人気グループMIRRORメンバーの熱演に注目
本作は眼福もののキャスト陣、そして日本版の予告編から軽快な印象を受けるが、冒頭から苛烈な銃撃戦を見せることで、あくまでクライムサスペンスであることも強調する。とはいえ映画本編はテンポの良さがハンパなく、香港で社会現象となっている人気グループ<MIRROR>のメンバーがメインキャラを演じている点も、ヘビーなクライムものに不慣れな観客のハードルをぐんと下げる。
そのMIRRORのアンソン・ロー、イーダン・ルイ、ギョン・トウはアイドルとは思えないガチンコ俳優としての存在感を見せつける。そして本作の“無謀”を象徴する彼らに対し、豊富な人生経験からにじみ出る覚悟や諦観といった闇ビジネスの“逃れられない業”の部分を担っているのが、ルイス・チョンとマイケル・ニンの年長勢だ。もちろん日本からも田邊和也、笠原竜司、朝井大智といった面々が参戦し、中盤以降のゾクゾクするスリルに貢献している。
そんな登場人物のなかでも特に注目したいのが、韓国のチュ・ジョンヒョクと日本の高橋一生を彷彿させるイケメン、イーダンが演じる時計修理工のマーだ。同年同型の安い中古時計から使える部品だけを集めて1本の偽造品を仕上げているという役どころなのだが、精密な時計修理の一部始終を接写映像で見せるSNSアカウントなんかを観ている人ならば、分かりやすい解説セリフとともに時計が組み上げられていくシーンにワクワクが止まらないだろう。
いつもの東京が少し違って見える? アジア映画の魅力爆発
本作は、カンフーアクションにイメージされるような香港映画よりも広い間口で観客にアピールする。それでも、序盤のセリフにある“カネさえ払えばどんな時計も手に入る”という大仰な設定などは、香港の老舗っぽい店構えのおかげでリアリティがマシマシ。日本のセット撮影ではなかなか真似できない、東アジアから西欧まで様々な文化がごった煮された香港近代史が醸し出す無言の迫力といったところか。なお本作は日本での撮影パートも多く、狭い民宿での乱闘シーンやラーメン屋での食事シーンにおける“同じ皿を分け合う”東アジア的ムーブにほっこりする。
そしてやはり、分かりやすいキャラ造形――冷酷さを見せつける悪人、葛藤する気弱な善人、その狭間にいる未熟な若人――にも香港映画らしいケレンみがあり、かつ余計な詮索に頭を使わせない。物語上、彼らのミッション遂行までには様々な工作が必要となるが、その描き方のスピード感も抜群。序盤でのさりげない解説が活きていて、テンポの良さだけでなく観客を混乱させないための演出が随所に光る。
「高価な理由には時計そのものではなく、歴史的背景が重要」というムーンウォッチの価値観には、金品への執着から開放されるためのヒントがあるようにも思える。マーやヤンたち、そしてロウは、国宝級の時計争奪戦の果てに何を得ることになるのか? ぜひその目で確かめてほしい。
『盗月者 トウゲツシャ』は2024年11月22日(金)より渋谷HUMAXシネマ、池袋HUMAXシネマズほか全国順次ロードショー