファーはいつも“ライン”を攻めるよう求められるけど、観客を拒絶するようなことはしたくないんだ」
つまり『テリファー』シリーズの残酷描写は、実は“抑制されている”のだ。例えば、本作で子供がバラバラにされるが、その過程は一切映らない。これは1作目から一貫しているものだ。では、前作の寝室での生皮剥ぎはどうなのか? という話だが、これはジャック・ザ・リッパーの犠牲者メアリー・ジェーン・ケリーの死体からインスピレーションを得たもので、所謂ゴア好きへ向けたライン越えのチャレンジサービスである。
本作でも、『サイコ』(1960年)の非常に有名なシーンをブーストさせた強烈な殺人シーンがある。引用をメインに据えるのは、ダミアン自身が特殊メイクアップアーティストの大御所トム・サヴィーニ(本作でもどこかに登場する)を尊敬していることが関係しているだろう。
そのサヴィーニが特殊メイクを施す際に優先させているのが、“解剖学的に正しいこと”である。ダミアンはそれに倣っているというわけだ。とはいえ当然、トムもダミアンも観客を“楽しませる”ことを考えて残酷なメイクに携わっていたのは言うまでもないだろう。
意外な観客シェアに驚き! 世界的ヒットの理由とは
絶妙なライン攻め、アートの愉快な振る舞い、犠牲者たちに漂う陰鬱とした雰囲気……それらの要素により、たった20分の極低予算短編映画から始まった『テリファー』は、いまや大ヒットフランチャイズに変貌した。
本国アメリカでは初週の観客のうち39%が女性、さらには18~24歳が37%のシェアだったという。アート・ザ・クラウンが若い映画ファンのポップスターになるのも頷ける。それに合わせて宣伝も大胆なものになった。アート・ザ・クラウンを演じるデヴィッド・ハワード・ソーントンが、アートメイクのままモールに出没。買い物客にドッキリを仕掛けまくり、徹底的に“楽しさ”や“フレンドリーさ”をアピールしている。
また、タイアップ曲にメタルコアバンドのアイス・ナイン・キルズを起用し、スラッシーな音楽ファンにもリーチをかけた。おかげで全米とカナダのBoxOfficeで第1位にランクイン。これにはダミアンやデヴィッドも驚いたようで、オフィシャルインタビューで「嬉しいけど、さすがにちょっとおかしいよ……」と答えている。
そう困惑しながらも彼らはシリーズ完結に向け、よりダークに、よりコミカルにをモットーに、続く新作のプロットを書き上げているという。
今こそホラー復権のとき! 新たな恐怖のアイコン誕生を祝おう
マイケル・マイヤーズやジェイソン、フレディといったホラーアイコンは長い間、登場しなかった。だが今、我々はアート・ザ・クラウンという類を見ないホラーアイコンの登場を目の当たりにしているのだ。
日本においても、『テリファー 聖夜の悪夢』は絶賛プロモーション中だ。神社でのヒット祈願、フィギュア店やバーでのイベント、世界的人気バンドDIR EN GREYによるタイアップ曲――。近年、ホラー映画がここまで大っぴらに宣伝したことがあっただろうか? 昭和を彷彿とさせるぶっ飛んだやり方に、拒絶反応を示す従来ファンも多少いるようだが、本来ホラー映画は皆が楽しく観るためのものだ。地下室で体育座りをしながら、暗がりで観るものではない。
長らく“異物”として迫害されて生きたホラー映画が、アート・ザ・クラウンによって再び陽の目を見ることになった。その快挙を祝いながら、今年のクリスマスを迎えようではないか! ハッピーメリーコロシマス!!
文:氏家譲寿(ナマニク)
『テリファー 聖夜の悪夢』は2024年11月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開中
『テリファー 聖夜の悪夢』
ハロウィンの大虐殺を生き延びたシエナとジョナサンはトラウマに苦しみながらも人生を立て直そうと奮闘していた。しかし、街がクリスマスシーズンになり、聖夜を祝おうとする住民たちをよそに、アート・ザ・クラウンが再び姿を現し絶望のどん底に陥れる――。
監督・脚本:ダミアン・レオーネ
出演:ローレン・ラベラ、デヴィッド・ハワード・ソーントン、サマンサ・スカフィディ、エリオット・フラム、ダニエル・ローバック、クリス・ジェリコ ほか
制作年: | 2024 |
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2024年11月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開中