「体がゆっくりと変化していく様を描きたかった」
―本作は父と息子の関係が主軸となっていますが、なぜ親子の関係をメインにしたかったのですか。
トマ:親が子に捧げる愛というのは絶対的なもので、そこに自分は惹きつけられるのです。その絆はとても強いもので、親にとっては自分の命を捧げるようなものでもある。でも誰もが、その絆はどのように終わりを迎えるかも知っている。つまり、子供はいつか巣立っていく。親の希望通りになるわけではない。否、むしろそうはならない。でも親はそれを受け入れ、旅立たせなければならない。そこで興味深いことは、親は子供にさまざまなものを伝達するけれど、それは一方通行なものではなく、親自身もまた子供によって変化させられるということです。映画のなかで、フランソワはエミールと同じぐらい精神的に変化していきます。
―ポール、あなたはこの役に関して身近に感じるようなところはありましたか。
ポール:そうですね……自分はいま22歳でこの役よりは年上ですが、自分自身もいろいろと変化している最中なので、そこは共感できるものがありました。また、他人に対して好奇心があるところもエミールと似ている。人と出会ったとき、多少意見が異なってもすぐに反論せず、まずは受け入れようとするようなところがあります。
―クリーチャーたちが独創的で、とても刺激的でした。また妙にリアルゆえに、可愛いというよりぞっとするといった方が適切な感じがしましたが、クリーチャーを創造する上でこだわった点を教えてください。
トマ:この映画の変容は、“奇病”としてあくまでリアリスティックなものです。魔法のようなものではありません。なので、体がゆっくりと変化していく様を描きたかった。鳥や動物などさまざまな新生物が出てきますが、おっしゃる通り、可愛さを求めたわけじゃなく、リアルに見えることが第一でした。それだけにクリエーションに関しては、なるべくCGIにこだわらず、生のマテリアルを使い、グリーンバックも使わずに、実際のロケーションで撮ることを念頭に置きました。
撮影の18ヶ月前からクリーチャーのコンセプトをスタッフと考え始め、撮影中も日々さまざまな改良をしていました。クリーチャーたちは日々変容していくという設定だからです。とくにトム・メルシエが演じたクリーチャーは、シーンごとに変化があるように、ヘアメークからアニマトロニクスまでさまざまな分野のスタッフが一丸となって、ハイブリッドなテクニックを用いて作りあげていきました。
「宮﨑駿や黒澤明、ヒッチコック、コーエン兄弟など、さまざまなタイプの映画が好き」
―こうしたオリジナリティのある作品がフランスで受けたことは、勇気づけられましたか。
トマ:そうですね、多くの人に評価されたのは嬉しい驚きでした。どこの国もそうですが、あるカテゴリーに入らないと映画をアピールしにくい、という傾向があります。でもこの映画はなんのジャンルかと訊かれたら、僕は答えられません。さまざまなテーマがあるから。でも、おそらく多くの人に受け入れられた理由は、ジャンルの混合を超えて、父と子という普遍的なドラマがあったからかもしれません。
僕は宮﨑駿や黒澤明や(アルフレッド・)ヒッチコック、コーエン兄弟など、さまざまなタイプの映画が好きですが、自分が作るのならこれまでに観たことがないような大胆なものを作りたいと思っています。
―ポール、あなたの映画の好みは? ご両親も俳優ですが(母は『ふたりのベロニカ』で知られるイレーヌ・ジャコブ)、小さい頃から映画を観て育ったのですか。
ポール:小さい頃、母がよく見せてくれたのはチャップリンや(フェデリコ・)フェリーニの映画でした。ルイド・フュネスの映画もたくさん観ました。そのあと自分で映画を観るようになって、ジェームズ・グレイやクシシュトフ・キェシロフスキ、その他さまざまな国の映画を観るようになりました。とくにグレイの『アンダーカヴァー』(2007年)が好きです。
取材・文・撮影:佐藤久理子
『動物界』は2024年11月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
『動物界』
近未来。人類は原因不明の突然変異によって、徐々に身体が動物と化していくパンデミックに見舞われていた。"新生物"はその凶暴性ゆえに施設で隔離されており、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。しかしある日、移送中の事故によって、彼らは野に放たれる。フランソワは16歳の息子エミールとともにラナの行方を必死に探すが、次第にエミールの身体に変化が出始める…。人間と新生物の分断が激化するなかで、親子が下した最後の決断とは――?
監督・脚本:トマ・カイエ
出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス
制作年: | 2023 |
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2024年11月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開