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ニコラス・ケイジが後悔する「俳優が一番やってはいけない行為(笑)」とは?A24『ドリーム・シナリオ』インタビュー

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ライター:#斉藤博昭
ニコラス・ケイジが後悔する「俳優が一番やってはいけない行為(笑)」とは?A24『ドリーム・シナリオ』インタビュー
『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
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「僕は夢をたくさん見るタイプかもしれない」

父親の仕事も教授だったニコラス・ケイジは、ポール役に親近感をおぼえつつ、ヘアスタイルなど外見も大きく変えて演技に挑んだ。よほど気合いを入れて臨んだことがよくわかる。外見のチェンジも含め、どのように役にアプローチしたのだろう。

俳優の仕事は外見と内面をリンクさせること。外見が大きく変われば、朝から役に入り込み、その性格になりきれることを本作で試したかった。“ニック・ケイジ”という現実を一旦消し去るわけだ。ポールの雰囲気や、肉体の動き、声の出し方は普段の僕とまったく違うと思い、そのようにアプローチした。そこにリアルな感情を重ねた感じだ。

僕は俳優を始めた頃、自分の声にコンプレックスがあった。ジェームズ・キャグニーやハンフリー・ボガートのように声の響きで魅了する俳優になりたくて、ずっと声の出し方を実験してきて、それが今回も大いに役立ったんだと思うな。

『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

『ドリーム・シナリオ』は、夢が現実を侵食するというシュールな展開が作品の持ち味になっている。最初は“傍観者”として他人の夢に出ていたポールが、あるきっかけから危うい行為にも及ぶようになり、その結果、現実での周囲の対応、彼自身の言動もおかしな方向へ進んでしまう。「正夢」という概念を改めて考えさせられ、本作を観た多くの人が夢についてあれこれ妄想するに違いない。ではケイジは、夢と現実の関係についてどう思っているのか。

僕は夢をたくさん見るタイプかもしれない。子供の頃から、よく悪夢にうなされているのを両親に指摘されてきた。大人になってからは悪夢への対処法も考えるようになった。たとえば飛行機事故の夢が続いた場合、目が覚めた瞬間に事故に遭った人への同情で心を満たすようにする。そうすることで悪夢がトラウマにならなくて済むんだ。夢と現実のリンクや、夢が叶える魔法などは信じたいけど、冷静に考えれば無関係のような気がする。見たい夢を聞かれたら、妻や子供たちと一緒に過ごしている光景だけどね。

『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

「これまで演じた役は僕にとって、すべて“実験”の繰り返し」

ニコラス・ケイジを好きな人にとって、この『ドリーム・シナリオ』と重ねたくなるのは、彼が脚本ベスト5にも入れた『アダプテーション』かもしれない。ケイジが双子の兄弟を演じ分けた作品だが、弟の方は架空の存在で、アイデンティティが混乱する設定だった。現実と幻想、それぞれの自分が交錯する点がよく似ている。

この点についてケイジは、「監督のクリストファー・ボルグリが『アダプテーション』の大ファンで、チャーリー・カウフマン(同作の脚本家)の作風を意識したようだ」と振り返る。

『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

2024年に60歳を迎え、日本人妻のリコさんとの結婚生活も幸せいっぱい。この『ドリーム・シナリオ』でもわかるように、公私ともに順調なニコラス・ケイジ。改めて40年以上におよんだキャリアや、演技への向き合い方について、このように語る。

作品の成否は別にして、これまで演じた役は僕にとってすべて“実験”の繰り返しだった。以前は本番直前まで何度もセリフを練習したり、セットをうろうろ歩き回ったりもしていたが、ここ10年くらいは、監督の「アクション!」の声で瞬時にスイッチが入るようになった。『マッシブ・タレント』のように一歩間違えたら自虐で屈辱になるリスクのある作品も、何とかやりとげることができたしね。

今後のチャレンジとしては、シュールレアリズムや抽象的な表現をもっと取り入れて演技を完成させること。美術でピカソやアンディ・ウォーホールが達成したことに、俳優業で近づきたいんだ。

『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

このようになかなか壮大な理想を掲げるニコラス・ケイジにとって、今回のようなA24は最適のパートナーかもしれない。「A24は自由な発想の作品を成功に導く魔法を持っている。それが何なのか僕も知りたい」と話すケイジ。

今後の作品も、シリアルキラーを演じた『Longlegs(原題)』、中年サーファーが暴漢たちや野生動物によってとんでもない運命を強いられる『The Surfer(原題)』、NFLの名解説者、ジョン・マッデンに扮する『Madden(原題)』、シリーズ初の実写ドラマ『スパイダー・ノワール』の主人公スパイダーマン・ノワール役など、興味を掻き立てる作品や役が続々と待機。ニコラス・ケイジのこの快進撃を体感するうえでも、『ドリーム・シナリオ』は必見の一作なのである。

『ドリーム・シナリオ』© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

取材・文:斉藤博昭

『ドリーム・シナリオ』は2024年11月22日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

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『ドリーム・シナリオ』

ごく普通の暮らしをしている大学教授のポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)。ある日、何百万人という人々の夢の中に一斉にポールが現れ、一躍有名人となる。道ゆく人からもてはやされ、メディアにも取り沙汰されるようになり、夢だった本の出版まで持ちかけられ、ポールは天にも昇る気持ちだった。しかし、そんな夢のような日々は突然終わりを告げる。夢の中のポールが様々な悪事を働くようになり、現実世界で大炎上。その人気は一転、ポールは人々から一気に嫌われ者になり、悪夢のような日常が始まる。何もしていないのに人気絶頂を迎え、何もしていないのに大炎上したポールの運命は――!?

監督・脚本:クリストファー・ボルグリ
出演:ニコラス・ケイジ リリー・バード ジュリアンヌ・ニコルソン ジェシカ・クレメト マイケル・セラ ほか

制作年: 2024