「クモは“自分を守るため”に行動しているだけ」
―クモがとてもリアルです。CGより物理的なエフェクトの威力が大きいと思いますが、どのような工夫をされましたか?
200匹ほど本物のクモを使ったよ。できるだけ本物のクモのビジュアルを使いたかったからね。それに、光を嫌うという設定にして不気味さも強調した。でも、予算的に“量”が稼げない。そこで音響でカバーしたんだ。「カサカサカサ……」ってね。
―クモの特殊能力も面白いと思います。毒も強烈で、メチャクチャ大きくなりますし、子グモがバーっと散らばる場面はゾッとします。
クモの能力は、自然の摂理から着想を得ているんだ。生き物は捕食者に対抗するために進化する。これまで作られてきたクモ映画のほとんどは、クモが人を襲うものだったよね? でも本来、クモが人を襲うことはないと僕は思っている。本作のクモも、自分を守るための行動をとっているだけなんだ。人だってそうだよね?
―監督からクモへの並々ならぬ愛情を感じます……。
生き物はすべて大好きだよ! クモは刺したり噛んだりするけど、さっき言ったように生き物は“生きるため”に行動しているだけなんだ。だから愛でてあげるのは大事なことだよ。クモが嫌いなキャストもいたんだけど、撮影終盤には手の上に乗せて撫でるくらい慣れてくれた。というのも、彼らがクモの生態を知ったからさ。知ることは大事だよ。クモやヘビといった嫌われ者たちのことを、もっと知ってほしいと思う。“知る”は、本作のテーマでもある“外見で判断する”へのカウンターにもなる。
「フランスではいまだにホラー映画は作家主義作品のサブジャンル」
―本作の舞台となるアパートは、個性的な形をしたピカソ・アリーナですね。ここを舞台とした理由はなんですか?
2つの意味があるんだ。一つは簡単で、「エンタメとして面白い」だね。知っているものを登場させるのは重要だと思う。舞台が身近に感じられるし。もう一つは、外見と中身の違いだね。“中身”を知らないかぎり何も変わらない――そういう意味を込めた。フランスでは老朽化した建物の問題が多々あるんだ。取り壊すのか? 壁を塗り替えるのか? みたいなね。でも、中身を変えないかぎりは何も変わらない。それでピカソ・アリーナを使ったんだ。
―テーマ性も明確で、かつエンタメ要素もあるホラー映画に仕上がっていますが、フランスにおいてホラー映画の立場は最近、変化しましたか? 以前、パスカル・ロジェ監督(『マーターズ』[2008年]ほか)が「フランスにおいてホラーはポルノ以下の扱いだ」と仰っていましたが……。
ロジェの言うとおりで、今でも立場は変わってない(笑)。フランスは作家主義の作品がメインだからね。ホラー映画はジャンルとして確立されていなくて、作家主義作品のサブジャンルという扱いだよ。『スパイダー/増殖』もエンタメ要素と社会批判といったテーマを前面に押し出しているし、こういった作品を作ることは大事だと思う。でも、いつかフランスで堂々としたホラー映画を作ってみたいね
―ヴァニセック監督は『死霊のはらわた』(1981年)のスピンオフを撮られるとのことですが、プレッシャーはありますか?
そりゃプレッシャーはあるよ!『スパイダー/増殖』を観たサム・ライミが僕に声をかけてくれたんだ。まだストーリーを練っているところだけど、とてもパーソナルな作品になるかもしれない。『スパイダー/増殖』と同じスタッフで作れるし、予算も大きくとれた作品だから、楽しみに待っていてよ!
――単純なクモ映画としても、シニカルな社会派サスペンスとしても楽しめる『スパイダー/増殖』。セヴァスチャン・ヴァニチェク監督の次作は『死霊のはらわた』スピンオフとのことで、これからの活躍を期待しつつ、クモを愛でるため劇場に足を運んでみてほしい。
取材・文:氏家譲寿(ナマニク)
『スパイダー/増殖』は2024年11月1日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『スパイダー/増殖』
パリ郊外。
団地で暮らすエキゾチックアニマル愛好家のカレブはある日、珍しい毒グモを入手。
しかし、クモは脱走してしまい、瞬く間に繁殖・増大し、次々と住民たちに襲い掛かる。
「謎のウィルスが発生した」と判断した警察によって建物は封鎖されてしまい……。
監督・脚本:セヴァスチャン・ヴァニセック
製作:ハリー・トルジュマン
脚本:フローラン・ベルナール
出演:テオ・クリスティーヌ ソフィア・ルサーフル ジェローム・ニール リサ・ニャルコ フィネガン・オールドフィールド
制作年: | 2023 |
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2024年11月1日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開