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「昔の放送事故」はシャレにならない!地獄に堕ちた生テレビの恐怖を描く『悪魔と夜ふかし』豪の気鋭監督インタビュー

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「昔の放送事故」はシャレにならない!地獄に堕ちた生テレビの恐怖を描く『悪魔と夜ふかし』豪の気鋭監督インタビュー
『悪魔と夜ふかし』©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
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「僕らの描くユーモアや怖さは、自然に出てきてしまうもの」

―お2人はこれまで『モーガン・ブラザーズ』(2013年)や『スケア・キャンペーン』(2016年)といった、楽しいコメディホラーを監督されてきました。その点、今回の『悪魔と夜ふかし』は、70年代を舞台にコンセプチュアルでどこか悲しみとユーモア、そして恐怖の3つのラインのギリギリを攻めているように感じました。このバランスはどのように計算されているのですか?

コリン:「攻めている」と思ってくれて嬉しいよ。知っての通り、映画を作ることは簡単なことじゃない。一定のやり方は確立されているけど、他の人たちと同じことはしたくないよね。でも、僕らは映画を信じているし、作り手として映画に心血を注いでいる。だから極力オリジナリティを出したいと思っているんだ。そこで今回は、本当にあらゆる面でギリギリのラインを狙った。それに観客のみんなが“ノって”きてくれるかどうかが難しいんだけど、今回は脚本を沢山の人に読んでもらい、リライトを繰り返したんだ。その上で、僕らの映画に対する作家的素養を入れ込んだのが『悪魔と夜ふかし』だよ。

『悪魔と夜ふかし』©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

キャメロン:僕らはジョークなしの映画なんて撮れないよ(笑)。それに「シリアスなだけの映画を撮れ」と言われたら、相当苦労するんじゃないかな。僕らの描くユーモアや怖さは、自然に出てきてしまうものだし、人を驚かせたり笑わせたりするのが大好きなんだ。今回の『悪魔と夜ふかし』の味付けは濃いとは思うけど、その味を観客に押しつけるまではしたくなかった。そういう意味でもラインを攻めたんだ。観客のみんなが自由に本作の“楽しいところ、怖いところ”を見つけてくれたらいいと思う。

『悪魔と夜ふかし』©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

―70年代のトークショーをかなり研究されていますね。特にジャックが登場した後、“バミり”の位置を確認するのがとても気に入っています。どんな番組を参考にされたのですか? 日本では海外のようなエンターテインメント・トークショーがあまりなかったため、ぜひ伺いたいです。

コリン:バミりの話ね! あれは60年代後半から90年代まで活躍したTV司会者、ディック・キャヴェットの動きを完コピしたんだよ。YouTubeにもあるから、ぜひ観てみてほしいな。あの頃はディックとジョニー・カーソンがアメリカの人気司会者だったから、彼らの動きをじっくりと研究したよ。

でも一番参考にしたのは、僕らの国(オーストラリア)のTVショー『The Don Lane Show』だね。ドーンもアメリカ人なんだけど、当時のオーストラリアのTV業界ではアメリカほどのクオリティのTVショーを作ることができないと考えたのか、アメリカから彼を呼んだんだ。『The Don Lane Show』は本当に面白くて、TVにかじりついて観ていたよ。番組でやっていた企画もオマージュとして盛り込んでいる。

キャメロン:残念ながらドーンは亡くなってしまったけど、彼の魂は『悪魔と夜ふかし』の中で生き続けているよ(笑)。

憑かれる少女リリー演じた「この子、怖い」感じる気迫

―70年代を再現したセット、カラーグレーディング(※フィルムの色を詳細に調整すること)は見事でした。後から色彩効果をつけることも可能だったでしょうが、どうも機材から古いものを使っているように思えます。実際いかがですか? そして70年代風を再現するために、もっとも苦労した点は?

コリン:そう思ってくれて嬉しいんだけど、実のところ98%は現代の機材を使っているんだ。本当は当時使われていたチューブカメラを使いたかったんだけど、さすがに不便すぎて断念したんだよ。でも、なるべく再現しようと撮影時点で色々な工夫はしているよ。カメラマンが嫌がるほどズームを多用したり、当時のテレビカメラを乗せていたような可動式のカメラ台を使ったりね。

あとは……照明にタングステンライトを使ったよ。今ではあまり使われないから中古でたくさん買い集めてね。でも、キャストには苦労かけちゃったなあ。なんと言ってもタングステンライトを当てられると暑いんだ。あと、やり過ぎないように注意はしたね。過剰なレトロ感はミュージックビデオみたいになっちゃうから。カラーリストのニックには本当に頑張ってもらった。一度「どうやって、この色味を出したんだい?」と聞いたんだ。でも、言っていることが高度すぎて僕らにはさっぱり理解できなかった(笑)。

『悪魔と夜ふかし』©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

―中心となる司会者ジャック・デルロイを演じたデヴィッド・ダストマルチャンは、楽しんで演技をされているように見えました。なにか彼からアイディアが出て、採用された部分はありますか?

コリン:デヴィッドとの仕事はすごく楽しかった。ジャックから闇の部分を取り除くと、デヴィットになると言ってもいいくらい、そのままのキャラクターの持ち主だったしね。映画冒頭部分のモンタージュは僕らの友達を呼んできて撮ったんだけど、ほとんどアドリブでいけるくらい馴染んでいたよ。

それからジャックの相棒ガス(リース・アウテーリ)とのバディ感も素晴らしかった。2人は作中で7年間も苦楽をともに番組を作り上げていった仲だよね。あの阿吽の呼吸はなかなか出せるものじゃないよ。そもそもデヴィッドの芝居の根底には即興コメディがあるから、この映画にピッタリだった。だから撮影していて安心感があった。素晴らしい役者だよ。

『悪魔と夜ふかし』©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

―リリー役のイングリッド・トレリも素晴らしかったです。「カメラを好きなだけ見つめる」という逸脱した行為を始め、一人だけ余裕と貫禄がありますね。

コリン:イングリッドには、役者として「リリーはどういうキャラか」を考えてもらったんだ。「リリーは“純真だけど時折、悪魔が顔を出すキャラクター”なのか、はたまた“悪魔が純真無垢な少女を演じているのか?”――どちらかを選んで演技して」とね。僕らは答えを聞いていないけど、映画を観てもらえば明らかだと思う。僕らの問いかけに対して懸命に答えを出している彼女の芝居を見ていると、とっても楽しかったよ。カメラ目線もイングリッド自身がカメラを観ることで得られる力に気がついてやってくれたおかげで、「この子、怖い」という画が撮れたと思うよ。

『悪魔と夜ふかし』©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

―(ここから筆者が直接英語で)ああ、もう時間がきてしまいました。もっと話したいけど……“事は成された!”

コリンキャメロン:そうか時間か残念。“事は成された!” 君、ちょっと面白いね。

 

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20世紀のTVの再現、ホラー、そしてコメディ。あらゆるエンターテインメントが渾然一体となった『悪魔と夜ふかし』。色々な元ネタを知っていると楽しめるかもしれないが、何も知らなくてもデヴィッド・ダストマルチャンが司会のTVショーとして十分に楽しめる作りになっている。映画が気に入ったら、20世紀のTVや世紀末カルチャーを深掘りして当時を追体験してほしい。

『悪魔と夜ふかし』は2024年10月4日(金)より全国公開

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