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「人間が動物化する奇病」とは?感染症や移民問題の”隠喩”込めた『動物界』気鋭監督&主演俳優インタビュー

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ライター:#佐藤久理子
「人間が動物化する奇病」とは?感染症や移民問題の”隠喩”込めた『動物界』気鋭監督&主演俳優インタビュー
『動物界』© 2023 NORD-OUEST FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS.
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フランス発SFスリラー『動物界』インタビュー到着

2023年のフランス映画においてもっともユニークな1本で、動員116万人を記録したヒット作が『動物界』だ。近未来を舞台に、人間が徐々に動物化していく奇病が蔓延する世界を描く。

原因不明の病が広がるなか、入院中のフランソワ(ロマン・デュリス)の妻も、その症状に冒されていた。凶暴化を恐れて、政府は田舎の施設に彼らを隔離することを決定。だがフランソワの妻の乗った車が輸送中、事故に遭い、乗っていた者は森に消える。妻の行方を追って、フランソワは息子のエミール(ポール・キルシェ)を連れ、事故エリアに引っ越す。だがそんな折、エミールの体にも変化が出始めてしまう。

『動物界』© 2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS.

本作はディストピアを描く単純なパニック・スリラーではなく、親と子の絆、個人と社会、集団のなかに同化しきれない異なる存在、といったさまざまなテーマとメタファーを内包する。また、できる限りオーガニックに作り上げたという“新生物”たちのクリエーションが、リアルな怖さにあふれる。

いま注目の俊英、トマ・カイエ監督と、今年のヴェネチア国際映画祭で新人俳優賞を受賞(『Leurs Enfants après eux(原題)』)したばかりの、人気急上昇中のポール・キルシェに話を聞いた。

ポール・キルシェ、トマ・カイエ監督(撮影:佐藤久理子©Kuriko Sato)

「観る人が自由に解釈できるように。それが寓話的ファンタジーの強み」

―とても独創的なパンデミック映画ですが、どんなところから発想を得たのでしょうか。

トマ・カイエ(以下、トマ):2018年に、『Ad Vitam(原題)』という不死がテーマのドラマシリーズを撮っていて、そのときにずっと〈死〉について考えていました。それで次は、生きている人について考えるものをやりたいと思っていたのです。その頃、映画学校で生徒に教える機会があり、脚本科の生徒で、本作の共同脚本を担当したポリーヌ・ミュニエと出会いました。彼女が動物と人間のハイブリッドの話を書いていて、今日の社会のメタファーとしてとても面白いし、現代的だと思ったんです。それで一緒に長編としての脚本を書き始めました。

〈突然変異〉のコンセプトで自分の興味を引いたものは、それによって異なるアイデアを結びつけられることです。たとえば父と子の関係。エミールは大人になるにつれ、細胞が変化して動物になる。それによって父と子の関係も変わる。また、個人の変化を反映して社会も変わる。人口も変わるし、彼らを受け入れる人とそうでない人が出てくる。愛と暴力、両方があるので、それについて語ることができるのも魅力でした。

『動物界』© 2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS.

―異なる者が受け入れられにくい、今日の移民社会のメタファーとも言えますね。

トマ:もちろんそれもあります。あと観客からよく指摘されたのは、性的なトランジションに関するメタファーです。〈変容〉のテーマが面白いのは、個人として、社会としての問題提起があること。同時に、生きている人と死んだ人、人間と動物の関係にも疑問を投げかける。でも脚本を書いているときに気をつけたのは、ひとつの回答だけを与えないようにすることです。観る人が自由に解釈できるように心掛けました。それが寓話的ファンタジーの強みだと思います。

『動物界』© 2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS.

―(ポール・キルシェへ)あなたはそういった様々なテーマをはらんだこの脚本を読んで、どんな点に惹かれたのでしょうか。

ポール・キルシェ(以下、ポール):僕が惹かれたのは冒険的な要素です。父と子の冒険。引越して新しい人生が始まる。それからエミールは森へ出て、自分と同じようなミュータントに出会う。いま監督が言ったように、人間と動物のハイブリッドもメタファーとして面白いと思いました。自分の体が変化していくことによって、父や友だちとの関係が変化していく。エミールは比較的幸福な子供時代を過ごしてきたから、いま新しい視点で社会を見ることを学ぶ。自分に起こっていることに驚きながらも、懸命に生きようとする。とても興奮させられる役柄でした。

『動物界』© 2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS.

―動物的な身のこなしを得るために、ダンスの振り付けのレッスンも受けたと聞きました。

ポール:はい。コーチと一緒に動きなどを生み出していきました。エミールの変化は、最初は些細ですが、内側からも徐々に変わっていきます。それによってこれまでとは違うこと、異なる空間に興味を持つようになる。その変化を表現していくのも刺激的でした。

『動物界』メイキング © 2023 NORD-OUEST FILMS – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINÉMA – ARTÉMIS PRODUCTIONS.

次ページ:トマ監督は宮﨑駿も大好き! 動物化する「奇病」の意味とは
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『動物界』

近未来。人類は原因不明の突然変異によって、徐々に身体が動物と化していくパンデミックに見舞われていた。"新生物"はその凶暴性ゆえに施設で隔離されており、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。しかしある日、移送中の事故によって、彼らは野に放たれる。フランソワは16歳の息子エミールとともにラナの行方を必死に探すが、次第にエミールの身体に変化が出始める…。人間と新生物の分断が激化するなかで、親子が下した最後の決断とは――?

監督・脚本:トマ・カイエ
出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェ、アデル・エグザルコプロス

制作年: 2023